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【妖怪百科】豆腐小僧

 水木しげる著の『決定版 日本妖怪大全』によると、どうも豆腐小僧と大頭小僧は明確に別の妖怪として紹介されている。豆腐小僧より大頭小僧の方が頭が大きく、裸足である。豆腐小僧は動物が化けたものであるが大頭小僧は見越し入道の息子であり、何かが化けたものではない(見越し入道は狸が化けたもの説があり矛盾する)。ただ、どちらも豆腐を持っている。豆腐小僧は一つ目で描かれることもあり大頭小僧より自由度は高そうだ。
 その流れを汲むと、どうやら私が描いたのは豆腐小僧ではなく大頭小僧なのかもしれない。水木説とは別に、京極夏彦の小説『豆腐小僧双六道中ふりだし』では、大頭小僧と思われる容姿の豆腐小僧が見越し入道の息子として書かれており、果たして別の妖怪なのか、同じ妖怪なのか真実はわからない。まあ、妖怪相手に真実も何も無いのだが。

 豆腐小僧というやつは一体何者なのだろうか。なぜ豆腐を運ぶのか?なぜ豆腐なのか?こんにゃくではダメなのか?落とすと崩れてしまうハラハラ感が良いのか?全くを持って不可解な妖怪だ。見れば見るほど奇妙だ。不思議なことに、長く見ていると豆腐に必然性を感じてくる。こんにゃく小僧でも、ところてん小僧でも、羊羹小僧でもダメだ。豆腐でなくてはダメだ。そんな気持ちになってくる。小豆洗いの小豆がそうであるように、代替えの効かないアイテムを持った妖怪と考えられる。
 もしかすると、他のアイテムを持った小僧は存在したが、この豆腐という白くてプルプルツルツルした、無垢で滑らかな造形物があまりにも愛され、自然選択的に選ばれ生き残った可能性も否めない。そういった意味では、豆腐小僧は小僧系妖怪の進化の頂点に鎮座している。豆腐小僧の豆腐を食べると身体中にカビが生えるという後付け的な話はあれど、普通に考えて見知らぬ怪しい小僧の運ぶ豆腐など食べる由もなく、基礎的に豆腐小僧は攻撃力も呪いも皆無に等しいと言える。そんな豆腐小僧がこれほどまでに有名妖怪として君臨する理由は愛くるしさ以外考えられない。見た目もあまり賢そうではない。そもそも賢い奴は豆腐を盆に生で載せて屋外を運んだりしない。否、屋内でもだ。皿にも乗せず、カゴにも入れず、盆に豆腐を生で載せて持ち歩いた経験は、私にはない。そうなるとこの豆腐はもはや食べるためのものではない。なんのための豆腐か? いや、やめておこう。豆腐小僧に無数の疑問はあれど、問えば問うほど禅問答のように深みにはまっていくだろう。

 豆腐を運ぶ頭のでかい小僧が一人。これいかに?

 豆腐小僧は禅の精神が生んだ、禅的妖怪であると、もしかするとほんの少しだけ言えないことはないかもしれない。


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