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牛乳を取り巻く環境とできること

新型コロナウイルスに関連した感染症で亡くなられた方のご冥福を心からお祈りします。また罹患された皆さまの1日も早いご回復をお祈りします。

生乳はナマモノ

今回の新型コロナウイルスで多くの人が先の見えない不安な状況にいることかと思います。生活、経営など個人レベルでも会社レベルでもたくさんの方が苦労しているのをSNSの投稿や、実際の街の雰囲気からも伝わってきます。

飲食業界を見渡すと、今回の影響を受けて苦労されている中で率先して様々な動きをされている方がいらっしゃいます。そうした方々のへの応援の気持ちがある一方で、普段当たり前のように利用している都市部の飲食店がいかに豊かであるかを実感し、感謝し、この豊かな食を守っていきたい、という気持ちに改めてなりました。

そんななか、小中高校が休校になるという事態から給食が停止になることで、生乳を大量に廃棄せざるを得ない可能性が出てきたというニュースが流れました。

生乳というものは生鮮食品であり、極めて賞味期限が短い商品です。
ですが、生乳を加工することによって、賞味期限をのばすことが可能となります。
言わずもがなですが、生乳の加工品というのはチーズやバターといった乳製品です。

日本の牛乳をとりまく制度

日本には指定生乳生産者団体というものが存在し、北海道、関東、など10のブロックに別れていて、そのブロックに多くの酪農家が属しています。
2018年より緩和されてきましたが、以前は酪農家はこの生産者団体に属していると、牛乳を100%その団体に納めなければならないというルールがありました(その中に自家消費枠というものがあり、そこから酪農家さん直売のソフトクリームや牛乳がつくられています)。

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そして団体を通じ、乳業メーカーとで取引が行われます。その歴史は長く昭和41年にまでさかのぼります。

この団体には長所と短所があると私は考えています。

長所
・乳業メーカーと対等な取引ができる。(1農家だと交渉力が弱く、安く買われることもある)
・毎日全量を販売することができる(1農家だと毎日取引をしなければいけない)

短所
・すべての生乳が混じって乳業メーカーに運ばるため酪農家は個性が出せない。
・どれだけ個性を出すよう餌などに努力をしても、買取価格は同じ。

また外部からみていて少しこれはおかしいなと思うのは、属していない酪農家が「アウトサイダー」という呼称で呼ばれているところです。

資本経済においてこの制度は、プロダクトのクオリティを上げるための競争性や発展性が生まれにくいという点で、改革が必要ではないかと考えています。

しかし一方で、今回のような休校で学校給食用の生乳が出荷できないといった事態では、この団体に属していれば、乳業メーカーが賞味期限が長いバターやチーズに製造を転換させ生産調整を行うことが可能となります。つまり、収入の多少の変動はあっても守られるわけです。こういった生産者団体という制度が多くの酪農家を救っているというのは事実です。

乳価(乳価格)

牛の乳は生産用途によって取引価格が変わってきます。
現在、都府県では指定団体↔乳業メーカーで飲用乳価は110円/kg程度、チーズ用乳価は85円/kg程度で取引されます。販売する際の商品の賞味期限が長ければ長いものほど安い価格で取引されます。

(CHEESE STAND他、多くの都府県のチーズ工房では、都府県での乳量のほとんどは飲用乳としてほとんど製造されているため、チーズ用乳価ではなく飲用乳価で取引をしています)

市場には需給バランスがあるため、飲用乳の方が価格が高いからといって、飲用乳がたくさん売れるわけではありません。賞味期限が長いプロダクトがあることが乳業メーカーにとっても、指定団体にとってもいわゆる保険となっている訳です。飲用乳で売れない分は賞味期限が長い分、安くなります。安くなる分、酪農家保護という観点でチーズ用乳については、国から酪農家に対し10円/kg程度の補給金がだされます。

つまり今回のような事態ではおそらく、飲用乳が余らないようにチーズ用乳価やバター用乳価で取り引きされ(実際に作られ)、酪農家には飲用で売れる価格よりも少し低い価格で取り引きされることになるのではないでしょうか。

生乳過剰のニュースを受けて

さて、今回報道されたような、生乳の廃棄という事態は一部の「アウトサイダー」では起こりうるかもしれません。

僕たちがチーズを作ることで何かしら貢献できればとも思いましたが、作れる量がしれているため、根本的な解決とはいえず、とてももどかしい思いとなりました。

酪農家の方のことを思うと、今回、この指定団体制度があってよかったな、と思う一方、自分たちの無力さを感じずに入れませんでした。チーズ製造メーカーとしてもっともっと力をつけたいと思いました。

しかし、生乳が余っているということは確かです。チーズ職人として何ができるか考えた末に、今回、より多くの人に現状を知ってもらったうえで、牛乳をたくさん飲んでいただけたらなと思い、記事を書くに至りました。
酪農家やチーズ、食を応援するために、ぜひみなさんの食卓に応援する商品を並べていただければ幸いです。


原田さん(元農水省畜産部部長)のFacebookの投稿がとてもわかり易いです。

ローソンさんの対応の速さは流石です。

補足:
生乳:殺菌していない乳
牛乳:牛から取れる乳
と定義し、書いています。わかりづらい点があるかもしれませんがご了承ください。

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