見出し画像

「コインランドリーで君を想う時間が好きなんだって」

二十歳で親元を離れて一人暮らしを始めてから、一度も洗濯機を自宅に置いた試しがない。

28歳になった今も、相変わらずだ。少しの出来心で買ったピンチも物干しも、もうベランダで錆びてしまってる。


「ねえ、そろそろ二人暮らし始めるしさ、洗濯機、買おうよ。ドラム式のやつ」

ソファでコロコロする君が、唐突にそう言い始めた。一呼吸置いて「うーん、いいかもね」と返す。

「ねえ、どうしてずっとコインランドリーばかりだったのさ? そんなに好きなの?」
「んーとくに理由はないよ。わざわざ買うのもめんどうかなって思ったんだよね」
「ふうん?」


手元の雑誌に目をやる彼、テーブルの上の飲み干したカップをキッチンに運ぶ私。

「コインランドリーで君を想う時間が好きだったからだよ。深夜、仕事帰りの君のLINEを待つ時間が愛おしかったからだよ」

そう教えてあげるのは、いつのことだろうね。


「今週末、電気屋さんに行ってみようか」
キッチンからそう声をかけた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?