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鋸山に行って来たよ-05

これまでのお話


鋸山から保田駅コースは関東百名山ガイドブックで見つけた。その後、インターネットで地図をプリントアウトしたところで満足してしまいコースの確認はちゃんと行っていなかった。旅立つ前夜、コースを改めて確認してみると全長8.4kmのコースのうち4.6㎞も林道路を歩くことに気づいた。

林道路は山の中に走る車道・・・・・・ってことは補正された道路だよね。

「コースの半分以上、コンクリ道路歩くみたい」

「嘘っ!」

膝に優しい土道を好む私たち、補正道路はどうも硬くて膝に響くので長時間散歩には向かない。
ハイキング予定を組むのは全て私なので事前に気づかずちょっと申し訳ない気持ちになった。

「ちゃんとルートが出来ていないからいけない」

たぁは私ではなくコースへの問題点を指摘したけど、私がしっかりと調べていたらこんなことにはならなかったという思いの方が強い。

とりあえず当日にいろいろと変更がきくように他にもいろいろと地図を取ってきた。その中には浜金谷駅周辺の地図があり、それを見ながらピザ屋へと向かう。

改札を下りるとロープウエイの案内板がありそれを見上げるパパと息子の姿がある。彼らは電車の中で私たちの隣の席に座っていた。気ままな息子に物静かそうなお父さん。

エンジョイ、親子の冒険タイム。

道を左に曲がってそのまままっすぐ進む。
電車からたくさん見えた菜の花が道沿いにも咲いていて鮮やかな黄色が眩しい。

暖かくなり始めたこの季節、喜んでいるのは人間だけじゃないね。

鋸山は有名な観光地でも周辺は静かな住宅街。昨年訪れた石岡駅や日光周辺のそれとは異なる海の町。

「久々にこういう田舎に来た。ちょっとマンガヌイに似ているよね。」

マンガヌイはたぁの母国、ニュージーランド北方にある静かな町だ。見た目は全然違うけど、なんだか雰囲気が似ている気がする。

「言っていることわかる。町に海の匂いがする」

彼も同じものを感じているようで良かった。

先に鋸山のギザギザが見えてきた。

この山からは房州石と呼ばれる建築に適した良質の石材が取れ、江戸時代から盛んに採石が行われてきた。露出した山肌の岩が鋸の歯のように見えることから「鋸山」と呼ばわれるようになったらしい。

山の上部は壁のようにまっすぐな岩肌が見えている。別名「ラピュタの壁」と言われていることに納得。今からあそこに向かうんだと思うとなんだかドキドキしちゃうわ。

海へと繋がる川に橋が架かり、水量が少ないそこにアヒルが二羽ぷかぷかと気持ちよさそうに浮かんでいる。その先には商店があり、向かいの建物の駐車場では若者たちはバーベキューを楽しんでいた。

いい。

ゆっくり流れる田舎時間を皆が思い思いに楽しんでいる。

「あっ、こんな場所に案内所があったよ」

近づいて見るとそこがピザ屋さんだった。

入り口には鋸山への登山届用紙とポストがあった。お店の中に案内所があるのかなと思ったけど、ドアを開けてもそれらしきものは見当たらないおしゃれな飲食店だった。

11時に開店したばかりのお店には既に一組のお客さんがいた。

「好きな場所にお座りください」

私たちは端の二人席を選んだ。

夜は港のお寿司屋さんで魚を食べる予定。これから山に登るならカロリー高めでたぁの好物のピザが良いと思った。窯焼きと謳っているし、期待できる。

メニューを見てみるとお勧めに“シラスとアジ”という文字がある。

「たぁ、食べたくないでしょ」

「ナッ(=NO)」

彼はオーソドックスなピザしかいただかない。

シンプルなピザ、Lサイズが2.5人前で2500円くらい。

「ちと、高いなぁ」

観光地値段、想定内といえば想定内。それに寒い冬を乗り切ったんだから、今回はあまりお金のことを気にするのは止めよう。

「たぁはどれ食べたい?」

「シシリアーナかな」

私が苦手とするトマトメインのピザをよくぞ選んだね。まぁ生が食べられないだけでしっかり焼かれたピザはうましソースに変身するんだけど。

「えー、それ?」

だけどちょっとここでしか味わえない変わり品を食べたい私。

「好きなの選びなよ」

とは言われるものの、シラスとアジは拒否られたばかり。4種のピザも気になるけど油でお腹を壊すことが多い私はこの後のハイキングを思って慎重に選ぶ。

他にもサラミのピザとかたぁは提案してくれたけど、平日の今日はハーフ&ハーフは選べないようで、ここはシンプルに彼の選んだ品にしよう。

「シシリアーナでいいけどチーズ乗せて」

チーズ好きな彼は大きく頷いた。

時間が経つにつれてお客さんが増えていく。

一度都会に出てしまった若者が自分たちの故郷を盛り上げるために戻ってきて活性化を図るというのをテレビで見たことがある。

彼らもそうなのかと勝手にも思う。それでもここの開店時間は11-15時、早めに閉まるところがなんだか良い。

光を差し込むガラスにはひびが入り、光が反射して美しい。

「アートだね」

良い角度を狙って撮った写真を見せるとたぁがそう言ってくれた。

同じ感覚で嬉しいわ。

丁度良い時を経てピザがやって来た。

うーん、見るからにデリシャス。

「いただきます」

カットしたピザを口へと運ぶと柔らかすぎて崩れてしまった。ここはおしゃれにナイフとフォークでいただこう。

ちょっとした弾力がある生地の歯ごたえは良く、食材もチーズも味が濃くておいしい。

静かにおいしい味に浸りたいけど、隣に座った小さな子供を連れの家族のお母さんの声がやたらにでかくて店に響く。隣で聞いているから私たちが黙るとまるでそのグループの中にいるかのように声が届く。

Lサイズピザは私たちにはちょっと量が足りなかった。だけどこれからハイキングするんだからちょうど良かったのかもしれない。

お会計を済ませて外に出る。

「おいしかった?」

「うぅん。石窯だけど石炭っぽい味がちょっとした」

へぇ、そこまで気づかなかったよ。



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