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Undercover Runway in Paris

AppleのiTunesが終わるそうだ。僕だけかもしれないけど、iTunesはアップデートされるたびに操作が面倒になって結局最後のほうはアップデートを全然しなくなった。もう長いことMacBookに接続していない。しかしiTunesのサービスが終わると聞いて久しぶりに自分のiPhoneをMacBookに繋いでみた。まずこの動作が面倒くさい。iPhoneを接続、アップデートし、それを繰り返したあげくインターフェースなども変わっていき操作が面倒になる。本当は少しずつ便利になってはいるはずなんだけど、音楽を聴くのに僕はたくさんの機能を使わない。基本的にレコードであれば針を落としてスタートボタンを押すだけだ。実にシンプルである。ストップボタンですらスタートボタンと同じひとつのボタンを使う。

iTunesの代わりに今では外出するたびにSpotifyを使ってはいるが、結局15年後にはまた違うサービスを使っているのだろう。どんどん新しい機能、新しいビジネスを生み出し雲の流れのように姿・形を変え音楽産業は進化していく。確かに新しいメディアを加えたスマホはお手軽で使い勝手のいいガジェットだけれど、僕は30年間レコードを聴き続けてレコードが不便だと感じたことは一度もない。いや、それどころか針を落としてスタートボタンを押すだけという行為は実に簡単であり長い目で見ると最新のメディアより便利に感じる。針はバームクーヘンの層のようなレコードの溝をこすり、奥の微細な凹凸を敏感に察知して電気信号に変換する。アンプで増幅されたその信号はスピーカーを通して空気を揺らす。

去年の11月頃、渋谷にパルコがオープンしたので行ってみたんだけど、そこのアンダーカバーのショップを覗いてみたら数枚の黒いレコードが飾られていた。ジャケットにはトムヨークやMARS89のクレジットがあり、タイトルからするとどうやらパリコレのときのランウェイで流した楽曲群のようであった。

僕がレコードをレジに持って行こうとすると、店員がすかさず僕を食い止め、このレコードは完売しており、デコレーションとして飾ってあるだけだ、ということだった。そうか。それは残念だなと思った僕は一応再入荷の予定がないか訊いたところ、再入荷はあるかもしれないし、ないかもしれないと言われた。しかしもしものために電話番号だけ店員に渡すと僕はそのまま地下にあるディスクユニオンに向かった。

それから数ヶ月がすぎて僕はすっかりそんなことも忘れてしまってレコード屋からレコード屋へと街をふらふら歩く日々が続いた。そして3月に入ったある日、いきなり知らない番号から電話がかかってきた。僕の携帯に知らない番号からかかってくるなんてだいたいどこかの会社の営業か派遣会社の営業ばかりなので(最後にかかってきたのは朝日新聞社の営業だった)そのときもどうせ派遣会社が仕事を探してませんかと電話をかけてきたのだろうと思った。しかし電話の向こうから聞こえてきたのは、アンダーカバーですけど、という若い女性の声だった。

MARS83は若い日本人のアーティストで、アンダーカバーのランウェイに起用されたりトムヨーク にリミックスしてもらったりと今若手の注目株である。だけどアンダーカバーのデザイナーである高橋盾はもともと東京セックスピストルズというバンドをやっていたパンクスなのに、こういう若いアーティストのクラブミュージックを起用するなんて思ってもみなかった。しかしトムヨークだってバンドサウンドだけではなく電子音を多用するようにもなったし、元祖セックスピストルズのジョンライドンもドラムマシーンやシンセサウンドを使うようになったので、こういうアティテュードこそが本物のパンクなんだろうなと思った。そして新しい音を求めつつも、ビジネスにはならない、重くて古い一昔前のメディアであるレコードを今でも少量だけ生産して自分のショップのみで販売するその姿勢もパンクだなと思った。それにしても最近のアンダーカバーはクールだね。

*Spotifyは便利なんで結局毎日使ってるんだけど。

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