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(文学)ガルシア=マルケスが好き

 最も好きな小説を挙げるとすれば「百年の孤独」が思い浮かぶ。南米の魔術的リアリズム小説。新潮社の鼓直訳が手元にあるが、このタイトルを見た瞬間から心を奪われたように思う。架空の街マコンドを巡る、アルカディオ家の物語。アルカディオ家の全ての人々は極めて特異で、孤独である。土を食い、町中に不眠症をもたらす美しい娘、美しさゆえに天に消える娘、金細工を作り続ける軍人、大混乱の家を守り続ける母。浴槽にあふれ返る黄色い蛾の群れ、揚げたバナナの香り。戦争。色彩に満ちた描写に驚き、張り巡らされた伏線に胸が踊る。まさに小説の楽しみが凝縮された作品だ。

 この小説から何かを学ぼうといった思惑や、ガルシアマルケスが何を表現したかったのだろうなどと考えたことがない。ただただ、ガルシアマルケスの物語に耳を傾ける。

 それは、一人の登場人物の生き様かもしれない。あるいは死に方かもしれない。もしくは、ひとつの事件かもしれない。この小説には無数の登場人物と小さな物語が詰め込まれている。読み終えると、必ずそれらのエッセンスの幾つかは長く心に留まることになる。色彩として、匂いとして、感情として。数年後読み直すと、また新たなエッセンスが突き刺さる。読み手である自分自身の人生のありようで、物語の味わいは変化する。時には記憶がすり替えられていたことに気づくこともある。公園で孤独にバイオリンを弾く男や、薔薇に飾られた少女の死、青い目の犬というメッセージはどのシーンだったか。探せどない。それはガルシアマルケスの別の小説。エッセンスとなり、心に刺さっている記憶は、百年の孤独を中心に、放射線状に広がるガルシアマルケスの世界の中にある。やがて、家中にあるガルシアマルケスを片っぱしから読み、果たして自分が探していたシーンは何だったのだろうと迷子になっていく。

 歌詞を書く上で、非常に影響を受けた。冒頭の一文の切り込み方や、匂いに対するアプローチなど、特徴的な要素は多い。もう数年前の話になるが、百年の孤独を読む時に自分が見ている映像、そこに鳴っている音をスケッチできないかと作品集を作った。実在しない、自分の脳内で公開されている映画のサントラといったイメージだ。お時間のある時にでも拝聴いただければ幸いである。スペイン文字が登録できず、妙な表記になってはいるが・・・


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