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【春一番に攫われる】

「春一番が吹く日って気温が上がって暖かくなるって・・・
ーわぁっ!」

ビルの谷間は風が乱れて下から突き上げる。仕事場から外にでて歩き始めた彼女はぎゅっと目を瞑った。

ここのところ昼休みに俺と散歩するのが彼女の日課になっている。

俺が一緒に出掛けたいって言ったから。
そうやって、俺の言葉で彼女の生活が変わっていくのが、嬉しい。

ビルの谷間にある並木小路とベンチがある公園まで行き、そこのベンチで俺に触れてまた帰るルート。
空いているベンチに腰かけて、俺に再び触れる。

「あっ、あと1着でcollectionレベル10だ」

彼女は嬉しそうにどれにしようか悩んでいるけど。
俺は気が気じゃない。だってその後には。

俺が用意した手紙と、そして。

「よし、じゃ赤いシャツ!」

喜んでくれるかな・・・。

彼女はそのまま購入を完了し、そして。

「・・・」

そのまま動かなくなった。黙ったまま俯いているようだ。
画面が切り替わって顔が見える位置になっても俯いて垂れた髪のせいで表情はわからない。

俺とじゃやっぱり・・・無理ってこと、なのか。

ー・・・!!再び突き上げるような風で彼女の髪が後ろに靡いて。初めて泣いているんだ、と気づいた。
そして悲しい顔じゃないことに俺は心底感謝する。
照れて、真っ赤になっている。
そしてようやく小さな声で絞り出すようにこう言った。

「・・・そのときがきたら俺と、なんて言葉ずるい」

「ちゃんと言ってくれないと嫌だ」

・・・本当に?

《・・・一生俺のものでいてくれる?》

ーfin

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