横松心平

作家。七児の父。いろんな意味でぎゅうぎゅうづめで暮らしてます。

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最近の記事

岡田索雲『ようきなやつら』双葉社、を2冊書いたかったお客様

 S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。  今月、書店では、「店に在庫している本についてのポップ」をお客様に書いてもらって並べるというフェアを行っている。  あるお客様にこう言われた。 「店にないマンガのポップを書きたいのですが、2冊購入して、1冊は自分用にして1冊は店に置いてもらえませんか?」 「?」  1冊は自分用にして、というところはわかる。自分の買った本を、店に置くということはどういう意味なのか、わかりかねた。 「その本が店で売れた場合に

    • 「ABC殺人事件」事件

       S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。  毎月、フェアを考えて実施しており、少し前に「こども」というテーマで選書をした。子どもに読んでもらいたいという本ということで、「ハヤカワ・ジュニア・ブックス」のクリスティーを選んだ。  『そして誰もいなくなった』が売れたのだが、その後、うちの子ども用にも購入した。小中学生が読み、『アクロイド殺し』も買ってみたら、続けて読んでいた。  実は、ぼく自身が中学生くらいのときに、誰かのエッセイ(本当は誰のエッセイ

      • 棚分類の問題

         S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。  お客様と本当の出会いがうまくいくように、また、売り上げが上がるように、書店の棚分類を整理することになった。  やってみるとよくわかるのだが、分類しやすい本としにくい本がある。例えば、『トムは真夜中の庭で』ならば「絵本・児童文学」へ、『第二の性』は「ジェンダー」へ、『ふしぎの国のバード』なら「マンガ」の棚に置く。ちなみに全部在庫していますよ。  けれど、例えば、鴻上尚史『世間ってなんだ』講談社+α新書など

        • 「本が読めなくなった」お客様の悩み

           S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。  来店されたお客様から、こんな相談を持ちかけられた。 「ずーっと本が好きで読んできたんですけど、最近、本が思うように読めなくなってしまったんです。そんな人のこと、聞いたことありませんか?」 「あります」  ぼくは即答した。 「えっ。あるんですか?」 「あります。実は私なんです」  そうなのだ。本当にそういう経験を数年前にしたのだった。 「私も、あるとき、本を読むスピードが遅くなっていることに気づいて、しか

        岡田索雲『ようきなやつら』双葉社、を2冊書いたかったお客様

          遠ざかっていく「本の雑誌 2023年5月号」

           S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。  さて、「本の雑誌」の2023年5月は、目黒考二・北上次郎・藤代三郎追悼大特集ということで、特別に分厚いということは事前に聞いていた。しばらく本の雑誌も買っていなかったよなあと思いつつ、書店にも仕入れていないし、読みたいなあ、でも予算がなあ、どうしたものかなあと思案していた。  そんなおり、店のカウンターで、選書のために、本の雑誌編集部編『古典名作本の雑誌 (別冊本の雑誌19) 』本の雑誌社を眺めていた。

          遠ざかっていく「本の雑誌 2023年5月号」

          『お父さんは心配性【4】』が売れたのはなぜ

           今年になってから、S市の独立系書店で働いている。シフトとしては週に1回くらいなので、出勤すると、この1週間でどんな本が売れたのかを確認するのが楽しみだ。フェア台に並べたもの、ポップをつけたもの、とっておきの新刊など、気にしている本が売れたときは特に嬉しい。  先日、発注して入荷したばかりの漫画が売れた。岡田あーみん『お父さんは心配性【4】』集英社、である。全6巻あるうちの、なぜか4巻だけがすぐに売れたのだ。  「なぜ、4巻だけ買ったのですか?」とお客様にたずねたいところだが

          『お父さんは心配性【4】』が売れたのはなぜ

          書評・安田浩一・安田菜津紀『外国人差別の現場』朝日新書

          世の中に社会問題は数多くあって、どうにかしなければいけないよなと思うけれども、たいていほとんど何もできない。日々の暮らしで精一杯で、ニュースを追うことすらままならない。だからと言って、あきらめるわけにもいかない。よその国の戦争、他人の人権侵害、遠い地域の環境汚染であっても、人道的に許せないというだけではなく、必ず、自分や家族と繋がっているのだ。  そんなとき、無力感にさいなまれてしまうのは、全か無かを選んでしまうからではないだろうか。全てに関わるか、全部を知らないふりをするか

          書評・安田浩一・安田菜津紀『外国人差別の現場』朝日新書

          札幌お父さんライターが行く!おすすめ公園編その3 雨の日には「札幌市豊平川さけ科学館」

          札幌で7人のこどもを育てているライターの横松心平です。子どもと行くおすすめの公園を紹介する3回目です。 第3回目は、雨が降っていたので「札幌市豊平川さけ科学館」です。 今日は2022年10月10日の月曜日。祝日です。今日もまた、ドニチカきっぷを利用して地下鉄で行きました。大人520円、子ども260円です。 地下鉄南北線で終点の「真駒内駅」へ。ここからバスに乗ると、ひょいと着くのですが、節約して徒歩で。でも、正直言って、雨の中、子ども4人連れで45分歩くのは大変でした。

          札幌お父さんライターが行く!おすすめ公園編その3 雨の日には「札幌市豊平川さけ科学館」

          義母がコロナワクチンを1回も受けていなかった

          遠方に住む義母がコロナワクチンを1回も受けていないことがわかった。初めは、何かの主義なりがあって、あえて受けないようにしているのかとも思ったが、そうではなかった。  どうも、接種券を失くしてしまったことが直接のきっかけだったようだ。調べてみると、役場に連絡すれば再発行できることがわかったので、すぐにその手配をした。 だが、原因はおそらくそれだけではなく、根本的には、ワクチンを受けに行くことが現実に難しいということのようだった。  問題は、義母が副作用などで具合が悪くなった場

          義母がコロナワクチンを1回も受けていなかった

          札幌お父さんライターが行く!おすすめ公園編その2 2019年にリニューアルした「月寒公園」

          札幌で7人のこどもを育てているライターの横松心平です。子どもと行くおすすめの公園を紹介する2回目です。 前回、百合が原公園前編でしたが、後編の前に別の公園に行っちゃいました。 第2回目は、月寒公園です。 今日は2022年9月25日の日曜日。ドニチカきっぷを利用して地下鉄で行きました。大人520円、子ども260円です。 地下鉄東豊線「美園駅」から出ると、中央分離帯にはリンゴの実がなっていました。 リンゴ並木です。 5分ほどてくてく歩いて行くと、月寒公園に到着! 魅力

          札幌お父さんライターが行く!おすすめ公園編その2 2019年にリニューアルした「月寒公園」

          札幌子育てライターが行く!おすすめ公園編その1 車がなくても大丈夫「百合が原公園」前編

          札幌で7人のこどもを育てているライターの横松心平です。子どもと行くおすすめの公園を紹介していきたいと思います。 第1回目は、百合が原公園です。 車をもっていないわが家では、なるべくアクセスしやすいことがお出かけの第一条件です。しかも、できれば列車がいいと言う子どもたち。 そこで、札幌駅からJR学園都市線で20分、340円の「百合が原駅」から歩いて行ける、百合が原公園に行きました。今回は、小学生2名と幼児の3人連れです。 いきなり盛り上がったのは、無人駅だったことです。「

          札幌子育てライターが行く!おすすめ公園編その1 車がなくても大丈夫「百合が原公園」前編

          書評・タリアイ・ヴェーソス『氷の城』朝田千惠、アンネ・ランデ・ペータス訳、国書刊行会

           一読後、決して忘れることのできない物語だ。平易な言葉で綴られるシンプルなストーリーであり、格別の寓意性が感じられるわけでもない。それなのに、心の奥底に響いてくる冷気が全編に通底しているのだ。  「20世紀を代表するノルウェーの大作家」と紹介されているタリアイ・ヴェーソスのことを、ぼくはちっとも知らなかった。恥ずかしながら、名前を聞いたこともなかったくらいだ。だからこそ余計に、作品の力強さに衝撃を受けた。これが例えば、トルストイのような名だたる文豪の作品だったら、「さすがに世

          書評・タリアイ・ヴェーソス『氷の城』朝田千惠、アンネ・ランデ・ペータス訳、国書刊行会

          天売島へ行きたかった

           先日、天売島で開催されるイベントに参加すべく、羽幌に向かった。札幌から高速バスで3時間。乗車時に「島へ行きますか?」と聞かれた。「島」というのは天売島と焼尻島のことを差しているのだろうけど、札幌のバスターミナルで「島」としか言われないのが面白い。 「はい」と答えると、「高速フェリーは欠航が決まっています。普通のフェリーは天候調査中で、出航1時間前にならないと出るかはわからない」という。「それでもいいですか」と言われるが、行ってみるしかない。高速バスは出発。3時間の道のりだ。

          天売島へ行きたかった

          書評・アーザル・ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』市川恵里訳、河出文庫

           はじめはタイトルに惹かれた。テヘランとロリータの組み合わせが不思議で面白い感じがしたのだ。しかし、実際に読んでみると、このタイトルは奇をてらったものではなく、本書の内容を的確に表現した、動かしようのないものだった。  イラン出身の女性英文学者である著者は、圧政下に自宅で、密かに西洋文学の読書会を開く。学生たちとの日々を綴ったノンフィクションだ。1995〜1997年の当時、イランでは西洋文学が禁じられていた。だから、秘密の読書会になってしまうのだが、取り上げられる本は、ナボコ

          書評・アーザル・ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』市川恵里訳、河出文庫

          書評・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』村上春樹訳、中央公論新社

          『テヘランでロリータを読む』に深い感銘を受け、スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』村上春樹訳、中央公論新社を読んだ。ラストが素晴らしかった。余韻が次の日になっても残っている。こうして日本にも、そしてイランにも、名作の力は伝わっているのだなあと思った。 切ない青春文学だと思うのだが、若い頃よりも今読んだ方がジーンときたような気がする。それは多分、「喪失」ということについての経験値が多くなっているからだと思う。時間の喪失、夢の喪失、愛の喪失。

          書評・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』村上春樹訳、中央公論新社

          書評・嫌なやつばかり登場する面白い話。サマセット・モーム『人間の絆』新潮文庫

          100年以上前に書かれた名作の金原瑞人による新訳なんですが、実に面白い! モームって「世界文学」という冠から想像していると、ただただ面白い話で、「あれっ。文学ってこんなに面白いの?」って思わされます。 自伝的小説であり、主人公がめちゃめちゃ嫌なやつ。ってことは、モームも嫌なやつなのでしょう。そして、悪い女の人と知り合うのだけれども、その女性もまた、かなり嫌なやつなんですね。 嫌なやつばかり出てくるのに、目が離せない。嫌なやつ、ダメなやつすぎて主人公に感情移入しにくいのだ

          書評・嫌なやつばかり登場する面白い話。サマセット・モーム『人間の絆』新潮文庫