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B2B営業スタンダード 2章:アポ取得編

B2B営業で一人前になるために最初何に力を入れるべきか聞かれたら、私はアポの取得と答える。間違いなく売上はアポの量と質に大きく左右される。いいアポがたくさん取れれば、クロージング力がそんなに高くなくてもある程度の数字は作れる。逆にクロージング力がいくら高くても、いいアポが取れなければ数字を作るのは難しい。

しかし、現在はコロナの影響でリモートワークが増え、電話でアポを取るということが非常に難しくなっている。これは一過性のものではなく、ポストコロナではアポの取得方法が変わっていくのではないかと思う。

そこで今回は少しでもアポ取得率をあげ、ポストコロナでも通用するアポ取得について書いてみたいと思う。

前回の数字の組み立て編ではこんな図を使った。

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この図でも起点になっているのはアポ取得のための架電数とアポ率である。

どんなアポがいいアポなのか?

これは自社の状況やビジネスモデルによって変わる。

対象顧客が多く、単価が安くシンプルなプロダクトの場合は、アポの目的は対象ではないアプローチ先を見分けるという部分が大きい。
自分達のリソースが限られている中で、対象ではないアプローチ先に時間を使ってしまうと、本来時間を使うべき本当に需要がある顧客に対してさくべき時間がなくなって満足度が下がり、売上も立たなくなる。
プロダクトがシンプルなので、アポ取得段階でアプローチ先の役に立てるか見極めができているのが理想である。

一方、対象となる顧客が少なく、単価も高い複雑なプロダクトの場合はアポの基準が変わってくる。提供できる価値が多岐に渡るので顧客の課題に対して解決策の見極めに時間がかかる。顧客のコスト負担も大きくなるなので、解決策が提示できたとしても対価を払えるのか、判断をくだせる人なのかということが重要になる。何かしら課題をもつキーマンであれば、アポ取得の基準を下げてでも会って話を聞いたほうがいいケースもある。

アポ取得は会社によってクローズする営業が自分で取る場合もあれば、アポ取得専任のインサイドセールスが取る場合、テレマーケティング会社を使って取得してもらうなどいくつかパターンがある。

共通していえるのは目的、ゴールから逆算して最適なアポ基準を考えるということである。
KPIとしてアポ取得数が設定されているからといって、アポ件数だけを追いかける事は意味がない。

🔸何のためにアポを取るのか?

アポ取得においては架電数が非常に重要である。
数をこなさなければどんな電話がいいのか検証も出来ないし、私も若手の頃にかけた電話は何万件にも達していると思う。
しかし、アポを取れと言われていきなり電話をかけ始めるのは悪手だ。
まずは「何のためにアポを取るのか?」を十分考え腹落ちしてからのほうがよい。

理由は2つ。

・アポ取得のモチベーションを維持するため
・アポを取るという手段が目的化しないため

コールドコールと呼ばれるようなアウトバンドでのアポ取得は辛いと感じる人が多いと思う。ガチャ切りされる事も多いし、「二度とかけてくんな!」と言われた経験がある人もたくさんいるはずだ。私も新卒のときは毎日電話で断られて心が折れかけた。

この辛いと感じる人は、自分のかけている電話が相手にとって迷惑だとか、売り込むために電話をかけているという気持ちになっているからだと思う。

その電話が相手にとって役に立つ電話で、相手が喜んでくれる電話だったらどうだろう?
例えば、あなたがスニーカー好きで「限定100足のスニーカーが入荷しました」という電話だったり、「これを買っておけばプレミアがついて1年後に10倍になります」という電話であれば、受ける方も詐欺じゃないかぎり嬉しいと思う。
そしてそんな電話なら、かけることが全然辛くないんじゃないかと思う。

相手にとって話を聞くメリットがあると自分自身がちゃんと腹落ちして、相手のために電話をかけていると思えることが大切である。
そのためには、マーケットのセグメンテーション、ターゲティングにより、少しでも自社ソリューションが効果を発揮できるアプローチ先を絞り込んだり、自社プロダクト、ソリューション、顧客のビジネスについて学び、メリットを提供できるという自信を持つ必要がある。

もう一つ何故アポを取るのか考えたほうがいい理由は、KPIがアポ取得数で厳しく進捗管理していると、アポを取る事自体が目的化してしまうことがあるからである。
アポはあくまで手段であり、目的は受注して顧客にサービスを提供し、課題解決してビジネスがよくなる事であるはずである。

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アポ取得率が20%で提案からの受注率が30%のときに、電話を500件かければ100件提案ができ、30件受注ができる。
このときにアポ取得数がKPIに置かれているからといって、アポ取得の基準を下げてしまうと、下の図のようにアポ取得率は上がっても受注率が下がり、結果として受注数が減ってしまう事もある。

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更に提案できるリソースが150件ぶんしかない場合は、下の図のようにもっと受注数が減ってしまう。

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提案を訪問で行っている場合は、移動時間もかかるので1件あたりにかかる時間コストが大きく、提案件数がボトルネックになりやすい。
また提案しても空振りが多く、受注率が低くなるとモチベーションも低下しやすい。そのため出来ればアポ基準は高めに設定して、提案後の受注率が下がらないないようにすることが望ましい。

しかし、アポ基準は高くすれば高くするほどいいというものではない。

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この図のようにアポ基準を厳しくして受注率が上がったとしても、そのぶんアポ取得率が下がりアポ数が減ると、受注数が減るケースもある。
この場合、提案数に余力があるとせっかくのリソースを余らせることになってしまう。

アポの基準をどこに置くかは、何を売っているかによっても変わるし、同じ物を売っていても事業フェーズや市場環境によって変わったりもする。

そのため、以前こちらに概要をまとめた「アクセル デジタル時代の営業最強の教科書」にあるバイヤージャーニーマップなどを使い、定期的にアポ取得率、アポ数、受注率を見ながら、アポ基準をチューニングしたほうがよい。

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何故アポを取るのか、何故顧客は話を聞いてくれるのか、こういった事を最初に考えておくと、目的を見失う事なくモチベーションも維持できるのでオススメである。

🔸アポを取るための準備

アポ取得率は準備次第といっても過言じゃない。

アポ取得の電話をする際は、その都度どこにかけるか考えていると迷いが生じて効率が悪くなる。準備と架電で時間を分け、アプローチ先リストは前日のうちに全て用意して、機械的にかけられるようにしておくほうがよい。

また、

質の高いアポ数=アプローチ先の正しさ ✖️ アプローチ内容

であらわせるが、アプローチ先の正しさは事前準備によって決まり、アプローチ内容も事前準備をしっかりする事で向上する。

アプローチ先については、自分達が解決できる課題をかかえている可能性が高い順にアプローチできるのが理想だ。

🔸アプローチ先の選定

アプローチ先の選定はコトラーのSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)などを使って考えてみると整理がしやすい。
この際、個人的には市場分析&ポジショニング→セグメンテーション→ターゲティング→再度ポジショニングの順に考えるのがいいと思う。

Positioning

まずは自分達が提供する価値や解決できる課題は何なのか?競合や代替品と何が違うのか?という事をユーザー目線から考える。

私は現在会計ソフトの営業をしているが、経理の方法や会計ソフトは多数あり、いろんな軸で分類できる。

従来にない革新的な操作感↔︎従来通りの操作感
多機能高価格↔︎シンプル低価格
クラウドでどこからでもアクセス↔︎オンプレミスで専用のPCで使う

自分が営業するプロダクトがどんな特徴があり、どんなポジションを取れるのか考えると、どんな顧客だと改善効果が高いのか、どんな人達が求めているのかといったペルソナが見えてくる。

例えば、私の営業しているクラウド会計であれば、従来にない操作感で業務を効率化できる一方、従来のやり方にこだわる人とは相性が悪い。またサブスクリプションで初期費用が低く抑えられるので、売上規模によらず導入がしやすいが、売上が大きすぎるとビジネスモデルが複雑かつ投資余力もある事が多いので外資のERPのほうがマッチする。そのため、クラウド会計に相性がいいのは中堅規模以下の会社で新しいもの好きな人である。

上の例は非常に単純化しているが、他にも様々な切り口があるので、自社のプロダクトはどんな人が購入しやすいのか多面的に考えてみるとよい。

Segmentation

次にアプローチ先を同じ属性を持ったグループに分ける。
デモグラフィック(業種、従業員数、売上高など)、顧客戦略(高付加価値、低価格など顧客が取っている戦略)、組織構造、意思決定プロセス、同族企業かなど様々な切り口があるので、先ほど考えた自社プロダクトのペルソナに合わせて最適な切り口を選ぶ。

この際、定量的に測れる指標でなければ、セグメントわけができない。最適な切り口が定量的に測るのが難しい指標である場合、プロダクトから利用状況を収集したり、資料ダウンロード時のアンケートやコンタクト時に口頭で確認しSFAで管理するなどの工夫が必要になる。

Targeting

セグメント分けしたら、どこからアプローチするかを考える。
顧客候補は全てアプローチすべきと思う人もいるかもしれないが、成功経験を早く多く詰むほうが自信がつくし、難攻なアプローチ先も実績がある事で攻略しやすくなるので優先順位をつける事が大事である。

どこをターゲットにするかは、基本的には売りやすいところ(≒自社プロダクトと相性がいいところ)からにするのがいいと思う。課題があるのであれば顧客担当者をマインドチェンジさせるべきという考えもわかるが、時間がかかるので、相性がいい属性での導入が進み、アプローチ先が少なくなってから取り組んだほうがいい。

私自身の例でいうと、アップセル、クロスセルが多い商材の営業をしていたときは、自社からの購入額と他プロダクトの購入履歴でセグメント分けをしていた。当時自分のテリトリーを分析すると、上位5社の担当顧客で売上の7割を占めており、あるプロダクトを購入している顧客では他プロダクトの購入率が高いという相関関係があった。
そのため下の図でBとつけた、「上位5社の次に購入している25社のうち特定プロダクトを購入している顧客」、「購入額は少ないが規模が大きく余地が大きい顧客」を重点的にあたって、ロイヤルカスタマーにするということを狙った。アプローチによる上乗せの余地が少ないAとCは定期的なフォローにし、それ以外は時間がかかるので引き合いがあったときのみのアプローチにした。

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このようなターゲティングは販売しているプロダクトや自社のマーケットでのシェア、などによって変わるためポジショニングをもとに仮説をたて、検証して結果数字をもとに定期的に見直す必要がある。

マーケティングに近い要素で、会社によってはマーケ部門や営業企画が考えるケースもあると思うが、自分のテリトリーの肌感は自分が一番持っているはずなので、結果に責任を持つといううえでも自分で考えてみる事をオススメする。

🔸キーマンへのアプローチ

ターゲットが決まったら、次は誰にアプローチをするかだが、基本的には出来るだけトップダウンであたるのがいいと思う。

最終的には決定権を持った人と実際の利用する人両方の合意を取り付けたほうがいいが、部下から上司の承認を取ってもらうより、上司にOKをもらった上で利用者である部下を紹介してもらい、導入メリットを理解してもらうほうが案件のコントロールがしやすい。

アプローチ先の規模が比較的小さい場合はまずは社長宛に打診してみるのがいいと思う。社長が全体を把握しており、課題感を持っていることも多いのでメリットがあると思ってくれれば、自身が手を動かさない場合でも最適な担当者を紹介してくれるケースが多い。

エンタープライズ規模になると組織が複雑で、判断に携わる人も多くなるのでアプローチ先の選定は難しくなる。
組織図を作り、誰が抑えるべきキーマンなのか整理が必要であり、SAPではTASという外資のエンタープライズ向けIT企業でよく取り入れられている手法を使っていた。

TASでは下の図のような組織図を作り、誰が味方で新しい物好きかという情報などを整理していく。
過去同じ部署や仲がいいという情報などをもとに、インナーサークルと呼ばれる組織内で信頼されて決定に対して大きな影響力を持っている人や、政治的構成と呼ばれるインサーサークルからの指示を実行する人は誰なのかという事調べていく。メンターサポーターと呼ばれる自社に対して協力的な人から情報を集めたり、キーマンを紹介してもらう事で組織を攻略していく。

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🔸アポ取得率を上げるために

キーマンが見つかったら早速アプローチをするが、いきなり電話をかけるのではなく、まずは手紙や資料の送付などでコンタクトの成功率を上げる。手紙からの返信がなくても、電話の際に「先日送った手紙の件で」と口実に出来る。

手紙は送っている企業も増え、読まずに捨てられるんじゃないか思う人もいるかもしれないが、読んでもらう工夫と内容でかなりの効果を発揮する。

私はコロナ前の1月にスタートアップ社長むけに手紙を送付したが、夕方郵便局で出したら、到着直後だと思われる次の日の昼休みには先方からアポ依頼の連絡が3社あり、元々スケジュールを確保していた2週間分のアポがこちらからの電話をせずに3日間で埋まった。

具体的な内容は書けないが、主に下記のような工夫をした。

・捨てられないように高級感ある手紙
・先方が求めているであろう内容かつ営業ではない旨を記載
・封筒の外側に内容がわかり秘書の方が渡さないとまずいと思うような記載

特に内容は重要で、今回はキーマンに対してコンタクトを作る事を目的としていたので、営業ではなく先方が求めてる情報をGIVEするために時間をもらうということが明確にわかるような文章にした。

上場企業にアプローチする場合は、先方の決算説明会資料や有価証券報告書をもとに、同業種とのベンチマーク比較や想定課題のレポートを作り送るのも効果的である。アカウントプランを作っていれば、その企業に対する分析と考察のページ部分だけ同封して送るというという方法もある。
SAPの場合は顧客の業種ごとの業界動向、予測レポートやグローバルの同業他社との比較レポートを作ってくれる部署があり、それを同封する事でアポ取得率を上げていた。

キーエンスのときは単価が安く顧客数も多いので1社ごとの分析資料は作成していなかったが、実用的なホワイトペーパーや活用事例集といったコンテンツが社内に大量にあり、顧客がダウンロード後にすぐアプローチするだけでなく、電話前に送付して話のきっかけとしても活用していた。

🔸トークスクリプトの作り方

電話でどのような話をするかについては、経験が少ないうちはフローチャートでトークスクリプトを整理しておいたほうがいい。話が上手い人は別かもしれないが、私はその場で気の利いたことが言えるほうではないので、相手の返答パターンごとにどう返すというのを下の図のイメージで整理している。

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これを作る目的は見ながら話すというより、自分の話の流れや伝えたい事、相手の反応を整理するために行うことが多い。

実際に見ながらかけるのは、新しいシナリオでも最初の数回ぐらいで、あとは伝えたい重要なキーワードだけを整理しておくぐらいだ。

またアプローチ対象との会話用だけでなく、受付突破用のシナリオも用意している。受付のかたは、内容に関わらず取り敢えず断るように言われているケースもあり、詳細を伝えてもわからない事が多いので、本人に伝えないとまずいと思わせるようなキーワードを、いかに短く伝えるようにするかを考えている。

あとは30秒のショートバージョンで伝えたい内容の整理もしている。これは電話に出る人は忙しい事が多いので、その際に短時間で大事な事だけを伝えられると、次回電話の約束がつけやすくなるからである。

🔸ポストコロナのアポ取得

ここまでどのようにアポ取得率を上げるかについて書いてきたが、現在のリモートワークが主流な環境では通用しない事もある。

・会社にいないので電話が通じない
・手紙を送っても受け取れない
・電話受付代行を利用していて本人につながらない

という、状況でアポ取得に苦戦している人も多いと思う。
ウェビナーでは携帯番号、メールアドレスを記載必須にするなど工夫を凝らして何とかアポにつなげようと工夫している企業も多い。

このような状況で今後はSNSを利用したアポ取得が多くなるのではないかと思う。
私自身顧客とのコミュニケーションでMessenger、Twitter DM、LINEなどを使っているが、今までは担当顧客層がスタートアップという新しい事に抵抗感が少ない層だからという理由が大きかった。
だが、今回のような事態でSNSでのコミュニケーションがその他のビジネスでも一般化し、コロナ収束後にも定着するのではないかと思う。

SNSでのアポの場合

①相手がどこにいてもコンタクトが取れる
②受付にブロックされる事なく、直接本人にコンタクトできる
③事前に発信内容を見てもらう事で自分がどんな人か理解してもらえる

という特徴がある。

3つ目は特に重要で、アポ取得するためには会話がうまいという事より、日々発信している内容やフォロワー数のほうが重要になってくる。
従来であれば、自己紹介などで自分を理解してもらい信頼を得るという工程が必要であったが、SNS経由の場合は事前に自分を知ってもらった上でコミュニケーションが始められるので、この工程も簡略化できる。

実は私がTwitterやnoteを始めた目的も、今後SNSでのアポ取得が増えるだろうと思ったからで、今回のnoteやtwitterの発信もSNS上での信頼を得るためである。

私が何度か紹介しているHubspotの営業チームを立ち上げたマーク・ロベルジュが書いた「アクセル デジタル時代の営業最強の教科書」には、SNSアプローチの成功事例とともにこのような記載がある。

「ソーシャルメディアは、どんな営業スタッフでも、潜在的な顧客から信頼される指導者になれるチャンスを与える。営業スタッフはリードの開拓に費やす時間を、ソーシャルメディアにも費やすべきである。見返りは大きいだろう。」

この本を最初に読んだ当時、私の担当していた顧客層はSNSに力を入れている人が少なく、アメリカだからこそと思っていたが、スタートアップを担当するようになるとSNSでのコミュニケーションは頻繁に行われていた。この流れは今回のコロナでスタートアップ以外にも更に普及していくのではないかと思う。

このnoteを読む人はSNSのアカウントを持っている人が多いと思うが、もしまだSNSに力を入れていない営業マンがいたら是非一刻も早くはじめることをオススメする。

次回の3章では、アポをとったあとに提案するさい、具体的にどんな順序でどんな事に気をつけるべきかについて書きますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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