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2023.02.19日曜討論/リフレ派無双

日本経済、特に雇用環境に大きな影響を与える金融政策について、リフレ派の岩田規久男さん、片岡剛士さん、旧日銀に在籍されていた河村小百合さん、早川英男さんによる討論がありました。
日本経済に資する部分を文字起こしいたしました。
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日曜討論 日銀新体制へ 金融緩和の行方は
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2023021903621
初回放送日: 2023年2月19日

日銀新体制で金融政策の行方は?前日銀副総裁や専門家が徹底討論
▽新体制の課題は?
▽異次元金融緩和の10年をどう評価?今後のあり方は?
▽物価や住宅ローンへの影響は?

【ご出演】(敬称略)
前日銀副総裁 岩田規久男 https://amzn.to/3XHyHeL
PwCコンサルティングチーフエコノミスト、前日銀審議委員 片岡剛士 https://amzn.to/3Ia1FhD
日本総研主席研究員 河村小百合 https://www.jri.co.jp/staff/detail/kawamurasayuri/
東京財団政策研究所主席研究員 早川英男 https://www.tkfd.or.jp/experts/detail.php?id=620
(キャスター 伊藤雅之 星麻琴)

※括弧内は、筆者による補記

3分過ぎ~日銀正副総裁人事案への評価

(元審議委員で経済学者の植田和男氏(71)、副総裁には内田真一日銀理事(60)と氷見野良三前金融庁長官(62))
岩田規久男(以降、【岩】):植田さんが、どんな金融政策をするか、分からないんですけれども、一番わかるのは、昨年の7月6日の日経新聞に出た論文で「日本、拙速な引き締め避けよ」(*1)というのがあるんですけれども、今の金融政策は緩和続ける、というようなことを仰っていたけれども、でも見直す、とも仰っていて、これは。今やっている長短金利操作付き、という、いわゆるYCC(イールド・カーブ・コントロール)と言われていようですけれども、それを変えていくと。
彼(植田和男氏)の考えでは、短期の金利を中心にして、5年以上ぐらいの国債はもう買わないで、市場の決定に任せるということなんですけれども、ね。まあ、そうすると、どうしても、中長期の金利はアメリカの金利に左右される、といって、(日本の中長期の国債金利が)上がる、というふうになります。そうなると、2%の物価と、経済に下押し圧力を与えるし、余りにも円高になり過ぎる、ということで、経済下押しがあって、2%の物価の目標というのは遠ざかる、というのを心配しています。

5分30秒~日銀正副総裁人事案で出身が異なる(学者、日銀、金融庁)への評価

片岡剛士(以降、【片】):当初はサプライズ人事というふうに言われた訳ですが、これはメディアの方がですね、ある意味、この方と、この方という形で、非常に、前提として、こう人事(案)を出して、それが何か、さも当然かのような形で進んだ側面があると思うんですけれども、やはり、官邸の中でですね、こういう人事を決めているというのは、非常に少数の方が決めている、というところが、今回も明らかになったのかな、というふうに思います。で、先ほど、早川さんが仰ったようにですね、お三方それぞれですね、非常に個性があるというか、役割分担というのが、しっかりしている、というような気がするんですね。で、ひとつは、日銀副総裁にノミネートされている内田さん、この方は、元々日銀の2013年以降のですね、量的・質的緩和を主導してこられた方の1人だと思いますので、ですから、この方が金融政策としては1つメインになっていくのではないかな、と思いますし、それから、氷見野さんにつきましては、金融のプルーデンス政策(*2)という形のですね、金融機関に対する政策というものを、しっかりと舵取りをしていく役割。
それから、全体として植田さんがオーサライズする、という流れですね、非常にサプライズ人事ではあったと思うんですが、批判しづらい人事でもあるのかな、そういう意味で手堅いというふうに言えるのかなと思っています。

8分頃~新体制の課題を問われ

【片】私はまず日銀としてはですね、2%の物価安定目標を達成すべく、現行の金融政策を行っている状況ですので、2%の物価安定目標をしっかり達成する、ということが先ずは課題になってくる、と思います。ですので、冒頭で植田さんの記者会見といいますかインタビュー(*3)の模様が出ていましたけれども、やはり、その現行の金融政策は正しい、それから、それを当面は踏襲する、という話を仰っていましたので、先ずはそこが基本になるのかな、という認識ですね。そこから、金融引締めとか、その次のフェーズにどう移っていくのか、というところが重要になりますけれども、個人的にはですね、あまり次のフェーズを意識しすぎると、そもそもの目標を達成できなくなるんじゃないかな、と、そういうところをちょっと心配しています。

9分30秒過ぎ~新体制の課題を問われ

【岩】さきほど言ったように、(植田和男氏は)金融緩和を続けると仰っているけれども、YCCには修正が加わる可能性がある、ということで、中長期の国債など金利が上がる可能性があると先ほど言ったんですけれども、実は日銀のエコノミストによる総括的検証(*4)というのがあってですね、このイールドカーブのコントロールは、均衡イールドカーブというのを計算するんですけれども、その研究が進みましてですね、今のイールドカーブの形状がですね、一番、2%の目標に達成する可能性が高い、という実証的・理論的研究をふまえているので、アバウトにこう、これぐらいにしたら良いんじゃないかという話じゃないんですよね。ここは、短期金利を昔は操作していたけれど、今度、全体のもっとイールドカーブをコントロールするとの違いなんですね。
で、これを作って、執行部に案をもともと出して来るのが、(副総裁候補の)内田さんがやってた(日銀)企画局(*5 通貨及び金融の調節に関する基本的事項の企画・立案)、(内田さんが)企画の局長やってらっしゃって、作った、一番信頼してやった人なんですからね、ですから私は、これを堅持すると、しばらくですね、2%の安定にはこれ(YCC)が必要だ、ということを、むしろ、(内田さんが)植田さんに進言して欲しい、というふうに思っています。

12分後半~黒田日銀の2013年のQQEが何故必要だったかを問われ

【岩】アベノミクス、三本の矢というんですけれども、基本的には金融政策一本(足)打法なんですよね。で、財政の方が14年と19年に2回増税して、かつ、財政基礎収支(プライマリー・バランス)の黒字化を急ぐというんで、緊縮財政なんですよ。
で、量的・質的緩和というのを始めたのは2013年の4月なんで、その翌年に増税すればね、まだ、日本経済、言ってみれば、手術をして入院中なんですよ。13年、14年というのは。それでもう増税するというのは、もう退院しなさい、もう、筋トレでもしなさい、と言っているようなもので、2%の物価にするのは、もう無理なんです。そんなことしたら。そこが、やっぱり、2%に出来ない理由なんで、他の人は消費税とか、緊縮財政の物価下押し圧力のことを全く言わないで、むしろ、そんなことは起こらないって、消費増税賛成した方がね、2%インフレ達成できないって言ってるのは、元々おかしな話だったと思ってます。

15分~物価目標の妥当性

【片】2%の妥当性というのは、これは先進国・主要国ですね、概ね2%の物価安定を目標としていますので、ですから、仮にですけれども、日本だけですね、1%の物価安定目標にすると、これは海外的に円高圧力がずっとかかり続けることになるんですね。
で、2013年のアベノミクス前は、事実上、2%の物価安定目標を設けていませんでしたので、ですから、先ほどお話があったように日本はですね、ずうっと円高圧力にさらされていたんですね。で、1ドル80円台とか、そういったような為替レートの水準だったわけです。
こういったものが、2%の物価安定目標を掲げることでですね、大きく変わった訳ですね。例えば、物価についてもですね、過去1990年代、それから、2000年代の初頭、リーマンショック等もありましたけれども、この状況のもとですと、基本的にずうっとデフレの状態が続いていた、と。
これが2013年以降はですね、デフレではなくマイルドなインフレに変わってきた。そこの中で早川さんが仰るように確かに未だ賃金とかそういったところで問題は有るにせよですね、名目の所得は増え、そして株価も上がり、そして状況が随分変わってきた訳ですね、色んなところで変わってきた、と。この部分というのは2%という目標を掲げたことの意味を、なので、ある意味2%の物価には届いていないんだけれども、これは今の方向を、しっかり続けることが重要だ、ということを示唆しているんだと私は思います。

17分40秒~デフレから脱却できたのかどうか

【岩】99年度~12年度という、だいたいこれ、デフレ期なんですけれども、1999年から2012年の平均が、消費税抜きで、97年に増税がありますから消費税の、抜きでやると、平均でずうっと、マイナス0.25というデフレが続いていたんですね。それに対して、13年度から量的・質的緩和が始まりますけれども、19年度までの、で20年度以降はコロナの影響があるんで、ちょっと他の特殊要因があるんで抜きますとね、この期間平均が0.46と、ずうっとプラスなんです。
で、どれだけ上げたかというと、だいたい 0.7~0.8ポイント上げてる訳なんですね。実はインフレ率を。だから2%に達成しなかったのは、先ほど言った消費増税とそういった緊縮があったけれども、それにもめげずにですよ、これだけの0.5近いインフレ率を維持した、というのは、これは金融政策、量的緩和の力強さを見せているんで、みなさんは量的緩和はダメだダメだというけれど、これなかったら、昔のようにマイナスのデフレになっていた、ということで、非常に力があったと、むしろ評価すべき、一本足打法でも金融政策が強いんだということですね。黒田日銀のやり方は、間違っていなかった、ということです。

表1:統計局データを基に筆者作成

21分後半~金融緩和の効果を問われ

【片】雇用情勢はですね、失業率に関していきましても、やはり、4%台半ばだったものがですね、これは今は2%台半ば、それから、一番調子が良かった時でもですね、2%台の前半ということで、2013年以降、突然何故かですね、人手不足という話がですね、これ、非常に話題になったん訳なんですね。これ、なぜかというと、金融政策の効果だったと、理解できると思います。それから、より詳しく中身を見ていきますと、2000台、2012年あたりまでですね、例えば、正規雇用、それから正規雇用の方というのは減って、逆に非正規の方というのが増える、ということで、非正規化が進んでいた訳ですけれども、2013年以降、アベノミクス後ということですけれども、この時にはですね、正規雇用も増え、そして、非正規雇用が同時に増えているんですが、注目すべきは、その非正規よりも正規雇用の方が増えているんですよね(*6)。

(*6 就業者数の推移)

ですから、非正規化が進むというよりは、そういったものをとどめてですね、正規雇用の方が増えるような状態になったと。
で、賃金も徐々に上がってきた。
で、これは先ほどらいから議論されていますけれども、20年間デフレだったものをですね、やはりその、取り戻すというのは相当の時間がかかるということで、私自身、徐々に進んできているというふうに理解した方が良いと思います。

24分半ば~金融政策が雇用に与えた影響を問われ

【岩】(就業者数について)
これは絶大なものがあって、一番分かりやすいのが、98年から12年という新日銀(法)が始まったデフレ期ですね、さきほど言った、この時に就業者は実にこの間227万人も減っているんですよ。それに対して、量的緩和期で13年から19年のインフレ期は就業者は逆に470万人増えてるんですよ。就職氷河期なんて言葉は死語になった訳ですよね。これはもう完全な労働者へのトリクルダウンでも何でもないんですね。
(実質賃金について)
それから、もう一つついでに、実質賃金も言っていいですか?これ、みなさん、実質賃金が減った減ったと思ってらっしゃるでしょ?全部、報道、新聞報道そうですよね?しかし、実質賃金はですね、実質雇用者報酬で見なければダメなんですよ。どういうことかというと、実質雇用者報酬というのは、賃金俸給という、みなさんがもらう分と、会社が負担した社会保障負担が入っているんですね。これが実質雇用者報酬。会社が負担した分というのは結局、前払いで賃金の中から本当は払うべきものを、企業が肩代わりして払っているんだから、これは賃金に本当は含まれているんで、だから、実質雇用者報酬というのがあるんです。これをですね、消費者物価でデフレートした実質雇用者報酬を見るとね、99年度から12年度のデフレ期は、何と8.4%低下してるんです。いいですか?実質賃金は。それに対して、アベノミクスの時代はですね、2.4%上昇しているんです。で、その中の上昇が、社会保障の負担が7.5%も負担しているという、これが大きいんですよね。だから、個人が自分で見るのは、賃金だけですからね、なんか低く見えるだけです。ですから(実質雇用者報酬を基に賃金上昇率を見ると)非常に高い、ということです。

27分~大量の資金が成長・分配に、つながったのかを問われ

【片】私自身は成長に向かっているんだと思います。で、先ほど早川さんが仰っていた、お年寄りの方とかですね、女性の方の雇用を増やしたというのは、そもそも、岩田さんが先ほど言っていた、98年から2012年のデフレ期のころというのは、そもそも働きたくても働けなかった訳ですよね。だから失業率が高くて、雇用者も増えなかった訳です。そういった方というのがある意味、2013年以降、働けるようになった訳ですよね。だから、例えば非正規雇用の内訳を見ていくと、確かにお年寄りとか女性の方が多いんですけれども、こういう方たちというのは、ある意味その、短時間で自分の好きな時間に働きたかったけれども働けなかった状態というのが、2013年以降は働けるようになった訳で、私自身は何か、それが問題あるというふうには全く思いません。むしろ、そういう形で、人々のQOL(生活の質)が上がってですね、経済厚生が高まっている、ということをしっかり評価した方がいい、と思います。

29分半ば~大規模金融緩和と財政規律の関係を問われ

【片】私自身はですね、財政規律が緩んだとは全く思いません。そもそも、日銀が物価安定目標のためにですね、国債を買い取るという金融政策をやっている訳で、それというのが何か間違っているという話ではない、と思いますし、それから、そもそも、先ほど岩田さんからもお話がありましたけれども、アベノミクスというのは、金融政策一本足打法だった訳ですよね。で、これほど長い期間、金融緩和を続けざるを得ないというのは、これは財政政策のサポートというのが、逆に言うと薄かったから、結果としてそうなったんじゃないか、というふう(30分11秒)に私は理解しています。
【岩】(30分11秒くらいから、被せ気味に)薄かったんじゃなくて、逆ですよ、下に引っ張った、ということ。
【片】ああ、下に引っ張った、はい。

30分過ぎ~大規模緩和と財政問題について、続けてコメントを促され

【岩】大規模緩和の副作用というのは全く無いと思いますね。良く日銀が債務超過になって大変だなんていうのをね、話があるんですけれど、これは日銀券が金と兌換可能だった金本位制の亡霊にとらわれている話でね、日銀の債務超過って全く問題にすることないんですよね。で、実際に最近のオーストラリア中銀は債務超過(*7)になっているんですけれどね、総裁自身が何も問題ないと言って、今、何も問題ないですね。
それから、イスラエルというのは私がデータを持っている2000年台からね、最近まで、19年まで、ずうっと、実は債務超過なんですよ。何の問題もありませんよね?
それから、チェコもマイナスになったり、プラスになったりして、マイナス、自己資本がGDP比でマイナス23.1%なんて時代とか、ずうっと、あるんですよ。何もないです、問題ない。ですからこれは、トンデモない議論で、日銀と普通の銀行とをね、混同した「びょうろん」というんでね、これ、トンデモない議論で、これを何とか消滅して欲しいですね。

33分後半~日銀が国債の半分を保有している状況について問われ

【片】これは、致し方無い、と思いますね。先ほど河村さんが仰った話に関して言うと、国債を発行するとか財政政策、非常に沢山やっている、という話を問題視されておられたと思うんですけれども、では、どうしたら良かったんですかね?(某氏の凍り付く表情が…)
例えばですね、コロナ禍の状況のもとで、何もしない方が良いということであれば、それは当然景気は大幅に悪化しますし、先ほど懸念しておられた国民の方の暮らしも、これも悪化する訳ですよね。で、ある意味、財政の運営の話というのは、これは、致し方なくですね、支出しなければならないときには支出しないといけない、と、そういう状況もありますので、やはり、そういう話と、(財政)規律という話は切り分けて論じるべきなんじゃないかな、という気はします。

36分~日銀が国債以外にETFを購入したことを問われ

【岩】私も産業政策的で、もともと、あまり良くないと思ってますから、これは徐々にフェードアウトした方が良いと思ってますけど。先ほど、ちょっと、財政に対して申し上げなかったので申し上げますけど、要するに国債残高がGDP比が2百何%だとか、債務が1千兆円だとかですね、国債を日銀が半分も買っているとかね、こういう数字だけで何か人々を驚かすというのは、やめて欲しいと思います。これの副作用は、どこで見るかというとですね、インフレ率をすごく2%に上げて凄いインフレ率にしたかどうか(2%を大きく上回るようなインフレ率2桁以上のことを仰っていると推察)で、これを見るべきで、もう一つは国債金利暴騰していると、すごく。こういう状況を作るなら問題ですけれども、全然ないわけですね。金利はものすごい低く、そんな上がってないし、インフレ率もそんなに上がってないんですから、これだけやったって、何の問題もないんで、副作用って、要するに数だけで大騒ぎしてるんですね、みなさん、ね。そういうようなんじゃなくて、しっかりと見るべきで、先ほど言ったように一本足打法でやって、これだけ金利をむしろ、やっても下がっていて、インフレ率はさっき言ったように、実は上がっているけど、上がり方少ないじゃないかっていうのは、さっき、言ったように増税が効いてきているからなんですよ。何かというと緊縮財政。ですから、それを無くせばね、ちゃんと、2%のインフレに行くし、ですから、そういう意味でやれば、税収も名目GDP上がればね、2.7という(税収)弾性値(名目GDPが1%増えると税収弾性値が2.7なら、税収は2.7%増える)で非常に大きいんですよ、財務省は1.0しかないとか言ってますけど(*8)。ただ、増税から入らなくてもね、(物価安定目標で目指す2%の)インフレ率にして、実質成長率を上げていけば、それは名目成長率も上がりますから、税収も上がって財政再建できるんで、ですから、こう、あんまり、数字だけでですね、言うというのは、インフレ率と金利は、そんなに暴騰しているのか、という点で見るべきだと、いうことです。

39分過ぎ~このままの状態が続けられるのかを問われ

【岩】先ほどインフレ率が2%に近づいていくる、というようなときにはですね、出口にゆっくりと出ていく、ということで、結構で。それまでの間はですね、なにも国債を買ったって、何も問題はないんですよ。(高すぎる)インフレになってないし、金利暴騰している訳ではないですからね、そういうこと起こってないんですから、ですから、それが起こりそうになるのが、2%なんですよ。ですから、そこまでは、今の続けていけば良い、ということで、そんな数を大きいから大変だ大変だ、というだけで議論するといのは、いい加減やめて欲しい、というふうに思います。

41分~出口戦略の考えを問われ

【片】出口政策というのは、これは、必要条件としてですね、2%の物価安定目標が達成できている状態でないと、出来ない訳ですね。ですから、その状態のもとであれば、長期金利にも上昇圧力がかかりますし、そういった意味で利上げができる環境になる、と、(金融政策を)正常化できる環境になる、ということだと思うんですよね。ですから、そういう環境に、現状できる限り早いタイミングで近づけていくということが、先ず大事だと思います。で、そのうえにたってですね、具体的にどういう形で金融政策を変更していくのか、と、こういったところについては、我々外野がですね、アレコレ言うよりはですね、私は日銀のスタッフの人たちが一番能力もあるし、色々なことを計画してですね、しっかり良く知っているというふうに理解しています。ですから、そういったところについては、しっかり日銀のやることをですね、私は信頼して良いんじゃないかな、と思っています。いずれにしても、細かい政策の対応というのは、物価安定目標を達成した段階で考える、ということです。で、ちょっと、懸念しているのは、そういった中で政府がですね、共同声明(*9)を早く書き換える、と。それも、物価安定目標を長期化したりとか、そういうことをやって、段階的に緩めるようなことをやってしまうというのが不味いというふうに思うんですね。そこは問題点だと思っています。

44分後半~YCC見直しについて問われ

【岩】早期に見直すという、2%達成が見通せないような中でですね、早期にこれをやるということは非常に危ないですね。むしろ、デフレに逆戻りする。さっき言った長期金利が中長期というのは、経済に非常に影響を与えると、設備投資とか。日銀の研究がちゃんとあるんですよ、実証理論的に研究が。だから非常に注意しないといけない、ということです。だから、出口に向かってというのは日銀もちゃんとシミュレーションしてますのでね、さきほど片岡さんが言ったように、日銀の本当のプロがやってて、で、おそらく一時的に債務超過になる、というのは、どういうことかというと、出口に出るときというのは、銀行が日本銀行に預けているお金っていうのが日本銀行当座預金というんですけど、これも、超過準備っていうのがあるんですけれども、これも金利を少しずつ上げていくんですね。で、これでゆっくり上げて行くんですけれども、その間にある程度、債務超過になる期間が若干あるかと思いますけれども、それはもう、直ぐなくなってしまって、正常化していく、と。
で、国債の残高は、それからゆっくり減らしていく可能性はある、と。これは丁度いま、アメリカの中央銀行のFRBがですね、出口をした、14年半ばから出口をした、やり方があるんですけれどもね、それと同じなんで、ちゃんと出口は上手くやってるわけで、何か大変なことが起こるって、大変、大変っていうのが本当に大好きな人が多過ぎますね。(男性司会者と思われる方の、笑い声)

47分過ぎ~出口について、スイスの事例を挙げ、マーケットの混乱を力説する河村氏の発言をうけ

【片】河村さんが仰るように、しっかり慎重にやられるんじゃないかと思います。ですから、さっきも強調したようにですね、金利を引き上げていくということであれば、市場に金利上昇圧力がかからない限り、引上げられないんですよね。特にその、長期金利に関しては、実体経済の先行きですとか、そうした影響も踏まえて決まる部分がありますので、ですから、中央銀行が金利を引き上げようとしてもですね、市場がそのような雰囲気に応えるような環境でない限りは、金利は上がらないんですよね。逆説的ですけれども。ですから、そういった環境というのは、2%の物価安定目標が達成できる環境、と。賃金も伴って、物価が上がる環境。これが重要なんだと思います。

49分~共同声明について問われ

【片】今変えることのコストは大きいのかな、と思うんですね。ですから、さっき、早川さんが仰ったように、現状、出来る限り早期に、ていうのは空文化しているのは、その通りなんですが、出来る限り早期に頑張ります、ていうふうに表明していることの意味は有ると思うんですよね。ですから、これを敢えて外して、中長期な目標にする、というのは、例えば日銀が、それがいいという判断をしたうえでですね、例えば、政府と何か協議をして決めるとか、そういった建付けをとるのであれば、まだ話は別だと思うんですけれども、政府と一緒に目標を決めたのに、政府の方からですね、ややもう出来そうにないから止める、と、こういうふうな建付けでやると、そうすると、今度はですね、将来的に中央銀行が色々な政策を行おうとしてもですね、それを市中の人が信じてくれないんじゃないかと。そういうリスクが、やはり大きいのかな、と思います。

50分過ぎ~2%の達成が、来年再来年有り得るので共同宣言見直ししても良い、という早川さんの発言を受け

【片】(物価安定目標を)達成してから、やれば良いんじゃないですか(笑)

51分過ぎ~共同声明の見直しの必要性を問われ

【岩】見直すとすればですね、財政再建、財政持続可能性のところを取るべきだと思います。
共同声明というのは、どこの国もですね、中央銀行と政府が金融政策について協定を結んでいるんですよ。財政再建をどうしようなんて、やっているとこは有りません。ですから、日銀とは別の話ですのでね、これは取った方が良いというのが私の考えです。それから、早川さんが来年あたり、もう2%になるという、これは今のところコストプッシュ型(インフレ)ですからね、需要けん引型の2%(インフレ)に移れば、確かに仰るようなこと(共同声明見直し)が可能ですけど、需要不足が結構沢山20兆円とかなんとか有るという状況で、そんな需要(不足)解消しなくて、需要けん引型(ディマンド・プル・インフレ)で2%にすぐならない、と思いますのでね、ならないのは、むしろ、防衛の増税とか、色んな増税増税と言っていると、なおさら絶対(2%のインフレに)ならないんでね、ですから、そういう意味でも、(物価上昇率)2%行くのには財政の方が、もう少ししっかりする、という、河村さんの逆ですけれどもね。積極財政しないと、逆にそうすると、日本の税収が上がっていくんですよ。それで財政再建できるで。増税から入ったら、景気が悪くなって税収落ちて財政再建出来ないんです、逆に(*)。

57分過ぎ~市場への説明責任などについて問われ

【片】日銀は誰のものか(*11)、と、議論がありますけれども、国民のものだと思います。日銀はですね、何をミッションにしているかと言いますと、物価安定目標を達成することをミッションにしているんですね。
そのことを通じて、経済を安定化させる、ということです。ですから、これまでですね、ずうっと、90年台以降ですね、全く目標を達成できていなかった訳で、やはり、そのことを達成することによって、自らの存在意義をしっかり確立することが大事だと思います。
物価に関していきますと、これ、物価というのは(インフレ局面において)物に対する貨幣の価値が下がる、逆に言うと、物の価値が上がる、ということなんですね。
物の価値って、何かって言うと、人の価値です。人の価値とは何かというと、賃金です。ですから、賃金がしっかり上がるような経済を目指している、というようなのが、これが、2%の物価安定の意味ですから、やはり、それをしっかりやる、ということが大事だと思います。

58分過ぎ~市場への説明責任などについて問われ

【岩】河村さんは、盛んに、国債マーケットが混乱したとか、そんなこと、ばっかし、仰ってるんですけどね、イールドカーブ・コントロールをするとね、債券価格はあんまり動かないんですよ。だから、債券部門の人、債券の売買で儲ける人は儲からないんで文句言っているんです、これは。だけど、債券市場の儲けるとか、儲からないために金融政策をやってるんじゃないんです。国民のためにやっている、雇用とかそういうことのためにやっているんですよね。それから、銀行がまた反対するのはね、これは反対してるんですね、イールドカーブ(・コントロール)。これもね、利ざやが稼げないから、なんですよね。ところが、これ、2%の物価安定になってくればね、長期金利が上がってきますから、利ざやが出てきます、自然に。だから、銀行は2%(の物価安定目標を達成)を早くする方法を考えるべきで、利上げなんかしたら2%はかえって遠のきますから、銀行つぶれちゃいますよ。逆です、やってることが。

59分後半~早川英男氏が、賃金が上がらないから物価が上がらない、と言ったことに反論

【岩】逆です。デフレになったから賃金が上がらないんです。世界でデフレの国は日本だけです。

参考情報

(*1) 植田和男氏「日本、拙速な引き締め避けよ」 物価上昇局面の金融政策 - 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD273Z80X20C22A6000000/
ポイント
○2%インフレの持続的な達成には程遠い
○円安回避のための利上げは景気悪化招く
○世界経済の減速が金融政策変更の重荷に

(*2) マクロ・プルーデンスとは何ですか?(日本銀行)
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/pfsys/e14.htm

(*3)【ノーカット速報】日銀総裁起用固まった植田和男氏インタビュー「説明分かりやすくする必要」
https://youtu.be/qzroYRD_o5Q

(*4)
「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と 政策効果についての総括的な検証
(日本銀行, 2016.09.21)
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/transparency/rel160930d.pdf

(*5) 日本銀行の組織図
https://www.boj.or.jp/about/organization/chart.pdf

(*6) 就業者数の推移
厚生労働省データを基に筆者作図
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/index.html

(*7) 豪州準備銀行の債務超過が心配に及ばないわけ - himaginary’s diary https://himaginary.hatenablog.com/entry/20220923/australia-central-bank-has-negative-equity

(*8) 財政審をつとめられた土居氏の資料では、税収弾性値の政府試算が1.1であることを紹介( P.9 )
予定通りの消費税率引上げの必要性
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/tenken/07/shiryo05.pdf
※土居氏は2014年4-6月の消費停滞を消費増税の影響ではなく、野菜不足など供給側の要因とエコノミストの永濱氏と共演した番組でご主張。しかしながら、浜田宏一・本田悦朗両内閣官房参与と共演した番組では、消費増税による実質可処分所得減少による消費下押しを認めており、ご主張の一貫性に疑義。

(*9) 政府・日本銀行の共同声明 (内閣府,財務省,日本銀行, 2013.01.22)
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2013/data/ko130206a2.pdf

(*10) デフレ脱却こそが国債累積問題の解決策である ( 浅田統一郎, 2012.05.01 )
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20120501.html

(*11) 日銀はだれのものか ( 中原伸之, 2006.05.01 )
https://amzn.to/3k8EJaq

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