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MALIK The Lafayette Afro-Rock Band

僕のレコード収集スタイルは値札はそのままに、ジャケットの表面に貼り付けとくことだ。値札を付けとけばどこで買ったのかも覚えていられるし、場所が分かればだいたいの時期も思い出す。このレコードにはWAVEの値札が付いてるので熊本のPARCOで買ったのだろう。20年くらい前の話だからどのような状況で買ったのか思い出せないけれど、当時は熊本でもたくさんのレコード屋があり、たくさんのレコードやCDやカセットテープが置いてあった。ときにはお店同士で大きなイベントを開き、大きなイベント会場で九州中のレコード屋が10軒以上集まることもあった。そういうときには数万枚、数十万枚のレコードを掘ることができた。

当時はそれが普通のことだと思っていたし当たり前のことだと思っていた。しかし10年が経ち、20年が経つと、熊本どころか世界中からレコード屋が少しずつ減り、レコードとCDはダウンロードにその座を引き渡し、さらに10年が経つと今度はダウンロードからサブスクリプションへとその座を明け渡すことになった。世の中に永遠は存在しないのだ。

そういうことが分かれば20年前にももっとたくさんのレコードを買うことができただろう。しかし僕はまだ少年のように若く、一生その状況が続くと本気で思っていた。しかもそれどころかレコード屋さんはもっと増えると思い込んでいた。この世からこんなにレコード屋がなくなるなんて思ってもみなかったし、レコードが買われなくなるなんて夢にも思わなかった。なんて贅沢な時代だったんだ。

僕は旅行に行った際には現地のレコード屋もなるべく探すことにしている。そして買ったレコードやCDの値札のシールを見るたびに、あ、これはロサンゼルスで買ったやつだな、これはニューヨークで買ったやつだ、これはバルセロナ、これはオランダ、これはドイツ、これは韓国だな、そしてこれは南アフリカだ、と一発で判るようになっている。しかし住んでいたこともあり海外ではロンドンのレコード屋の値札がいちばん多いし、日本では東京と熊本がいちばん多い。値札とは歴史なのだ。

話を戻してこのThe Lafayette Afro-Rock Bandのレコードはオリジナルではなくてリイシューである。今Discogsで調べたらオリジナルの相場は3万〜4万円だけど、元々レコードに数万円は出さない主義なので(タイミングが合えばたまに高いのを買うこともある。レコードとは一期一会なのだ)リイシューでも充分だし、リイシューでも20年も持つとそれなりに家族のようにもなってくる。そして値札もその歴史の一役を担っている。

この曲は僕たちの世代だとこのオリジナルの方よりヒップホップのネタとして使われた方が有名だろう。Jay-zやらいろんなアーティストが使っているがやっぱり僕たちの世代が好きなのはパブリックエナミーだ。

このThe Lafayette Afro-Rock Bandのレコードは20年前に¥2000で熊本の一少年に買われることになって、僕と一緒に住むことになった。そして僕と一緒にロンドンに行き、何回もくるくるとターンテーブルの上で回った。ロンドンのあとはまた熊本に戻ってきた。そして今度は東京で一緒に暮らしている。このレコードも僕と一緒にロンドンのクラブやバーを見てきたし、熊本や東京の箱で同じ時間を共有してきた。しかし今は国境が封鎖され、外出禁止令が出ているところもあれば隣の街に行けなくなった地域もある。僕の住んでいたロンドンでさえそうだ。自由に動けることとはとても贅沢なことだがそれが永遠に続くとは限らない。しかし今のこの状況が永遠に続くとも限らない。止まない雨はないのだ。そしていつかまた知らない土地で知らないお店の値札の付いたレコードを探しに行きたいなと思っている。


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