バイオマス減少の時系列

陶芸家への道を歩き始めた弟を訪ねて、信楽に。夜、自販機でジュースを買おうとすると、明かりを求めて大量の虫が!カエルが好きなだけ虫を食べられるパラダイス状態。なんとか虫とカエルの隙間からジュースの銘柄を読み取り、ボタンを押すと、モソッという音。取り出し口に大量の死骸が!

思い出深いその自販機に、翌年も行った。やっぱり大量の虫とカエル。
その翌年も。すると、虫の数は非常に少なく、カエルもいなかった。あれ?
その後、虫がビッシリついている自販機を信楽で見ることはなくなった。それが1993年の事だったと記憶する。

自動車の合宿免許で、山形に。のどが渇いて、宿舎から見える自販機の明かりを頼りに近づくと、かつての信楽の自販機と同じ、虫だらけ!なんとか銘柄を読み取り、ボタンを押すとモソッと鈍い音が!取り出し口に死骸が大量だったらしい。それが1994年だったように記憶する。

虫がよりつきにくい光源が開発されたのがそのころらしく、のちに信楽の自販機に虫が減ったのはそのためだろうか、と解釈していたが、今思うと、1994年の合宿免許の時は虫だらけだったことを考えると、光源の交換はまだそんなに進んでいなかったかもしれない。だとすると、虫が減ったのかも。

93~95年の間に、虫が激減したということらしい。これは、私が大学生になった91年からしばらく経って、すさみの海から小エビや小魚、ヤドカリ、巻貝、ハゼが減ったのと時期がほぼ一致する。このころに陸と海でバイオマスが急減する何かが起きていたらしい。

フナムシの減少はこれらよりもっと早かった。小学生の頃、釣具店の床一面にフナムシでビッシリだったことは前に書いた。しかし中学生になるころには、フナムシは減少していた。群れの数も少なくなり、大きさも小さくなった。1983年には、すさみのフナムシは減少し始めていた。
https://note.com/shinshinohara/n/n79210afbc75c

磯の香りがしなくなったのに気がついたのは、2007年。恐ろしくなって、YouTubeの動画に投稿していたのを思い出した。小エビも小魚もハゼも姿を見ず、巻貝は稚貝が見えるだけ。生き物の姿が見えないすさみの海に恐怖を感じた。
https://www.youtube.com/watch?v=7RY3XbDtMgM

すさみの海の変化を時系列で整理すると、
・~82年:生物が豊か。
・83年以降:フナムシが減少。
・93年以降:小エビ、小魚、ハゼが減少
・97年以降:巻貝減少
・2007年以降:打ち上げられた海草がほとんどなく、磯の香りがほぼしなくなった
となる。バイオマスが非常に減少している。

すさみの湾の特徴は
・湾の外はすぐ外海
・近隣に人家はほとんどなく、漁港からも距離
・工場などの施設も近くにない
・田畑も近隣には乏しい
・ただ上流に一時期、ゴルフ場があり、アユが減った
というもので、ゴルフ場がやや気になるものの、比較的人為な影響を受けにくい場所。

今調べてみたら、私の通った湾の上流にゴルフ場はない。すさみ町には今もあるけれど、たぶん関係ない。やはり、人為的な影響をうけにくい場所のように思われる。それでも急速にバイオマスが減少した。人為的影響が小さいとみられるだけに、紀伊半島全体を象徴する現象のように思われる。

滋賀県信楽と、和歌山県すさみでは、場所が全く異なる。けれど、同時期にバイオマスの急減が起きたということが気にかかる。日本全体で何かが起きたと感じている。このバイオマスの減少はなぜ起きたのだろうか?

一つの可能性は、2007年に禁止された海洋投棄。それまでボットン便所の糞尿は、海洋に捨てたりしていたのだけれど、2007年に禁止になった。それ以降、海は「きれいになりすぎた」と言われている。
ただ、私の通ったすさみの湾は人家が少なく、そうした影響があったと考えにくい。

信楽で虫を見なくなったのは、松くい虫対策で農薬散布が始まったという時期と一致するため、そちらはそれが原因かもしれない。しかしすさみの湾のあたりは林業も行われていない地域で、農薬散布されたとは考えにくい。

「海がきれいになりすぎた」は、正直感じる。もしかしたら、伊勢湾や大阪湾から漏れてくる栄養塩が、きれいになりすぎた海水ですさみにまで届かなくなり、生物が減った可能性はあるにはある。しかし、すさみの湾はすぐ後ろが山で、山からの栄養塩の方が影響が大きそう。

バイオマスの減少はそのまま魚や鳥の減少となり、海にリンなどの栄養を返す流れが止まってしまうだろう。虫や生き物が減った私たちの世代では、バイオマスが山にリンを運ぶ影響は無視できると感じるが、古老の語るバイオマスの量を考えると、今の百~千倍くらいの虫などのバイオマスがあった可能性。

山から海に流す物質も減り、海から山に戻すバイオマスも減って、物質循環が極めて小さくなったことが、日本から虫や鳥、魚を消した可能性がある。昔は、今の私たちからは想像できないほどバイオマスがあったことを、念頭に入れておく必要がある。それを忘れると理解しづらい。

バイオマスの減少は、日本という国土が人間を養う力にも直結するように思う。化学肥料が自由に手に入る間はよい。それで食糧が作れるから。しかしバイオマスが減った現在の日本で化学肥料が手に入らないなら、日本はバイオマスが減少した分、食料を手にすることが難しくなる。

海を豊かにすることで海のバイオマスを増やし、鳥や魚、虫を増やし、山に栄養塩を戻す動きも大きくする。そうしてバイオマスを海も山も増やさないと、「化学肥料による食糧生産」の一本足打法になってしまう。私はそのことを強く懸念する。しかしバイオマスの減少は、非常に捉えにくい。

バイオマスの減少は、日本の食料安全保障に直結すると私は強く感じているのだが、どうにも論文などではっきりしたデータとして示すことができないので、新著では掲載を見送った。見送ったのだが、やはり大きな懸念があるテーマではあるので、ツイッターで「着眼点」として提示することにした。

どうにかこうにか、このバイオマス減少の問題を網羅的に把握する研究を、どなたか行っていただきたい。私はかなり深刻な事態だと受け止めている。

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