本の感想 『人を助けるすんごい仕組み ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか』


生きづらい社会と私たちを助ける「哲学」の使いかた


いっぺんに(できることなら私たちにとって都合よく)世界が変わればいいのに。


時短術やライフハックなど、スキマ時間の活用が「よいこと」だとする風潮がITによりさらに加速して、家電はますます優秀になり、家事に割く時間は減らせるようになり、手元のスマホが調べ物の時間を縮めてくれました。
図書館に行ったり公的機関に行ったり電話して問い合わせしたり、そういった「情報を取るまでの時間」が減りました。


結果、時間は余ったか? 心にゆとりが持てているか?
変だな結局ずっとせわしない。


たまにはサボるが毎日それなりにがんばって生きてるのに、どうも大事なことを先送りにしつづけている気がする。


本来哲学とは深くて強靭な考え方のことであり、時代が飛躍的に進むときには、ある強靭な「考え方」が人々を力強く牽引していったのである。(P149)


「哲学」はじれったく「原理」は知識人の蔵に眠る伝家の宝刀っぽい。
「なんの役に立つのが不明」「使いこなすのに時間かかりそう」そんなイメージがある。
抽象度が高いのでサクッと使えない(具体化しないといけない)し、忙しい日常生活のライフハック的な視点だと適用しづらそうだよね、と後回しにされがちな学び。
哲学って、時間とお金に余裕のある人たちが楽しめる、時間つぶしにくゆらす嗜好品みたいな印象が長らくあった。

でも、大震災や、各地で毎年起こる水害、そして今コロナ禍のまっただなか、と不条理なことが増えるにつれて、哲学を学ぶこと、実践することの大切さを感じている。


哲学や原理は「第2領域」


『7つの習慣』を提唱するコヴィーさんの、人生における優先順位のつけかたに「第2領域にすすんで取り組む」というのがある。
「領域」は全部で4つあり、ざっと書くとこんな感じ。

第1領域:緊急で、大事なこと
第2領域:緊急じゃないけど、大事なこと
第3領域:緊急で、大事じゃないこと
第4領域:緊急でも、大事でもないこと

第1・3領域は「緊急!急ぎ!」に感情的に反応しやすく、行動の結果もわかりやすいので、日常で優先されがちな事項。

それに比べて先送りにされがちなのが第2領域。
たとえば健康のための「ヨガ」「瞑想」「睡眠」。
将来のための「学び・資格勉強」、「家族との時間」「一人リラックス時間」などがある。
振り分けは人によって異なるが、それらにだいたい共通するのは、【今すぐ取り組まずとも、即座に命を脅かされたり困窮することはない】ところ。
即効性もないし、別に、今すぐやらなくても困らない。
なので多くの人たちは、第2領域をおろそかにしがちだそう。

最近の時短術やライフハックの裏にある「時間がかからないって、いいね!」な時代の急かし方と、第2領域への後回し感は、どちらもモサモサした違和感をおぼえる。


ヨガや瞑想をしなくても、明日の生活に響かない。
だよね。

睡眠を削っても、すぐに倒れるわけでもない。
たしかに。

家族との対話をはしょっても、明日彼らがいなくなるわけではない。
たぶん。


なのでつい、「大事だけど、急ぎではない」第2領域に含まれることがらを先送りにして、第1領域(例:急ぎの仕事)や第3領域(例:お客さん都合の用事)を優先してしまう。

でも、第2領域は緊急性がないだけで、その人にとっては本来大切にすべき要素がつまっている。


『人を助けるすんごい仕組み』で、西條さんが日本最大級のボランティア組織を機能させるために支えたさまざまな原理や哲学などは「第2領域」に含まれると思った。

いつ「次の有事」が起こるかわからない。
私たちは災害と災害の間(災間:さいかん)を生きている。

一年前は私たちの多くが知らなかった新型コロナウイルスのように、未知のウイルスが来年もまたはびこるかもしれない。
有事のさなかに、次の有事が重なるかもしれない。

そんなぼわっとした不安の空気にのまれず、楽観にも悲観にも偏りすぎず、それでいて、なるべく幸せに生ききるために。
衣食住と同じくらい必要なのが「哲学」から生まれた「本質行動学」というタフな子どもなのかなと思った。


「善きこと」はゆっくり進む



「時間を止めて固定的に考えると、一人ひとりの力はあまりに小さく無意味なもののように感じてしまいますが、時間というファクターを入れて考えるとそんなことはないとわかります」
「時間……」
「僕らだけですべてを完成させる必要はないんです。(略)
僕らが少しでも進めておけば、そこを出発点として、子どもたちが、次の世代がさらに進めてくれる。強い意志は継承されます」(P150)


本質行動学を生活に落とし込んでも、いっぺんに世界はよくはならないし、実践してもサクッと成果にあらわれる即効性もたぶんないだろう。

だけど、「幸せに生きたい」意志や思いを継承するために、なによりも先に取り組むべき「第2領域」として、この本に書かれた原理や具体的行動の基礎が存在感を放っている気がした。
コヴィーさんが本質行動学を知ったら第2領域枠にふりわける気がする。


「僕らが少しでも進めておけば、次の世代がさらにすすめてくれる」(P148)


緊急じゃないけれど、大事なこと。
有事を生きるいまの私たちこそ、スピード重視とは違う哲学のものさしをもつ。
「少しずつ進む」「ゆっくり急ぐ」の矛盾を抱いて進むタフさが求められている気がする。



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