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【詩】断捨離

燕はどこか遠くから来て
遠くへと去ってゆく
高速道路の通っていない町が
透明度を増した午後

虹が架かる

マイナーコードから始まる曲ばかりを
好んで聴いた
スケジュールの定まらない日
思い出の輪郭を追って
終わりのないゲームのように
夢の散りぎわが
細く長く
私の空に消えずに残る
遠い夏になろうとする一瞬を
肌は記憶に留めようとする

(マグカップを処分する。カーテンを外す
 すり減った菜箸で調理してきた筑前煮の
 鍋底に染み付いた二人ぶんの匂い、ガラ
 スの嵌まった低いテーブルの上で陽光が
 踊る。踊る光景をあなたは知らなかった)

ひかりを捕らえてシャッターを切る
人たちを遠目に
虹は全貌を見せぬまま消えてゆく

夜に向かって加速する大気に
乗り遅れまいと
タチアオイが揺れる傍らで
置いてくものを選択する
明日には
すこし
身軽になるからだを連れて
ゆび先が言い訳を探すだろうか

     (詩集、雨が生む色彩 より)

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