資産運用立国は成立するのか?

ヒルファディング「金融資本論」という本がある。戦前、米英の銀行が圧倒的な力をもち、その圧倒的な金融の力で様々な産業を支配しつつある状況を分析した内容。いま、銀行を株式市場に置き換えて考えると、現代の世界を理解するヒントになる。

イギリスはサッチャーから、アメリカはレーガンから、株式市場の活性化に動き始めた。この結果、イギリスとアメリカは株式市場を軸とする金融立国を築き上げた。株式市場を通じて世界を支配し、富を集める構造。そしてその構造を世界に広めるため、会計基準なども「グローバル基準に合わせよ」と圧力。

岸田首相が「資産運用立国」を突然宣言宣言したという。米英の金融立国を見習ってのことだろう。株などの金融資産を運用して儲ける国に、と言いたいところなのだろうが、私は大いに疑問。
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米英はともに貧富の格差が大きい。これには、運用したくても資産がそもそもない人々も多いという問題がある。日本では貯蓄ゼロの家計が3割に上るという。この人たちは運用すべき資産がない。資産運用立国の方針からこぼれ落ちる恐れがある。

何より、米英がすでに金融立国になっている世界で、日本が金融立国として参入できるのか?という疑問がある。金融立国は、見方を変えると他の国に働かせて、その稼ぎの上澄みを吸って生きていくこと。そんな生き方が可能なのは、大半の国が「働く」からできること。

戦前、寄生地主が豊かに暮らすことができたのは多くの小作人から搾り上げたから。金融立国とは、国家が寄生地主となり、他の国々を小作人にする構造の中で初めて成立する。米英がすでにその立場を固めている中で、日本も参入できるのか?

最大の懸念点は、米英にいいように操られているだけではないか、ということ。日本は低迷しているとはいえしっかりした技術力を持つ企業が多い。しかし昨今の株主資本主義が広がる中で、外国資本にいいように翻弄される企業が増えてきた。株主が儲かるよう、労働者を搾り上げろと要求。

「資産運用立国」とは名ばかりで、これまで守り続けてきた日本企業を安く米英資本に売り渡す仕組みづくりの一環なのではないか。私はこの絵を描いている、あるいはこの絵が実現するよう動いている首魁は竹中平蔵氏のような気がしてならない。何せ言葉巧みすぎる御仁。

戦後昭和の日本の政治家は、アメリカに従うかに見せて、したたかに日本独自の利益を守り育てることに成功してきた。いわば面従腹背を続けてきたと言える。そのしたたかさが戦後昭和の日本の政治家にはあったと言える。しかし今の与党にそのしたたかさが感じられない。ひたすらアメリカに服従。

日本は残念ながらアメリカに逆らえる状況にない。アメリカとうまく協調してやっていく必要はある。必要はあるが、日本の強みを売り渡し、すべてをアメリカに捧げるのは愚かではないか。アメリカはむしろそうした独立心のない人間性を軽蔑する国。

一緒にやっていけるところはしっかりやる、しかし譲れないところは譲らない。そうした気概を戦後昭和の政治家は持っていたのだろう。だから世界でも稀なほどの繁栄を築くことができたのだろう。なのに今、日本の強みをどんどん自ら手放していく様は一体何なのだろう?

資産運用立国は恐らく、米英からそそのかされたもののように思う。しかしその道は日本の強みをすべて放擲し、日本を二度と立ち上がらせられないほどのダメージを与える恐れがある。愚かな、なんと愚かな。

1つ、日本を資産運用立国にすることができる手があるとすれば、日銀が保有する株を全国民に配布するという奇手になるだろうか。
現在、日銀は2023年3月末時点で53.1兆円もの「株」を持っていて、日本最大の大株主状態だという。これを全国民に配布したら、国民一人当たり50万円弱の金融資産になる。

四人家族なら200万弱。多少の金融資産と言えようか。この運用益が全国民に行き渡るなら、資産運用立国と言えるのかもしれない。しかし日銀の保有する株を一体どうやって国民に配れるのか?その法的根拠は?などなど考えると、無理があるように思う。

実際には日本が金融立国として成り立つことは難しかろう。それでいて、資産を持つ者とそうでない人びととの格差を広げることにつながるだろう。一体岸田首相は何を考えているのか?この国をどうして売り渡そうとしているのか?一体どんな成算があるというのか?私には分からない。

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