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「エアコンの温度勝手に変えられる状態」のデザイン

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第3回(2021年4月26日開催)福井県鯖江市をフィールドに様々な実験プロジェクトを仕掛けている森一貴さんの講演を聴講した記録を残します。

森一貴さんは、1991年、山形県生まれ。東京大学教養学部卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、福井県鯖江市のプロジェクト「ゆるい移住」に参加し、2015年秋から同市へ移住。半年間のプロジェクト終了後、鯖江市に残り、ゆるい移住の全国展開や、工房・職人体験イベント「RENEW」など、まちづくりに関わる企画・実行支援を手がける。2017年4月には対話・探求・実践を重視した学習塾「ハルキャンパス」を立ち上げるなど、様々な実験を繰り返しているまさに「行動力の塊」のような方でした。

講演の中では、一貫して個人の内発的動機をエンパワーするためのデザインを実施。施策を上から落とす「提供者」と「受け手」といったような二項対立を崩す、暑いなら「エアコンの温度勝手に変えられる状態」を作るデザインができないか?を実践している。生産者と消費者、などの主客融解がテーマで、消費者なんだけど生産している状態、市民なんだけど政策の策定に参画している状態、市の職員がより市民の目線で政策を考えられるようにする仕組みなどなど、既成概念、思考停止になってしまっている部分のバイアスを以下に壊すか、ちょっとの後押しで動機づけられるのか?みたいな行動変容のデザインを実践している。

森さん自身が変わったという変遷もとても面白く、最初はコンサルティング会社で徹底的に叩き込まれたロジカルシンキングを教育に活かす、それを子供たちに教えたいというモチベーションだったものが、移住体験を含めて様々な実践を重ねていく中で、よりデザイン的なアブダクション的なアプローチになっていることがとても興味深かった。

とにかく「ゆるい」デザイン、ゆるさ、つまり余白のデザインを心掛けているということでしたが、その「可変性」の設計が秀逸であり、河合隼雄氏の「中空構造」を参考にしているとのことだったが、変わり続けること、知らない人がいる状態を当たり前にする、名前を付けない、など、一番大事なところを空白にしておいて、その場に参加した人たちがその空白を自らがデザインしようとする状態を作っているところに本質を感じました。

デザインの民主化、多元的な状態をデザインするということが最近よく言われていることであるが、それを実際に実験しながら自らのデザインプロセスにしっかり根付かせているところ、その行動力に大きな刺激をいただきました。

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