古舘佑太郎の旅日記がおもしろすぎる


 文才がありすぎる。2週間くらい前からインスタで始まっている。おすすめです。
 というLINEが友人から届いたので、スマホを取ってインスタを開いたら、いきなりトップに出てきて笑った。僕がフォローしている大根仁監督も絶賛した、ちょうどそのタイミングだったせいです。なんにせよ、もうあちこちで評判になっているということが、身近なところで、よくわかりました。

https://www.instagram.com/yutaro_furutachi/?img_index=1

 で。一読して「これはもう確実に、いくつか出版社が動いているだろうな」と思った。確かに、それくらいおもしろい。
 今日(3月17日の日曜日)の朝に、その時点で13回アップされていたのを全部読んで、夕方にもう一回全部読んで、夜、家に帰ってまた読みたくなって開いて、「お、更新されてる!」と喜んだ時点で、タダでこんなに楽しませてもらっているんだから、何か書くべきではないか、と思い、こうしてこれを書いている。

 では、何をそんなに魅力に感じるのか。
 まず、文章そのもののうまさ。事実関係と、その時思ったこと・感じたことを、勢いまかせにダーッと書いているように見えて……いや、勢いまかせにダーッと書いている可能性も高いが、それでいて「いらないところ」がない。「自分が書きたいことで、読む人にとっておもしろいこと」と「旅を読者に共有してもらう上で情報として必要なこと」しか書かれていない。
 でいて、その「読む人にとっておもしろいこと」って、要は自分がひどい目に遭ったことなわけだけど、それを書く時の温度感が絶妙なのだ。大げさでもないし、謙虚すぎもしないし、露悪的でもないし、とりつくろってもいない。正直に書いてあるが、そこに「こう思ってもらいたい」みたいな作為がない。まあ「こんな目に遭ってるんだから、せめて読んで笑ってほしい」というのはあるだろうけど、それを実行に移す際の左脳や指先に、余計な力が入っていない、というか。
 THE 2の東阪解散ライブを終えた彼が、今挑んでいるような、いわゆるバックパッカーの旅をしたことのある人は、みんな、彼くらいひどい目に遭っている。もっとエグい経験をした人も、いっぱいいる(彼もこれからするかもしれない)。
 でも、そうであっても、日記とかを読むと、彼ほどはおもしろくはない。という理由は、そのあたりにあるのだと思う。
 僕は、東南アジアとかを貧乏旅するバックパッカーが書いた、日記とかエッセイとかコラムとかの類いが好きで、その筋のプロ中のプロであるサムソン高橋の『世界一周ホモのたびシリーズ』から、一般のバックパッカーが書いた旅ブログまで、よく読む。なのでよけい、そう実感したのだった。

 あと、写真の良さ。色味と構図がいい(特に色味)、つまり写真がうまい。あるいは、いっぱい撮った中からその1枚を選ぶ、セレクト眼が優れている。
というのも大きいが、それ以前に感心するのは、文章だけ読むと、写真を押さえてあるとは思えないようなやつまで、ちゃんと写真を撮ってあって、アップされていることだ。自分の帽子から落ちたコンドーム2個とか(第14回・3/17アップ)。
 つまり、何か事件が起きるたびに、「これは書かなきゃいけない、書くんだから写真がなきゃいけない」と、周囲に変に思われることの恥ずかしさ等に心折れることなく、がんばって撮っている、ということだ。
 見上げたジャーナリスト魂である。「Oh…What is this…?」と言いながらコンドームの写真を撮っている彼を見ている女の子ふたり、という図を想像すると、さらに笑えるし。
 ただ、逆に考えると、「すごいことが起きたけど、撮れなかったから書かなかった」というケースも、もしかしたら起きているかもしれない。

 あと、読むと楽しい個人的な理由も、今のところ、ふたつあった。
 まず、僕は全然バックパッカーではないが、東南アジア一帯が好きで、この30年くらいで何度も行っている、ということ。特に、第13回(3/16アップ)と第14回(3/17アップ)、ベトナムのダナンに着いてそこからホイアンへ行く、というやつ、1ヵ月ちょっと前に、同じルートで旅したばかりなのです。
 ホアイ川で灯籠、僕もひとつ買って、流しました。それ用の観光ボートに乗るのは面倒だけど、せっかく来たのに流さないのもなんだから、岸で灯籠を売っている婆さんから買って流す、という、雑な楽しみ方でしたが。

 で。もうひとつの個人的な理由は、「うわ、懐かしい!」という案件が、一連の日記の中に含まれていたことである。
 昔アルバムのジャケ写でお世話になった写真家、藤原江理奈がタイにいるとのことで、再会して写真を撮ってもらった、という第3回(3/3アップ)の旅日記。藤原さんが撮った彼の写真の最後に、そのジャケ写もアップされているのだが、この時の編集者、僕なのである。
 ジャケットなのに編集者、ってどういうことなのかというと、この写真、もともとは、2014年に、Hという雑誌に載ったものなのですね。
 僕がそのページの担当で、当時The SALAVORSのボーカルだった古舘佑太郎に取材をオファーし、インタビューは自分、写真は藤原江理奈にお願いして、下北沢の喫茶店を借りて撮影を行った。
 で、雑誌が出た後、彼はその写真をとても気に入ったようで、「今度ソロアルバムを出すのでジャケットに使わせてほしい」という連絡がスタッフからあり、「どうぞどうぞ、じゃあ、あとは藤原さんと直でやってください」ということになったのだった。
 そういうのってうれしいことなので、忘れてはいなかったが、藤原江理奈が今タイにいることは、僕は知らなかった。彼女のインスタにも、彼と再会したその日のことが書いてあって、そっちもとてもいい文章です。
 余談ですが、藤原さんとは、それよりさらに8年前、DJ OZMAの取材で、一緒にソウルに行ったことがあります。繁華街で撮影をした合間に、いかがわしい店の看板がズラッと並んだビルの前で僕を撮って、後日、プリントしてプレゼントしてくれました。今でも仕事机の横のレコード棚に保管してあります。

 というわけで、古舘さん、ひき続き、更新を楽しみにしています。と書いて、終わりたいところだが。
 第7回(3/8アップ)に、2ヵ月かけて最終的にはネパール、インドまで行く、とジャーマニー出身の陽気なお母さんに言ったら絶句された、「あそこは最高だけど東南アジアの100倍クレイジーよ。あなた本当に大丈夫?」と心配された、と書いてある。
 純粋な読者としては「行け行け、ひどい目に遭え遭え!」と言うべきところだが、数々のインド旅行記を読んでビビってしまい、「インドには一生行かない」と決めている僕としては、「やめといた方がいいのでは……」と、止めたい気持ちなのだった。けっこう本気で心配。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?