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KHRUANGBINのニューアルバム

エボラというウイルスを初めて知ったのは22か23歳のころである。アフリカから帰ってきた日本人の友達が、アフリカではエボラ出血熱というウイルスが流行っている、感染すると身体から血が吹き出し、ほとんどの場合死ぬ、とまるでアフリカでは悪魔が支配しているかのような身振り手振りで状況を説明していた。20年以上も前の話だし、インターネットもない時代だったので情報はまるで伝言ゲームのように伝播し、僕の頭の中にはまるで北斗の拳の雑魚キャラがあべしと身体を爆発させ、血を吹き出しながら死んでいく人間の姿が浮かび上がった。なんと恐ろしい病気なのだと。

実際にはエボラに感染した人が全員出血するわけではなく、全員死ぬわけでもないが、もちろん血を出す人もたくさんいるし、致死率は50%〜80%だと言う。あるクラスターでは致死率が90%もあったそうだ。ほぼ死んでるじゃんね。

そのときの感染症の話をなぜ今でも覚えているかというと、フランスの文豪、アルベルトカミュのペストという小説をたまたまそのとき読んでいたからである。ずいぶん昔のことなので内容までは詳しく覚えてはいないが、街に正体不明のウイルスが現れ、ネズミがどんどん死んでいく。しかし事を軽く考えた当局はこの現象を市民に教えず、徐々に魔の手が街に忍び寄ってくることになる、という話だ(ったような気がする)。

舞台となったアルジェリアのオラン市では死亡者数がどんどん増えていき、新聞やラジオがこれはペストだと報道すると街はパニックになる。酒やハッカドロップがペストから身を守るとデマが広がり店から姿を消す。感染した男は、俺はペストだととわめきながら女に抱きつく。街と外部は行き来できないように周りを封鎖され脱出不能となる。市民の精神状態は困憊していく。

これを読んだ当時はもちろん大人になった今現在のような感想を持つことはできなかったのだけれど、現在の新型コロナウイルスの状況を見ていると、カミュは全てを予言していたのではないかと思わざるをえない。

そしてビルゲイツも近未来を預言していた一人である。TEDを見ている人なら見たことのある動画かもしれないが、ビルゲイツは、伝染病に備えなくてはいけない、そのウイルスは強くはないが、数百兆円の経済的ダメージを与える、今すぐに対策を講じるべきだ、とすでに5年も前に感染症と闘うための対策をTEDでプレゼンしている。まるで今日あってる出来事を知っていたかのように。

しかし僕は思うのだけれど、新型コロナウイルスが本当に怖いのは、このウイルス自体の殺傷力がそんなに強くはないということではないだろうか。というのも一般論だがエボラみたいに強力なウイルスはあっという間に人を殺してしまうのでそれ以上は広がりにくい。しかしコロナのような症状が軽い、または症状の出ないウイルスだと、街から街へ、国から国へと人間と一緒に電車を乗り継ぎ、飛行機を使って世界各国へと広がっていく。弱いからこそ感染は広まり、弱いからこそ実体経済にダメージを与える。そして高齢者や持病のある致死率の高い人たちに染る。ビルゲイツは5年も前に、カミュは73年も前にこれを預言していた。

さて、今日のオススメのレコードはKHRUANGBIN(クルアンビン)のTexas Sunです。

KHRUANGBINは前回のアルバムにYMOのカバー曲が入ってたから買ってみたんだけど、気がついたらもうニューアルバムが出てたんでジャケットも洒落てたし、買ってみたら最高にカッコ良かった。ウェットなリバーブとディレイで音の隙間を整え、まるでベンチャーズとダブを融合させたようなサウンドである。こういう中毒性のある音は感染しちゃうんですよね。タランティーノの映画にも出てきそうな楽曲群だけど、空間の作り方が現代っぽい。

僕が買ったレコードは限定でオレンジ色の盤だったから見た目もかっこいい。これも買って良かった。

ちなみにペストは昔から存在していて、1347年から1353年にかけて流行した際にはヨーロッパの全人口の約3分の1が死滅したそうです。そしてペスト菌を世界でいちばん最初に発見したのが慶應義塾大学医学部の創設者であり東大医学部附属病院の創設者でもある細菌学者の北里柴三郎です。北里柴三郎は熊本の阿蘇出身で彼の生家は北里柴三郎記念館になっています。阿蘇の宿泊客がコロナウイルスのせいで4万人キャンセルされたことだし、コロナ騒動が終わったらぜひ熊本にお越しいただけたらなと思います。北里柴三郎は新しいお札の肖像にもなりますよ。

*ただし専門家でも意見が割れていて、国でもそれぞれ政策が違う状況なので素人が判断することは難しい。今月のbudspackersは中止することにしましたが(経済のことを考えるともちろん中止しないことも選択肢のひとつだと思います)、一次情報を自分で確認したり、手洗いするなどセルフリーダーシップが問われる時代になってきたと思います。来月のDJ活動は状況にもよりますが再開する予定です。



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