子育ての要諦は「私が育てたのではない」と考えること

FB友が「なぜ大谷翔平の親は『大谷翔平の育て方』を語らないのか』という問題提起をしていた。これは大変興味深い視点。将棋の世界で7冠を誇る藤井聡太氏の親御さんも、本や講演の依頼が多いだろうに、語ったことはない。なぜ講演依頼を引き受けないのか?受ければ年億単位の収入となるだろうに。

恐らく、「私達が育てたんじゃなくて、あの子が育ったんだ、自分たち以外の皆さんが育ててくださったんだ」という思いをお持ちだからではないか。そういう思いがしっかりしてるから、語る気にならないのではないか。もし語ったら、その途端、全てが崩れ去る気がするのかも。

私は部下育成の本を書かせてもらったけど、当初、全然筆が進まなかった。自分がどう育てたか、みたいな自慢をするのはなんか変だと思ったし、私の力で育つものではない、と強く感じたからだ。筆が進みだしたのは「私を育ててくれた人のことを書こう」と思った時からだった。その時、気づいたのは。

私を育ててくれた人たちは、私をこう育ててやろう、と思って接してはいなかったということ。私をよく観察し、私が何をしたいのか、何を嫌がっているのかを把握し、私が自ら動き出すのを待っていてくれた人ばかりだった。そして私を育てた、なんてことを誰も言わなかった。勝手に育ったのだ、と。

だから私は、部下育成本にも関わらず、上司はああすべき、こうすべき、と、上司を主語にしなかった。部下がこういう状態ならこういうアプローチをするとよいかも、こうしたケースはこの角度から試してみるとよいかも、と、常に部下の状態を中心に据えた。上司はその状況に合わせる側。上司は受け身。

私は子育て本も書かせて頂いた。しかしこれもなかなか筆が進まなかった。子育てを自慢気に語る人は、大体子育てに失敗する、あるいは痛い目に遭う、と感じていたから。子育てに成功した人がそれを得得と語り、それを聞いてくれる人が増えると、我が子ではなく聴衆の反応を気にするようになる。

すると、破綻が起きるリスクが出てくる。我が子ではなく聴衆を気にするようになるから。我が子の観察と対応がおろそかになりかねないから。
昔、積木くずしという実話のドラマがあった。不良になった娘を親が必死になって更生させた話。ドラマがウケたために娘はまたグレたという。

子育て本を書いたために子育てに失敗することになったら本末転倒、という思いが強く、子育て本の執筆は全然進まなかった。ようやくある思いに至ってから筆が進みだした。「私も子育てに悩む親の一人、子育てを多くの方に助けていただこう、そのために本を書こう」と。

子育ては親だけではできない。たくさんの方々のお力を借りて、子どもを育てて頂く必要がある。その思いを、同じく子育てに悩む親御さんたちと共有するために本を書こう、と思えた時、ようやく筆が進みだした。そのことは「あとがき」にも書いてある。
https://togetter.com/li/1236637

そう、恐らく大谷翔平氏や藤井聡太氏の親御さんも、「自分が育てた」とは考えていないのだろう。子どもが勝手に育った、そして皆さんが育ててくれた、そう思いながら育てておられたのではないか。だから、自分たちが「〇〇の育て方」なんて語るのはおかしいと感じておられるのでは。

逆説的だけれど、まさにここが子育の要諦な気がする。自分たち親が育てるのではない、子どもは親の作品ではない、子ども自身の育つ力によるものであり、みなさんがそれを温かく見守り、育ててくれたからだ、と考える、その思考の枠組み(思枠)こそが決定的に大切なのではないか。

そうした思枠を親が持つと、親は子どもが勝手に育っていくことに驚く。皆さんが我が子を育ててくれることに驚く。驚くと、子どもはますます能動的に学び、成長する。親をもっと自分の成長で驚かせたくて。皆さんが我が子をさらに積極的に構ってくださる。構うと喜んでくれるとわかるから。

子どもが勝手に育つこと、みなさんか子供を育てて下さること、こうした奇跡に親が驚くから、それらの傾向がますます強まり、子どもが勝手に育ち、皆さんが子どもに構ってくださるようになるのではないか。親が驚き、感謝することが増強剤になっているのではないか。

だから子育ての要諦は、逆説的だけど、「自分たち親が育てるのではない、子ども自身の成長する力で勝手に育つのだし、それでは足りない部分を私達ではない皆さんが育ててくださるからだ」と考え、その奇跡に驚き、感謝することにあるのではないか。

大谷翔平氏や藤井聡太氏の親御さんが、子育てについて黙して語らないのは、こうした子育ての要諦をわきまえているからこそ、決して語らないようにしているのではないか。そしてそう考える親御さんだからこそ、歴史に残る大偉業をなす人物にまで育ったのではないか。そんな気がしてならない。

子育ての要諦、それは
・自分たち親が育てたとは考えないこと。
・子ども自身に育つ力があるし、事実勝手に育つこと。
・皆さんが育ててくれること。
・子どもが勝手に育つこと、みなさんが育ててくれることの奇跡に驚き、感謝すること。
ではないだろうか。

そうした思いを抱く親御さんが増えると、子どもはもっとのびのびと育つ気がする。たくさんの才能が発揮されるようになる気がする。親が育てるのではない、子どもが育つのだし、みなさんが育てて下さるのだ。そう考えるから、子どもは育つのだと思う。

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