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第三進化(物理) bit (2) 闇

原爆成功の秘訣は学際統合

 今日、我々の生活は、スマホやWi-Fi、地デジテレビなどデジタル家電といったものを通じて、インターネットに結びついている。それなのに、インターネットがどのように生まれかは、意外と知られてない。

 インターネットのもとになるアイデアは、1945年7月の「アトランティック」誌に掲載された「考えてみるに(As we may think)」という記事である。著者はヴァニヴァー・ブッシュ(1890-1974)。そこで彼は、人間の知的進化を生み出す記憶拡張装置MEMEX(Memory Extender)を論じた。
 ブッシュはマサチューセッツ工科大学(MIT)副学長をつとめた、電気工学の学者だ。第一次世界大戦のとき、軍と協力して対潜水艦戦の技術を改良した。その経験を生かして、第二次世界大戦では、軍と産業と大学の協力を進めるために科学研究開発局(OSRD)長官となった。いわゆる軍産学共同体の司令塔である。6000人の科学者を率いて戦争のための技術開発を指揮し、原爆を開発したマンハッタン計画の責任者だった。
 ウラン濃縮型とプルトニウム型の2種類の原爆開発成功は、様々な分野のの科学者による学際統合のおかげだ。自身が発明家でもあったブッシュは、戦後の科学者が自らの専門分野の研究を続けつつ、学際的研究を進めるための記憶拡張装置MEMEXが必要と考えた。
 ブッシュの発案であるMEMEXは、ある研究者の机の上に、専門分野に限らない学際的で有用な資料を、次々にもってきて、最終的には直接脳内に送りこむ。そして、自分の思考過程を記録したテープを配布すると、他の人たちがそれを共有できる。学者の知能を拡張して、結びつける夢のシステムである。

米ソ冷戦が引き金を引いた

 MEMEXは、1957年にソ連が大陸間弾道弾ミサイルR7の実験に成功し、人工衛星スプートニク(旅人)を打ち上げたことがきっかけとなって、開発が始まった。大陸間弾道弾ミサイルの開発と人工衛星の打ち上げで遅れをとったアメリカは、国防省高等計画研究局(ARPA)を設立し、研究開発に予算を注ぎ込んだ。アポロ計画が嘘だったという説もあるが、その予算はインターネット開発に使われたのだ。
 開発を指揮したのは、ダグラス・エンゲルバートである。エンゲルバートは、1945年8月の日本が敗戦した日にサンフランシスコ港を出港して、1年ほどフィリピンで軍事訓練を受けた。安全だが退屈なとき、雑誌に掲載されていたブッシュの「考えてみるに」の記事を読み、人間の知的進化を生み出す装置MEMEXに心を躍らせた。
 フィリピンから帰ってきたエンゲルバートは、結婚を機に人類のために役立つことをしようと考え、スタンフォード研究所(SRI)に入る。そして1962年に拡張研究所(Augmentation Research Center, ARC)で研究開発を指導する提案書を書いた。それが予算に結びつき、カリフォルニアで研究者を集めて研究をつづけた。

パソコン技術はカリフォルニア生まれ

 エンゲルバートの研究所で生まれた技術が元となって、ゼロックスのPARC(パロアルト研究所)で1973年にアルトと名づけらえたパソコンが生まれた。

ゼロックスは、パーソナルコンピュータを発明したことで有名にならなかったことで、有名である。広く知られているように、結局はパーソナルコンピュータとなったもののほとんどすべての要素は、ゼロックスPARCのアルトの中に存在していた ―― グラフィカル・ユーザー・インターフェイス付きのディスプレー、マウス、ネットワーキングと電子メールの機能などである。」(バルディーニ「ブートストラップ 人間の知的進化を目指して」、P274、コンピュータ・エージ社2002)

 そこにマウスを考案したエンゲルバートはいなかった。しかし、ワープロと表計算ソフトを開発したハンガリー出身のチャールズ・シモニーはいた。彼は、後にマイクロソフトに移籍してWordとExcelを開発する。コピー&ペースト機能を考えたのはラリー・テスラ―。電子印刷技術であるPDFを発明したチャールズ・ゲシキもPARCにいた。
 それまで大型計算機にパンチカード(お札サイズの紙に穴をあけて数十桁の文字を伝える)を読み込ませていたものが、画面上で見たままを思うがまま作業できるようになった。(WYSIWYG: What you see is what you get.)これらのユーザーインターフェース技術によって、ヒトの考えをコンピュータに伝える技術は向上した。

スポンサーはラングレー

「Google(1998年)やwww(1989年)がなかったころ、インターネットは何に使っていたの?」と妻から素朴な質問を受けた。大型計算機を複数の人間で共有するためのリモートログイン技術を使って、許可なしでログインするのがハッキングである。ジョン・マッカーシーの人工知能研究所SAILは「世界にも数か所しかない最も優れたコンピュータ・ハッカーが集う場所」(P123、『パソコン創世第3の神話』)と紹介されている。

 エンゲルバートのスポンサーは「ラングレー」だった。ラングレーとはヴァージニア州の町の名で、CIA本部がある。

 ゼロックスが有名にならなかったのは、それを開発したのが軍やCIAの予算だったからではないか。パソコン技術はもともと情報戦のツールだったのだ。おそらくWindowsやMacOSやインターネットにはCIAが希望すればいつでも盗聴でき、攻撃できる隠し扉が用意されている。ファイル交換ソフトWinnyを開発した金子勇が厳しく弾圧されたのは、それがスルリと隠し扉を通過できるからではないか。(なんとこの記事をアップした3日前から映画Winnyが上映されている。( ゚Д゚))
 インターネットは注意して使わなければならない。

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