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(文学)ブコウスキーが好き

 "DON'T TRY" 彼の墓にはそう書かれているらしい。シニカルな作品の奥に、一貫した目線がある。短編、自叙伝的な長編、詩などスタイルの違いはあれど、どれも強烈にブコウスキーである。社会に属さない、アウトサイダー。しかし、ブコウスキーはくだらない世界に背を向けたヒーローではない。何度もうまくやろうとしたが、諦めたのだ。結果そのスタイルで遅咲きではあるが、作家として成功を収め、社会に組み込まれていくこともまたアイロニックである。

 作品は常にアルコールと、セクシャルなモチーフ、ブラックユーモアに富んでいる。癒されることのない貧困や、絶望、暴力がつきまとう。だが、どうも私はブコウスキーに優しさや、親しみを感じてしまう。もちろん肉体労働をせず、ビールを飲みながらクラシックラジオを聴き、文章を書いて生きていくために、スキャンダラスな表現を用いた側面はあるものの、作品の根底には、人間のだらしなさ、弱さ、運の悪さ、社会の残酷さ、それでも生きる営み、ユーモアが脈打っている。勤勉であれ!資本を増大させろ!世の中の役に立て!と叫ぶ社会に疲れてしまった人たちへ、”DON'T TRY"という言葉の優しさなのだろうか。

 最後にダンディズムについても考えておきたい。そもそもダンディズムの定義は曖昧なので、私が定義するダンディズムとは、社会の価値観にフィットすることなくシニシスト、マザーコンプレックスの保持者で弱みを虚勢で覆い隠そうとする人物である。本質を常にはぐらかし、真実を語らずに煙に巻く。放っておいて欲しいと同時に、いつも自分を見て欲しい人物。

「愛されたくないが 愛されたい。そう、それが私なのだ。」

 これはゲンズブールの映画「ノーコメントbyゲンズブール」のポスターに書かれた言葉であるが、これこそダンディズムの極みであるように思う。今回ブコウスキーを書いた流れは、前回のトムウェイツからなのだが、ブコウスキーとトムウェイツ、セルジュゲンズブールを三角形に並べ、真ん中にダンディズムと書き、ほくそ笑んでしまうのは私だけだろうか。

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