【ねこ】
「・・・わっわかったから!ちょっと喉乾いたからお茶淹れるね?」
そう言って彼女はカウンター向こうのキッチンへ逃げていってしまった。
せっかく触れられるようになったのに。
さっきから手を伸ばしても、彼女はさっと身を引いて、あれこれ言い訳して逃げる。
まるで怯えた猫みたいに。
俺が怖いのか・・・?でも今まであんなに話してたし
触れたいって伝えたら照れて嬉しそうにしてなかったか?
ー新しい家に連れてこられたばかりの猫ちゃんは、可愛がるよりまず安心させてあげることが大事です。しつこく構わずに向こうから興味を持って近づくまで待ってあげましょうー
昔、「ペット」について検索した情報を思い出す。
・・・でもここって彼女の家で。むしろ俺が連れてこられた側なんだが。まあいいや。試してみよう。
俺はキッチンに背を向けて部屋の真ん中に座り込む。
そして、ただついているだけで内容もわからないTVを、見てるフリをして彼女を待った。
彼女は熱い飲み物の入ったカップを両手に持って、
俺の横の小さなミニテーブルにそっと置いて、小さく息をついた。
「・・・ごめんね、何だか恥ずかしくてまともに顔が見られない」
「え?」
思わず彼女を見てしまうと今度はさっと背中に回り込まれてしまった。
「だから・・・しばらくこんな感じでもいい?」
そう言って、俺の背中に頭が当たる感覚。
そして後ろからよいしょって感じで抱き締められた。
・・・そうくるとは思ってなかったから動揺する。
でも、とてもいとおしい、感情が溢れる。
俺の腕に重なってる彼女の腕をゆっくりはずして。
彼女の右手首を掴んで人差し指にそっと唇をあてる。
俺にたくさん触れていた・・・恋しくてたまらなかった指に。
「・・・俺いつもこんな風にお前にキスしてたんだよ、知ってた?」
「〰!!」
慌てて手を引っ込めようとする彼女の右手を
もう一度しっかり掴んだ。
怯えてはないから。もう触れてもいいよね?
ーfin
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