【朗読台本】地球の最期とシナモントースト
推定朗読時間5分。
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地球は二百二十三日後に滅ぶ。そう知らされたのは三日前。日曜日の朝だった。
私はシナモントーストをかじっていた。
スマホがけたたましい音を上げ、彼らから家畜である人間へのメッセージを伝える。
危なっかしい日本語で彼らが告げれたのは、地球滅亡のお知らせだった。
私の頭は暢気だった。
あと一日早い二百二十二日後だったら、にゃーにゃーにゃーだったのに。きっと、SNSでひどく盛り上がっただろう。
馬鹿だなと思う。でも、それくらい実感がなかった。彼らに支配されているのと同じように。
だけど、世間はそうではなかった。
彼らに反旗を翻す者(もちろん粛清された)、彼らから逃亡を図る者(もちろん捕獲された)、彼らに哀願する者(もちろん無視された)、皆さまざま。
私の周りもパニック状態。
月曜日、いつも通りに出社したが、人はまばらで、翌週になるといなくなった。がらんどうのオフィスに私が一人。
それはどこも同じようだった。
働く人がいなければ、コンビニもスーパーも開かない。インフラだって怪しくなってきた。
きっと、彼らに滅ぼされる前に人類は自ら滅ぶのだろう。
私は達観していた。
シナモンが手に入らなくなって久しい。
朝の楽しみを失った私は部屋の整理をしていた。どこからかシナモンが出てくることを期待して。
押し入れを覗く。こんなところにシナモンがあるはずがない。知っている。シナモン探しは最近お気に入りの空想遊びだ。
耳をつんざく怒号が聞こえた。もはや私はびくりともしない。慣れてしまった。
窓の外の空を見やる。黒々とした円盤が今日も変わらず浮かんでいる。
彼らはこんな人類のことをどう思っているのだろう。憐れんでいるのか、嘲笑っているのか、はたまた、興味すらないのか。
私は諦めを抱いた。
地球が滅ぶまであと何日だろうか。もう少し先だろうか。だけど、私の最期は今日だろう。
食べられるものは全て食べた。もう部屋には何もない。
食べられるものは全て食べた。もう近所に人はいない。
自分がここまで無様に足掻く人間だとは思っていなかった。達観していた。諦めていた。そのはずだったのだが。
これが生きるということなのかもしれない。醜く足掻くこの姿こそが。
なんて、それらしいことを考え、もはや天井すら失った愛する我が家の床に寝転がる。
空には黒い円盤。
こんな日にはシナモントーストが食べたい。あまりに悔しくやるせない、こんな日には。
私は目を閉じた。
【了】
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