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「本が読めなくなった」お客様の悩み

 S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。

 来店されたお客様から、こんな相談を持ちかけられた。
「ずーっと本が好きで読んできたんですけど、最近、本が思うように読めなくなってしまったんです。そんな人のこと、聞いたことありませんか?」
「あります」
 ぼくは即答した。
「えっ。あるんですか?」
「あります。実は私なんです」
 そうなのだ。本当にそういう経験を数年前にしたのだった。
「私も、あるとき、本を読むスピードが遅くなっていることに気づいて、しかも頭に入っていなくて、同じところを読み直したりしていたんです。だけど、あるとき、もしかしたら目の問題なんじゃないかって気づいて、眼科を受診したら、老眼だって言われたんです。しかも、『40代後半なんですから、老眼になって当たり前ですよ』と医者に言われました。それで老眼鏡を作ったら、スイスイ読めるようになったんですよ!」
 そう言いながら、当時の感動というか、「まだ本が読める」と安心したことを思い出した。
「なるほど。老眼鏡を作ればいいのかもしれませんね」
 お客様は嬉しそうに言った。
「初めは私も抵抗があったんです。なんか、歳をとってしまったみたいに思って。でも、もっと早く作ればよかったって思いました。だって、本が読めるんですから。『老眼鏡』って呼び方がよくないのかも知れませんね。英語なら、リーディング・グラスですから」
「そうですね。まさに、読書のためのリーディング・グラスですね。私も作ってみます」
 こうして、お客様の悩みは解消された(のかもしれない)のだった。
 
 一緒のうちに読める本は限られている。だから、改善できることはどんどん改善して、どんどん読まないと。
 現在、書店では、一生のうちにぜひ読んでおきたい200冊のリストを選定中だ。これは、実は自分のためでもあって、今後、リーディング・グラスをかけて読んでいきたい本たちなのだ。

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