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【妖怪百科】天狗(テング)

 天狗の魅力の根源であるとともに、わかりづらさ、イメージの揺らぎの原因は、由来、つまり背景の複雑さにあるといえよう。山岳信仰における山神の影響を受けた部分としての自然を操る超能力。迦楼羅の影響を受けた部分としての神通力や武芸、およびくちばしのある像。猿田彦の影響と思われる鼻の長い像。大天狗、烏天狗、コッパ天狗など細かく分類する方法もあるが、互いの関連性を見出すには無理がある。共通の祖先や、分岐するポイントがはっきりしない。結果として、それら多くの要素を含みつつ、情報の種類により主観的に捉えられる天狗のイメージは個々人によって相違する。しかしながら、完全に相違するわけでもなく、なんとなく共通する天狗像があり、我々はそのなんとなくを共通事項として天狗について語ることができる。

墨絵2

 私のYouTubeチャンネル「妖」は海外の人にも見てもらいたく、英語のテキストもつけている。今回の動画制作にあたり、日本人に比べると天狗にまつわる情報が少ないであろう外国の方にどう天狗を伝えるかという点が問題となった。日本人の間でなんとなく共通事項として通じているイメージがないと仮定した場合、何かしら定義が必要となる。元々矛盾した性質を持つ天狗の場合何かを定義すると何かを排除することになる。一神教における勧善懲悪の世界観にない日本の妖怪は多いが、天狗ほど揺らぎのある妖怪は少ない。天狗が大妖怪であり、日本に広く深く根ざしていることの証明でもあるが、前提のない文化圏の人に伝えることの困難さは増す。動画の性質上それほど多い文字情報を載せることはできないので、今回なんとか天狗理解の入り口になればと多少詰め込みつつ完成させたので、是非そのあたりも含めご覧いただきたい。

 絵について書いておくと、メインで使っている絵は北斎を参照にしつつ四季折々の自然を盛り込んだ。その他西洋画のデッサンを取り入れたもの、墨絵を取り入れた合計3点で動画は構成されている。デッサンの天狗が北欧バイキングのDNEを持っているかのようなイメージになっているが、これもまた大男という要素も含む天狗の一面だろう。天狗にあったことがないので全て間違いであり、全て正解であると思う。

デッサン

 音楽についても書いておく。天狗のイメージは山伏からくる法螺貝かもしれないが、個人的に武芸に優れた一面から、普化宗、いわゆる侍派生の虚無僧、つまりは尺八のイメージが強かった。尺八を中心に構成したいが、私の拙い演奏で独奏は難しくピアノのアンサンブルと、和太鼓の装飾をつけた。西洋音階を尺八で演奏し取り繕った「和」を演出したくなく、かといってピアノを邦楽の音階に置き換えるのもつまらない。尺八は稚拙ながら自分の力量で表せる古典のやり方を踏襲し、ピアノは音が外れるのも気にせず、間を合わせるように自由に弾いてみた。上手くいっているだろうか?



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