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イクイノックスがジャパンカップで135ポンドを獲得!日本歴代・2023年世界最高のレーティングの意義とは?

蒼山サグ(以下、蒼):2023年のワールドベストホースランキングでイクイノックスがジャパンカップで135ポンドを獲得し、エルコンドルパサーを上回る世界一のレーティングを獲得した、という話が聞こえてきました。このニュースについて、ゆたさんに解説いただきたいと思います。よろしくお願いします。

くらみゆた(以下、ゆ):はい、IFHA(国際競馬統括機関連盟)が発表しているロンジンワールドベストレースホースランキング。本来は来週発表の予定だったみたいですが、Webページをお漏らししてしまったみたいですね(苦笑)。それによるとイクイノックスジャパンカップで135ポンドを獲得、これが2023年の世界一のレーティングだったというニュースです。

私は正直レーティングにはあまり興味がないタイプですが、今回のニュースはとてもエポックメイキングで評価されるべきニュースだと思いますので、少しお話ししたいと思います。というのも、この135ポンドが日本競馬における世界に通用する馬作りという点で一つの到達点、日本競馬が世界のレベルに達したというニュースであると考えているからです。

まずはレーティングとは何か、というところから話を進めます。一般的に言われている話ですがレーティングとは「着差や負担重量をもとに競走馬の能力を数値化したもの」です。0から140の値で表され、各馬に与えられる以外に、1着から4着までの間のレーティング平均がレースレーティングとして評価される形になっています。もちろん競馬はコース適性がものを言うスポーツなので、一つの尺度ではありますが、国をまたいでの遠征が当たり前になっている今、ある程度それなりに基準として使える数値だと思います。レースの基準値として、G1として認められるレースには大体115が必要と言われています。ダービーが毎年120ぐらい、ジャパンカップ有馬記念がだいたい125前後以上の数字になっています。海外レースで記録した値になりますと、エルコンドルパサーは今まで日本調教馬での最高値134です。2014年に世界一となった時のジャスタウェイ130というあたりですね。海外では、フライトラインフランケル140という数値。ちょっと昔で妥当性が薄れていると言われていますけど、ダンシングブレーヴ141というあたりが有名です。今回の135という数字が、日本馬の中ではかなり抜けた数字になるということはわかると思います。

細かい計算方法については省きますが、今回のジャパンカップに関してはある程度ニュースになっているので、計算方法も説明できる形になっています。ジャパンカップに関して最初に暫定値としてJRAから発表された数字が133です。これは2着のリバティアイランドオークスで獲得した120ポイントを基準値とし、牝馬アローワンスで+4、4馬身差をつけたことでで1.5*4=6、最後流した部分と勝ち馬ボーナスで+3とする計算です。 この暫定値に対して、年末に海外ハンデキャッパーと議論した上で確定された数値が135ポンドとなったというのが今回のニュースなわけですね。

今回の135ポンドの根拠は不明ですが、おそらくリバティアイランドの評価が121に変更され、勝ち方の部分で+1されたのではないかと思われます。この135ポンドという数字、単独でみても日本歴代1位という点、今年の世界1位という点で素晴らしい数字ですが、正直なところエルコンドルパサーが24年間守ってきた記録をやっと超えたと言えますし、過去にジャスタウェイが世界1位であったことを考えると、単なる世界一位、歴代一位というだけではどう評価するべきかは難しいところです。ただ、今回に限って言えば、この135ポンドを日本のレースであるジャパンカップで獲得したという点は高く評価するべきだと思うんですよね。

レーティングの獲得には、単純に1着が強い馬というだけでなく、そのレースに強い馬が多数出走し基準値が妥当であること、定性的な判断となりますが、歴代の数値と整合性が取れていることが必要です。今回はジャパンカップに海外馬が1頭しか出走せず、日本馬だけでこの条件を満たしたわけです。もちろんシーマクラシックイクイノックスが圧勝した上で、上位馬がみんなその後に活躍したということも大きいわけですが、あれだけの衝撃的な勝ち方だった天皇賞でもレーティングが127ポンド止まりなわけです。ジャパンカップでそれを軽々と超えて135を取った。これはリバティアイランドオークス、牝馬三冠というのが世界的にきちんと評価されているということ。加えて、ジャパンカップで走ったドウデュース、スターズオンアース有馬記念で好走したことでジャパンカップのレベルを保証したということが大きい。それを踏まえるとこの135ポンドというのは、2023年に走った日本馬、各馬をレースに使った人馬が獲得したといってよいと思います。サライに言えば、ジャパンカップの創設の意義、それは世界から馬を招待するのはあくまで手段であって、最終的には日本のレースが世界一として評価される、認められるのが真の目的だったと思います。そういう意味では、ジャパンカップの創設依頼の目標が一つ達成された瞬間なのかなと思いました。

では、このジャパンカップが世界一と認められたいう事実は、競馬界としてはどういう意義があるのかという話になるんですけれども、これは日本競馬の生産からレース、生産に戻るという全体サイクルそのものにとって大きな価値があるという思います。先ほど述べました通りレーティングは、G1、G2、G3などのグレード認定の基準になっています。そして繁殖入りする、セリに出されるサラブレッドの評価として、血統表とともにこのグレードが表現された牝系、ブラックタイプが重要なわけです。牝系にどれだけのブラックタイプがいるかということが世界におけるサラブレッドの一つの評価になるわけですね。

日本競馬は、全てにおいて世界を目指すためにジャパンカップを創設し、様々な痛みを乗り越えてPart1国に仲間入りし、海外から名血を導入し、血統改良を重ね、海外遠征で日本馬の実力を見せ続けてきました。その積み重ねが、今回のジャパンカップのレーティング世界一獲得とイクイノックスの歴代一位になったわけです。世界が日本競馬、日本のレースを認めざるを得なかった結果というのは、ジャパンカップ創設の合い言葉「世界に通じる強い馬づくり」の到達点と言っていいのかなと思います。日本競馬のストーリー、エンディングには、どうしても凱旋門賞制覇という壁が残されてしまっているんですが、今回のニュースはある意味。日本競馬の第一章完といってもいいくらいの出来事と言っていいのではないかと考えているわけです。

ここからは苦言になるのですが、このレーティングが意味するところの価値を理解していれば「ジャパンカップに海外馬が来ないと価値がない」とか、「JRA賞で海外G1より国内G1が優遇されている、地方グレード競走が考慮されていない」とか、今はかなり減りましたが「日本の馬場がガラパゴス化している」などという競馬マスコミが良くやる批判というのは的外れだというのがよくわかると思います。パリミュチュエル方式で競馬ファンの馬券売上を、しっかり生産、賞金に還元させて、産業として成り立たせること。その結果として、海外から名血を導入できて、人の技術も上がり、日本馬がしっかりと日本のレースで活躍できるようになった上で、海外で積極的に遠征して結果を出してきた。日本の競馬がしっかりと正しい方向に進んできたこの積み重ねが、今回の評価に繋がったわけです。

もちろん日本の競馬の全てが素晴らしいわけではないです。ただこの状況で競馬マスコミが厳しい態度をとるのであれば、例えばダートグレード競走。内輪に閉じこもることを続けた結果、世界的にはリステッド競走としてしか扱われないレースを、Jpnと書いて「じー」と呼ぶなんていう誤魔化しを許し、G1級などという表現をマスコミ自ら行っていること。その結果いつまでもセリ名簿ではリステッドとしか評価されない馬を産みだして、いつまでも競馬の価値を上げられていないことを批判するべきだと思います。また人材の部分。インド人や南米の方など、海外から様々なバックボーンある中が乗りに来ているが、まだまだ正当に評価されていないし、働いてもらうための仕組みも整っていない。怪しいエージェントが跋扈したりしているわけです。それに繋がる話となりますが、シンガポールやマカオ競馬を見ても競馬は安泰な産業ではないわけです。ですから、競馬ファンを増やし、競馬のイメージを向上させることが日本競馬に求められます。時代遅れの海外信仰をしている場合ではないわけです。

というわけでイクイノックスの135ポンド獲得、ジャパンカップの世界一。まだ速報というか正式発表されていないお漏らしですが、素晴らしいニュースだし、昨今の様々な競馬記事に関わる話なので取り上げてみた次第となります。

蒼:こひさんもコメントいかがでしょうか?

こひ(以下、こ):私も、ジャパンカップが世界一のレースだと評価されたというところが、今回のニュースで一番注目すべき点だと思います。この評価に至った経緯を振り返ると、これまで競馬というのは世界全体で芝コースをヨーロッパ、ダートコースをアメリカという区分けが厳然としてあったわけですね。その中で日本や香港などアジア・中東の方面が新しい競馬マーケットを切り開いてきたことの意義が示されたということになるかなと。第三極で開催するレースがそれぞれの国で権威ある競走として成立し、そこでのレース結果が評価に値するということが積み重ねられてきた、それが今回の結果につながったのだと思います。直近でもカタールへの登録やオーストラリア遠征がある中で、それぞれの馬が条件に合った海外レースに挑戦していくことを繰り返していくことで、今回の評価が一過性のものではなく、固まっていくのではないかと個人的には期待しています。

あとはやはり、このジャパンカップ、東京芝2400mというコース、レース設定が評価されたということが嬉しいなと。日本の競馬の中核には、日本ダービーがありますし、同じ舞台設定で世界に通用する馬作りを目標にジャパンカップが創設されました。今回のジャパンカップに出走する上位馬の父親を見ると、みんなダービー馬であったり、ジャパンカップを勝っている馬たちなんですよね。東京芝2400が種牡馬選定競走として正しく機能して勝ち馬が種牡馬となり、さらにその産駒が同じ舞台で結果を出し、それが世界的に認定されたという流れ。東京芝2400mというコースは、日本競馬の中心であるという認識ですので、そこが世界の2400m路線の中心になっていけるといいなと思います。

最後に今回のレースがお漏らし的にちょっと出てしまったところではありますが、23日にLongines World Racing Awardsというのが行われます。その8部門についてグリーンチャンネルの「ALL IN LINE~世界の競馬~」という番組で振り返りがあります。いつもの合田さん、プラスJRAハンデキャッパーの橋本さんという豪華解説ですので、1月23日の23時からの番組はしっかりチェックして復習していきたいと思います。

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