【連載詩 西町幸福通り理容店 最終回】
〈西町幸福通り理容店〉
閉店直後の理容店は
一日のよどみを安堵に変える
どこか 暖かい色をみせる
働き通しのハサミたちは
油のごちそうの列にならび
熱を保った蒸しタオルは
丸まった姿勢から解放され
洗濯機へと 帰っていく
わらい声とため息の
多数の名残が混じりあい
すすけた壁に張りついていた
誰かの夢が浮遊しては
成就したのはいつだろう
寄りそい設置された
ふたつの椅子だけが知っているようで
重ねた時間が綿毛のように
降り積もる/(埋もれる夜)
疲れたいのちを あたためあう
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写真、お借りしました。
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〈あとがき〉
2回に渡り小さくまとめて理容店の姿を描きました。今回は、夫婦で営む椅子が2台だけの広さの店をテーマに、なるべく人間は表に出ないような形で、そこに根付く物語を、ハサミやタオルなどの道具を使って表現してみました。
私は出かけた先ではもちろんのこと、テレビの旅番組など小さな店構えで営業しています理容店が映りますと、気になってしまいます。例えば、昭和レトロが漂う建物で1階が店舗であって2階にその家族が住んでいるような、正直なあきないをしてきた雰囲気が滲み出ている店を前にしますと、目を向けてしまう傾向があります。
以前、一人前の理容師を目指していた過去があるからだと認識していますが、父親の跡を継がなかったという思いのほうが強いからかもしれません。
変わってゆく町並みの中におきましては、そういう理容店を見つけることが難しい現状になりつつあります。発展という言葉のなかには、変わってはいけないようなものまで淘汰され、消えてしまうものもあるでしょう。 (もちろん、状況にもよりますが…)
自分のなかで変わらない部分、変えてはいけないなと思っている部分を大切にしてください。
見つけて読んでくださいまして、ありがとうございました。理容シリーズは完結となります。あらためまして、たくさんの訪問に感謝申し上げます。
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