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なぜ事業再生にリストラは不要なのか? (2/3)

「リストラは不要、無益」という揺るぎない信念を持つに至ったのは、これらの苦しみだけが原因ではありません。

「リストラは果たして、本当に価値創造につながったのか?」という疑問に対して、どう考えても明確に「NO」という結論にたどり着いてしまうことに、気付いてしまったからです。

リストラの実施に際しては通常、(A)割増退職金や転職支援に要する、その年度だけの特別損失と、(B)翌年度以降「恒久的に」軽減される固定費を比べて判断をします。

(A)で一過性の特損を計上しても、(B)の結果、固定費が軽くなるのであれば、それだけで安定的に黒字化する確率が上がるように思うので、経営者や新しくオーナーになった株主はこれを選択しがちです。

そして資本市場は、その判断を称賛します。

たとえば、大きな工場や生産拠点を抱えていて、それ「だけ」が原因で全社が赤字に陥っているのだとしたら、それを切り離すことで残りの人を救う、という方策はありえるでしょう。ただ、本当にそれ「だけ」が原因なのかという論点、さらにいうと、それを切り離したとしてその後の成長につながるのか、という論点もきちんと押さえておかないと、完治の見込みのない外科手術で患者を苦しめることになります。

また切り離す手段は、果たして退職勧奨や整理解雇だけなのか、という別の論点もあります。

固定費削減 → 利益率UP → その差分が付加価値(価値創造)である、という論法はよく見聞きしますが、果たして本当にそうなのか。


自分の事例。

人件費は、赤字の理由でもなければ成長の足かせでもなく、むしろその逆だという証拠が、残念ながらリストラ途中で相次いで明るみになってきました。

対象会社の黒字化という命題に対し、当時の自分が持っていた処方箋は3つ。(1)連結ベースでの利益率を下げている(いわゆるdilutiveな)子会社群の売却、(2)固定費(特に人件費)の削減、(3)個別プロジェクト収支の改善、です。

その時点で対象会社は4期連続で最終赤字の苦境にあり、前経営陣の一部が「この業種はもはや構造不況業種であり、自社の努力では何もできない」と公言するまでになっていました。であれば、自分としてはできるだけ多くの改善手段を持ち込み、手詰まりにならないようにしたい、そうでないと再建ができないのでは、という焦りがありました。

(1)については粛々とプロセスを進め(これにも大きなドラマがありました。それはまたどこかでお話します)、想定通りの連結利益率改善が進む手応えがありました。これは想定通りです。

問題は(2)のリストラでした。

こちらに着手した途端、対象会社は半期ベースでいきなり黒字化し、半期として過去最高益を叩き出したのです。

「・・・・え??」

固定費(人件費)削減効果が出てくるのは下期どころか来年度以降のはずであり、その時点では特損額すら確定していないタイミング。想定外でした。

「おかしい、なぜだろう?こんなに早く効果が出るはずないのに・・・」と混乱し、焦りました。「人件費が重いので赤字であった」という自分の見立ては誤りである、とあらゆる数値が自分に語りかけていました。

想定外の成功なので、対外的にはOKに見えるのでしょうが、その理由が分からないと再現することができません。次回、利益が出なくなった時の対処法が分からないので、それでは結果オーライとは言えないのです。

黒字化の理由を掘り下げていくと、自分の誤りが分かってきました。胃が、ぎゅっと音を立てて縮みました。

(続く)

#くじらキャピタル #人を幸せにする資本 #世界を素敵な会社で埋め尽くす #事業再生ファンド #リストラは無意味

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