定価(希望小売価格)を見直す

このニュース、「地域の賃金押し上げになるからいいんじゃないか」という意見もあろうかと思うけれど、微妙だと思う。コストコは大量安売りを特徴とする商売だから。
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「全国各地でコストコ「高時給求人」の衝撃広がる 群馬の経営者は「時給1500円は無理」と嘆息」
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本来なら100万円売り上げられる商品を、コストコは大量に安く売りさばく。60~80万円とかに。すると、その商品群での売り上げは小さくなることになる。売り上げが小さくなれば雇用はその分減ることになる。コストコの戦略は、巨視的に見ればそういう構造。

コストコはその規模の大きさを利用して、いろんな商品を安く大量に売りさばく。すると、それを購入した消費者は、もう小さな店舗から商品を買う必要がなくなる。結果的に、その地域での売上額は、商品の量の割には大きく目減りし、その地域での雇用力も削ぐことになる。

コストコがどんどん商品を売ることで、その地域での小さな商店はますます売り上げが減っていく。売り上げが減れば雇用も維持できなくなる。賃金単価を上げようにも、売り上げがなければ上げようがない。結局、コストコの向こうを張って大量安売りでもしない限り、売り上げは維持できなくなる。

でもそれをすると、結局はデフレに加担していることになる。商品一つ一つの単価を下げる方向に、コストコは動いているわけだから。すると、その地域全体では売り上げが下がる。雇用力も低下する。実はデフレ圧力を強める方向の商売。

もし賃金単価を高くする企業が、コストコのやり方とは違い、高性能あるいは高級化路線で売り上げを伸ばし、そして従業員の賃金を高くするというのだったら、大歓迎なのだけれど、コストコはモノの値段を押し下げる商売の仕方。これが実に微妙。

日本はこれから少子高齢化していくから、労働者も減っていく。少ない労働者でモノを売らなきゃならないことを考えると、少人数で大量に売りさばくコストコの商売が人気なのもうなづける。でもなあ、コストコは、労働者の数を抑えて大量に売りさばく商売だから、いいのか悪いのか。実に微妙。

日本はもしかしたら、「これ以下の価格で売ってはいけません」という法規制をしたほうがよいのかも、とさえ思う。安売りする企業を野放しにしたら、大量仕入れの力を持つ大企業が有利に決まっている。しかしそうした企業は、雇う人数を抑えて収益を上げる。雇用は増えるようで増えない。むしろ減る。

コストコが商品を安売りしないで、従業員にしっかり給料支払っているのなら素晴らしいけれど、そうではない。売り方がデフレ方向に押し下げるやり方だから、もろ手でいいね、とはいいがたい。実に微妙。

今の40歳以下の人には信じられないかもしれないが、私が子どもの頃は、どこのお店に行ってもモノの価格は一緒だった。キャラメルはどこで買おうとも1個50円。コーラは1本100円。安売りなんてズルをする店はどこにもなかった。そして値上げとなれば、どのお店も一斉に値上げした。

「定価」という言葉が、日常で使われていた。この商品はこのくらいの値段、というのが誰でもわかっていた。全国どこに行ってもその価格だと分かっていた。しばらくして「定価」というのは法律違反だということで「希望小売価格」という表現になったけど、やはりどこに行っても同じ価格だった。

私は、いっそこの「希望小売価格」、あるいは「定価」を見直してもよいのではないか、と思う。これなら、デフレが起きることはまずない。
「これでは競争が起きないではないか」と心配される人がいるかもしれない。でも戦後昭和には、それなりに厳しい競争があった。希望小売価格(定価)であっても。

例えばラジオを買うにしても、人気のメーカー、人気の機種のものをみんな買い求めた。不人気の商品は、おまけをたくさんつけないと買ってくれない。定価という環境で生き残るためには、商品価値を上げることが重要になる。つまり、競争は価格ではなく商品価値の向上という形になる。

たとえば今、インスタントラーメンは、プライベートブランドだとナショナルブランドよりずいぶん安い。その安さにつられて買ってしまう人も多く、ナショナルブランドは売り上げを落としているように思う。しかしこうした安売りを許すと、どうしても品質の劣化が起きてしまいやすい。

それならいっそ、「インスタントラーメンは1袋90円」と価格を定め、品質で競争してもらったほうがよいと思う。商品の力が強い企業は売り上げを伸ばし、従業員にしっかりした給料を支払うことができ、さらに商品の室に磨きを上げる、という形の競争が期待できるのではないか。

私は、公正取引委員会がもっと「ダンピング」の規制を強めたほうがよいのでは、と思う。ダンピングとは、不正な安売り競争のこと。しかし日本はここ30年程、ダンピングに関しては全く野放し。このため、デフレが続いてきた面があるように思う。

定価を定めることは、今度はカルテル(談合して価格を釣り上げる)を招く恐れがある。昔日本は、そのカルテルを厳しく取り締まり、ダンピングは野放しにすることでデフレを招いた面がある。ならば、今度はカルテルの規制を少し緩めて、ダンピング規制を厳しくしたほうがよいのではないか。

お豆腐や野菜など、日用品の最低価格を高めに設定することで安売り競争を是正する。安売りではなく、品質で勝負するように競争原理をずらす。そうすると、日本はもう一度、品質で戦える国へと体力を回復できるのではないか。そんな作業仮説を、検討してみて頂きたい。

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