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楽曲解説:「一輪の花の絵画 / feat. 重音テトSV」

作詞・作曲・イラスト・動画:しのはら
twitter : https://twitter.com/shinohara5382


序文:

ある売れない画家が書いた、油絵。
「一輪の向日葵の絵画」

その画家が亡くなったあとも、
決して作品への評価が高くはなく、
幸い子宝には恵まれたものの、残った家族・子孫は絵画とは無縁の職業につき、画家が大切に書いたこの絵への愛情は次世代には引き継がれず、失われていく---


この絵画か描かれた時代設定:

19世紀後半、ゴッホの生きた時代(1853〜1890)
絵画のサイズ:縦1.5m x 横幅 1.1m
麻のキャンバスに描かれた、油絵


画家がこの絵を書いた経緯:

この絵画のモデルとなった人物は、存在しない。
作者が、30代前半に画家として多少の評価を得られるようになり、
都市近郊への移住を決断した。

ひまわり畑に囲まれ、山脈から降りてくる
綺麗な流水に恵まれた生家を離れることとなり、
愛していた景色を残しておきたくてこの絵画を残した。

目に焼き付くような、鮮明な黄橙の花びら---
葉脈を流れる、透き通った流水---
凛々しく伸びる、翠緑の茎---
これらを人物の姿に置き換え、この絵画を残した。


絵画と画家との関係:

画家の存命中、
この作品は常に画家のアトリエに置かれ、
人目に触れることはなかった。
絵画は作業をする画家の姿を見守り、
また画家も事あるごとにこの絵画を見つめ返していた。

日当たりの強くない場所に置いかれていたものの、
絵画の完成後は特に
修復作業が行われることもなく、
年月が経過していく---


画家との離別:

都市近郊への移住後、
素敵なパートナー、子宝にも恵まれる。
家族を養うような収入は得られており、
都市の中心部から少し離れた、
森のある丘の中腹に
小さな洋館を持つこともできた。

しかし画家は特に大成することもなく年月が過ぎていく。
小さな洋館の、
画家のアトリエでひっそりとこの絵画は飾られる。
画家の顔立ちに似た子どもたちが、
画家の作業が気になるため、
次第にアトリエを訪れるようになる。
大切な絵画であることを
画家は子どもたちに語りかけるが、
特に子どもたちが重く受け止める様子はなかった。

戦火に脅かされることもなく、
淡々と年月が過ぎていくが、
画家は老衰による入退院を繰り返し、
アトリエで過ごす時間は減っていく。

絵画に近況を伝えることも、
別れを告げることもできないまま、
画家がアトリエに戻ってくることはついになくなる---


画家の没後:

「この絵だけは売らずに家に残しておくように」
という遺言を残して、画家は静かに息を引き取る。

絵画は画家が大切にしていたものであるし、
アトリエ内に置いたままではなく、
家族の目に触れるようにしようという提案があり、
絵画はアトリエを跡にする。

ただ、目立つ場所に飾られることはなく
小さな洋館の、アトリエにつづく廊下に
ひっそりと飾られることとなる。



居場所をうつった絵画の心境:

アトリエにいた時より、少しだけ外の光が眩しい。

居場所は変わったけれども、
大切なあなたどれだけ待っても、戻ってこない。
あなたに似た面影をもつ、子どもたちに
もう4人ほど新しく出会ったのだろうか

最初はあなたによく似ていた子どもたち、
またその子たちの子どもは
少し違った顔立ちをしていて…
---あなたの面影はどこか遠いものになってしまった気がする

時折溢れる涙が、ほんの少しずつ、
剥がれ落ちては私の輪郭をぼかしていく---

あなたの面影が記憶のなかで遠くなっていくのと
おなじような速度で色褪せることを感じる---
色褪せた私をみても、
あなたは私を思い出してくれるのだろうか
不安でまた、ほんの少し、涙が流れる---




火災:

ある日、記録的な熱波と強風により、
自宅近くの森で火災が発生。
枯木の擦れあいにより火の手があがり、
風がつよく乾燥した日であったため
瞬く間に洋館まで火が迫る

つかの間の休日を、
洋館の中で過ごしていたはずの家族たち。
家の中が急に慌ただしくなる。
それぞれが大事なものを
少しでも持ち出そうと駆け回る音が、
家中に響きわたる。

もうこの家に、画家を志す人はだれもいない。
アトリエもほとんど人のこない、
物置になってしまった。
そこに大事なものを置いている人はいない。

火の手が迫ろうとするなか、
アトリエの近くまで来る人は、
アトリエに続く廊下にある絵画を気にかける人は、
誰もいない。

重く、色褪せてしまった絵を持ち出すほどに、
その絵を愛している人はもうそこは存在しない。

それでも、時折顔を見せてくれた、
画家の面影を少しでも残している子どもたちに、
無事を祈るように絵画は微笑む。
そうすることで塗料がまた剥がれ落ちてしまうことを知りながら。
そして、わざわざその笑顔を見にきてくれる人はいないことを知りながら。


灰に変わる絵画:

絵画がいない方の家の側面から火が迫り、
ついに家の中でも火の手があがってしまう。

日光で照らされていたはずの廊下に、
少しづつ橙色混じりの明かりが広がっていく
火の手がついに迫ることを絵画も理解する

絵画は、ただ静かな佇まいで近づく炎を見つめる。
橙色に光ったところから、
焦げついた黒色、または燃え尽きたような灰色と、
だんだんと眼前がモノクロームな色調に変わっていく

絵画にも火の粉が降りかかり、
下の方から炎がじわじわと拡がっていく。
灰となって、だんだんと崩れ落ちていく絵画。

画家に吹き込んでもらった絵画としての生命が、
灰となって、想い出とともに消失していく

画家がどういう髪の色をして、
どんな色の服を着ていたのかなんて、
記憶はとうに灰色になってしまって、
崩れ去ってしまっている

灰色に変わり果てようとする絵画、
灰色になって崩れ去ってしまった画家のイメージに、
寄り添うかのように、崩れ落ちていく

「このまま二人とも、
崩れ落ちた灰になってしまえば、
どこかで同化して、
また巡り合えるんじゃないかって

あなたならそういって
また優しく私を見つめ返してくれるんじゃないかって」
絵画はそう祈りながら迫り来る火の手を受け入れる。

もう火の手は首元まで迫っている
二人で過ごしていた、あの優しい時間はもう戻ってこないんじゃないかって
絵画は不安を抱えながら、わずかに残っている塗料で涙を流そうとする
…残っていたはずの塗料はもうすべて焼け落ちてしまったにも関わらず

「このまま全て焼け落ちてしまったあと、
あなたの想い出はどこにいってしまうのだろう?
私の存在は、どこに行ってしまうのだろう?」







「あぁ またあなたが遠ざかっていく」










Special thanks : モミ アゲヲ様 
twitter : https://twitter.com/momi_agewo

この文章を書いた人:しのはら
twitter : https://twitter.com/shinohara5382


あとがき:

散文的な文章になってしまいましたが、
少しでも今回つくった楽曲の世界感の補足として
この文章を楽しんでいただければ幸いです。

「憑依」をテーマにした楽曲投稿祭、
モミアゲヲ投稿祭2023に向けた楽曲として
2023年4月中頃よりこの楽曲の制作を始めました。

絵画に憑依して、絵画の目線で、
作者との関係を描写できると面白いなと思って、
どういう結末にしようかと悩みながら少しずつストーリーを書き進めました。

絵画は生物ではありませんが、使われる画材は劣化していきます。
また、人間は、残念ながらいまのところ寿命が存在する
≒劣化していく生き物です。

そこで、よくファンタジーもので描写されるような、
エルフと人間との寿命差とか、そういう"差"にまつわる切なさとかを
表現できるストーリーにしたいなと思いました。

人間の方がどうしても早く劣化してしまうけど、
輪廻の中で、永い時間を経たとしてもまた巡り合えるといいなと思って、
「いつかあなたが もどってくれば
色褪せた私でも思い出してくれるかな」
というフレーズが浮かびました。
これはメロディーラインも同時に浮かんでます。

その次に、ふたりとも劣化していくのは避けられないけど、
その中でまた巡り合えたときの喜びに期待する
「あなたなら「ふたりとも灰色だね」って笑ってくれて
また二人で時間が過ごせるのかな」
というフレーズが浮かびました。

この2フレーズを補うつもりで、
他の部分のストーリー付けと、残りのメロディー付けを行いました。

最後切なく終わらせたかったので、
ふたりの関係が一番良かったころの表現から歌詞を始めれば
ギャップが生じてストーリーに落差が生じるので、
まずは絵画に凛とした表情を与えました。

そこから、劣化が進み、最終的には灰になってしまい…
という形で切ない方向に歌詞を展開させていきました。
「崩れ落ちた灰でも抱きしめてくれるかな」
という終盤のフレーズが自分では一番気に入っています。

…この曲から話は逸れますが、
私は歌詞・メロディーを先に作って曲を書いています。
曲の作り方にはいろいろな方法があるかと思いますが、
私はいまのところこのやり方が合っています。

言いたいメッセージを強いメロディに乗せてワンフレーズ作って、
それを際立たせるために、
落差を感じさせるような歌詞展開、
メロディー展開を考えて曲を作っています。
…いまだに手探りで作っていますが

コードをつけるのは大体そのあとですね。
もっと転調とかを使った曲展開もやってみたいので、
いろんなメロディーづくりに挑戦したいと思ってます。

ここまで長文に付き合っていただき本当にありがとうございます。
曲の作り方の一例という点でも、
このあとがきが何かの役に立てば嬉しいなと思います。

しの


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