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遂に決定?日銀正副総裁人事

報道(*1)によりますと、黒田東彦日銀総裁の後任人事が固まったようです。
(*1)日銀新総裁に植田和男氏を起用へ 初の学者、元審議委員: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB106UI0Q3A210C2000000

日本経済新聞が報じていた「雨宮副総裁」の昇格人事は消えてしまったようです。人事案の持つ意味、総裁候補の方のスタンスを考えてみました。

■ポイント

1.脱アベノミクスの人事案
2.七方美人の総裁誕生?!
3.経済安定化、雇用環境に懸念

1.脱アベノミクスの人事案

第二次安倍政権から行われたアベノミクスは、官僚任せにしていた経済政策(特に金融政策)を、政治・国民の手に取り戻した、と僕は理解しています。これにより、雇用環境は失業率の低下、有効求人倍率の増加、時間当たり賃金の上昇などの改善を見ました。
今回の人事案は、植田和男氏は学者ですが、二人の副総裁の経歴を見ると、前金融庁長官、日銀理事ということで、(みなし含む)官僚色が強く、リフレ派と呼ばれる方は選ばれることはありませんでした。

"副総裁には氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起用する。現在の雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の任期は3月19日まで。政府は黒田氏の後任総裁として雨宮副総裁に打診したが、同氏は辞退した。"(*1)

報道(*1)を見る限り、雨宮副総裁には打診した、とありますが、リフレ派の若田部副総裁への打診は無かった、とも読み取れます。
財務省・岸田文雄政権になってからは、日本銀行の政策委員の人事案でも、財務省の「国の債務管理の在り方に関する懇談会」のメンバーを務め、消費増税に賛意を示していた高田創氏を選んでいます。リフレ派排除と、財務省寄りの人選が目立つ印象を持っています。

2.七方美人の総裁誕生?!

日銀総裁候補とされる植田和男氏とは、どのような考えを持った方なのでしょうか。
植田氏が、日本経済新聞の「経済教室」に寄稿された内容を見ると、一見、バランスが取れた議論をなさる方、という印象を受けます。

植田和男氏の金融政策方針は? 「経済教室」まとめ読み: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD1088B0Q3A210C2000000

浜田宏一氏は、著書の中で
"植田和男氏からは「金融政策が効くか効かないかと両者のバランスをとって議論するのではなく、先生のように効くと決めつけている人とは議論できない」"
と、取材を断られたエピソードを紹介されています。

著書:21世紀の経済政策 https://amzn.to/3RMI9fD (浜田宏一, 2021.06.30)

田中秀臣氏の解説動画を見る限り、中央銀行が担う
a. マネタリーポリシー(金融政策) ≒ 雇用政策
b. マクロプルーデンス(金融システムの安定)
のうち、後者をより重視した方だと受け取ることができました。

動画:日本銀行新総裁(仮)の植田和男氏って誰? 岸田検討使とアベノミクスの継続は? https://youtu.be/Y646vFmCOPE (田中秀臣, 2023.02.10)

財政・金融当局などを刺激し過ぎないバランスが取れた議論をなさる一方で、経済安定化政策の一つである金融政策(≒雇用政策)に対する植田氏のスタンスに対しては、僕は疑問を持っています。

その理由は、大きく2つです。
1) 日銀のゼロ金利解除への反対と、その後の翻意
2) バーナンキからの低評価

1) 日銀のゼロ金利解除への反対と、その後の翻意

植田氏は、速水日銀がゼロ金利解除を決めた 2000年8月11日の金融政策決定会合において、確かにゼロ金利解除に反対票を投じました。
しかし、ゼロ金利解除の速水議長案の採決に先立ち、日本の経済環境を懸念した政府出席者から、議決延期の申し入れがありましたが、これには反対票を投じています。
日銀のボードメンバーの多くがゼロ金利解除に賛成で、反対しているのは、中原伸之氏と植田氏の少数派でしたので、議決延期をしなければ、ゼロ金利解除になることは明らかでした。

2000年8月11日の金融政策決定会合の議事録
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2000/gjrk000811a.pdf

そして、この会合の次の金融政策決定会合では、ゼロ金利解除した金利を現状維持する速水議長案に賛成しているのです。
8月の会合では、市場動向に対する懸念、需給ギャップがある可能性からゼロ金利解除に反対されましたが、翌月の会合では、以下の説明をしたうえで、ゼロ金利解除を容認する態度になっています。

"株価も依然として不安定であるし、もの凄く下がっている訳ではないが、物価も弱含みであるので、今回もゼロ金利維持に投票したような気がする。
しかし今回は0.25%の現状維持に賛成である。理由は簡単なことであり、ゼロ金利解除は私の見方ではやや早すぎた解除、あるいは利上げだったと思うが、だからといって上げた直後に大きな経済情勢の変化なしに直ちにまたゼロに戻すと、日本銀行は何の定見もない中央銀行であるという評価を受け、その金利引き下げから大した効果も期待できないと思う。

2000年9月14日の金融政策決定会合の議事録
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2000/gjrk000914a.pdf

2) バーナンキからの低評価

ノーベル経済学賞を受賞したバーナンキが「ジャンク」と評価した意見を示しておられた日銀審議委員のお一人の中に、植田和男氏が含まれていたと思われます。

高橋洋一氏によると、
"1998年から2001年まで米プリンストン大学に客員研究員として留学していた。その当時のプリンストン大は、後に米連邦準備制度理事会(FRB)議長となるベン・バーナンキ氏や、ノーベル経済学賞を受賞するポール・クルーグマン氏、スウェーデン中央銀行副総裁となるラース・スベンソン氏、元FRB副議長のアラン・ブラインダー氏らという世界一流の金融政策の大家が多く在籍しており、毎週のセミナーでは、なぜ日本がデフレなのかなど興味深い話題について活発に議論していた。
 筆者もそのセミナーに参加したが、ある日、当時の日銀政策決定会合の議事録を英訳し議論した。そのとき、参加者の一人が、「日銀委員の意見はみんなジャンク(がらくた)だ。ただし、中原氏のものを除く」と発言した。中原氏だけがインフレ目標の話をしていたからだ。"

【日本の解き方】中原伸之氏が遺した大きな功績 マクロ経済政策の知見でインフレ目標を早くから提唱、アベノミクス導入で失業者救う
(高橋洋一, 2021.11.16)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/211116/dom2111160002-n1.html

植田和男氏は、1998年4月~7年間、日本銀行の政策委員会の審議委員を務められました。
中原伸之氏は、1998年4月~2002年3月末まで、日銀審議委員を務められた。
バーナンキらが議論していた時期に、中原氏が在任中であった時期には、植田氏も在任中であり、ジャンクなご意見をなさっていた、とバーナンキから評価を受けていた、と受け取れます。

3.経済安定化、雇用環境に懸念

日銀審議委員を務められた原田泰氏によると、
"東大の植田和男教授は、通常の歓迎スピーチの機会に、わざわざメモを用意して、「長期金利の0%の金利のペッグ(マイナス金利政策とイールドカプ・カーブ・コントロールで、長短金利をある程度固定していることをベッグと表現したーー筆者注)がハイパーインフレを引き起こす。金融機関経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」と述べた"
そうです。(どこかで、似たようなご発言をなさっている伝説のト…がいたような)

現実が、植田氏の発言を否定しています。
日本のような先進国で、物価目標を保持している中央銀行があるにも関わらず、ハイパーインフレ、というような非現実的なことを口にできるのは、
a). ポジショントーク
b). 悪意がある
c). 素人が覚えたてのカッコいい言葉を使ってみた

のどれかくらいしか、僕は思いつきません。

デフレと闘う-日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間
https://amzn.to/3RRQSgv (原田泰, 2021.06.21)

審議委員時代の講演も今後チェックしたいと思います。

植田和男審議委員 講演・挨拶等
https://www2.boj.or.jp/archive/announcements/press/koen_speaker/bm_ueda/index.htm

日銀総裁の人事案に関する報道が出ただけの段階ですが、植田和男氏が早くもインタビューを受けて、コメントされています。

 【ノーカット速報】日銀総裁起用固まった植田和男氏インタビュー「説明分かりやすくする必要」|TBS NEWS DIG https://youtu.be/qzroYRD_o5Q

雇用政策ともいえる金融政策への植田和男氏のスタンス、
次の日銀総裁への影響力が強いと思われる財務省・岸田文雄政権、
総裁を支える二人のテクノクラート出身の副総裁、

経済安定化、雇用環境への懸念は消えません。
物価安定目標に関する政府との共同声明があるなど、急激な政策変更は難しいかもしれませんが、先行きが心配です。

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