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トップ・プリマがファンの質問に回答! 前編:シルヴィア・アッツォーニ

好評発売中のダンスマガジン2020年8月号では、スペシャル企画「バレリーナに聞きました!」を実施! webでバレエファンの皆さんから質問を募集し、国内外で活躍するトップ・プリマ11人に答えてもらいました!

数多くの質問・お悩みを寄せてくださったファンの熱意に、同じ熱意と愛をもって応えてくれたプリマたち。その回答は大ボリュームで、非常に残念ながら本誌に載せきれなかった部分も……。
そこでnoteでは、前後編の2回にわたり、未掲載分やテーマごとのQ&Aをお届けします! 前編では、巨匠ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエで長年活躍するシルヴィア・アッツォーニさんのQ&Aをお楽しみください!(7月22日追記:後編も公開されました!)

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ハンブルク・バレエ プリンシパル
シルヴィア・アッツォーニ
Silvia Azzoni

―― いままで踊ってきたなかでいちばん好きな役(または作品)を3つ教えてください。(ぴっぴさん/40代、匿名希望さん/40代)

アッツォーニ 選ぶのはとても難しいですが、目を閉じて心の感じるままに挙げてみました。私のキャリアのなかで大きなインパクトを与えてくれた作品たちです。人魚姫、オーロラ、ブランチ・デュボワ。
 人魚姫は私の一部になりました。ジョン・ノイマイヤーによって振付が始まったとき、この素晴らしい生き物が私のなかにいると感じたんです。彼女の強さ、傷つきやすさ、愛の力、すべてが私のなかにあります。そのことが私の心を豊かにし、教えてくれたんです。何を望んだっていい。それが手に入るかどうかは関係ない。ただ、その過程で何が大事なのか、自分らしさとは何かを学ぶことができるんだって。
 『眠れる森の美女』のオーロラはジョンのクラシックのヴァージョンと、マッツ・エックのモダンなヴァージョンの2つを踊りました。若いときにこの2つのオーロラを踊ったのは、肉体的にも精神的にもものすごいチャレンジでした! それ以前にはこれほど多くのことを要求されるものを踊ったことはなかったんです。プレッシャーもとても大きかった。でもこの役を通して感じる喜びは何ものにも勝るものでした! 毎回踊り終えるたびに、マラソンを走ったような気分でしたが、その疲労感が大きなご褒美のように思えたものです。
 『欲望という名の電車』のブランチ・デュボワについては、ハリウッド映画とヴィヴィアン・リーによる名演しか知りませんでしたから、それがどんなふうにバレエのキャラクターになるのか興味津々でした。ブランチは、私がこれまで踊ったなかでもっとも衝撃的で、哀しく、悲劇的な役のひとつです。壊れやすい心が彼女を神経症的なキャラクターにしています。世界でひとりぼっち、迷子になったような気持ち! 私はそれを自分のなかのずっと深いところまで探っていかなくてはいけませんでした。自分が本来持っていないような側面を見出していく作業です。私は生まれつきポジティヴで明るい人間ですが、このときは不安げで暗い人間にならなくてはいけなかったんです!

―― 現在履いているトウ・シューズのブランドは何ですか? 何か加工などはしていますか?(ころもちさん/10代、PN:toitoitoiskysunさん/50代 ほか多数)

アッツォーニ ハンブルク・バレエ・スクール時代からずっとフリードを使っています。学校時代はバレエ団のダンサーの棚に残っているものを使っていて、バレエ団に入ると自分にフィットしたシューズをオーダーできるようになりました。最初のシューズが届いたときは信じられない気分でした!
自分にぴったり合うシューズを何年も探して、ようやく見つけたのがミスターV。でも数年後に彼が引退してしまって、私の探索がふたたび始まりました。いまはずっとTメーカーを使っていてとても満足しています。彼が作るシューズは軽くて柔らかめなので、自分で先端部分にニスを塗っています。履くときはリボンだけで、ゴムは使いません。でも、滑りにくくするために足先を少しかがっています。

―― みなさん、髪も美しいなと思うのですが、髪を美しく保つために、どんなケアをしていますか? ショートヘアにしたくなるときはありますか?(麻奈美さん/50代 ほか)

アッツォーニ 一度だけ男の子のようなショートヘアにしたことがあります! 2001年、ノイマイヤーが『マーラー交響曲第三番』で私を天使の役に配役しました。そのとき彼からこの役のために髪を短くしてくれないかと頼まれたんです。彼の考えでは、その天使は両性具有的な存在でした。それで私は長かった髪を一気に短くしたんです!
 いつの日かダンサーを引退したらまた短くするかもしれません。ショートヘアは普段の生活では素敵だけれど、舞台ではそうはいきません。鬘をつけなくてはいけないことが多くて、不自然な感じがしてしまいます!
私の髪は生まれつき丈夫で、舞台の際にスプレーをかけたりきつく結ったりして痛めても、健康的なままです! 母はいつもオリーブオイルやイラクサのパックでケアするように勧めてくれましたが、強制するのではなく、「試してみたら?」という感じでした。

―― 必ず行っているエクササイズやおすすめのストレッチがあれば教えてください。

アッツォーニ 私はエクササイズ好きの人間ではありません。リハーサルなら何時間でもできるけれど、エクササイズをしなくてはいけないときは苦しかったです。私は何度も怪我をして、そのたびに身体を元に戻すためにフィジオセラピーでリハビリをしなくてはいけませんでした。そのことで自分の身体をよく知ることができ、それだけでなくエクササイズを好きになることもできたんです!
 私はいろんなウォームアップをします。脚やコアマッスルを強化し、スタミナをつけるためですが、シンプルに自分の身体の調子を保つためでもあります。エクササイズの内容について書くのは難しいので、いつかビデオに撮ってお見せしますね。

―― コール・ド・バレエで踊ったことはありますか? その時代の思い出やエピソードがあったら教えてください。(micさん/20代)

アッツォーニ もちろんコール・ド・バレエを踊っていますし、そのことに感謝しています。ダンサーはみんな下から上までひとつずつ階段を上っていくべきだと私は信じているんです。それは人生のレッスンであり、ずっと人生を通じて助けになってくれるもの。カンパニーのメンバー全員に感謝の念を持てるようになり、全員が重要で特別なんだと理解できるようになります。
 いまも思い出すのはハンブルク・バレエ・スクールに入った最初の年、私はジョン・ノイマイヤーの『モーツァルトへの窓』の最後の場面でカンパニーのハンサムなダンサーと一緒に踊ることになりました。2時間半あるバレエの本当にいちばん最後の短い場面です。でも、私はすごく緊張していて、公演が始まる前にはもうメイクも終え、衣裳も着て、トウ・シューズも履いていたんです! みんなに笑われるとわかっていたけれど……。一緒に踊ったダンサーが一輪の赤い薔薇をプレゼントしてくれました。本当にうれしかったことを覚えています。
 もうひとつの素敵な思い出は、1993年のジェノヴァ公演です。私はまだコール・ド・バレエでしたが、『ロミオとジュリエット』でジュリエットの3人の従姉妹のひとりを踊ったんです。第3幕でマーガレット・イルマンがジュリエットを踊るのを袖から観ていたときです。誰かが私の脚を軽く叩きました。振り向くと、プリンシパルのイヴァン・リスカがいました(彼はジュリエットの父を演じていました)。彼は私に「どうして舞台でジュリエットを踊っているのが君じゃないんだろう?」と言ったのです。私はなんて答えたらいいかわからなかったけれど、私がジュリエットを踊れると思ってくれていることがうれしくてたまりませんでした。翌日の舞台の終演後、ノイマイヤーさんが私のところに来て、次のシーズン明けにジュリエットを踊るように言われました。夢が叶ったんです! その翌日、私はソリストに昇進しました。

―― 公演で日本を訪れた際、本国へ持ち帰るお気に入りグッズはありますか? 必ず食べるものや必ず訪れる場所は?(フクロウさん/40代)

アッツォーニ 日本から帰るときはいつもスーツケースがいっぱいになります! 日本食は大好きだし、キッチンで使う材料もユニーク。ドイツに帰る飛行機が離陸すると、寂しい気持ちになります。私がいつもスーツケースに入れて帰るのは――
マヨネーズ(ボトルに赤い男の子が描かれているもの)、ゴマと照り焼きソース、それから白い食パン。娘のキラのためにハイチュウも。これはできるだけたくさんの種類を。それからロフトと東急ハンズで買った小物たち。
東京に行くと必ず行く場所もあります。渋谷のマークシティにあるお寿司屋さんとスターバックス! 権八にもいつも行きます。鉄板焼きも食べに行きます。2年前には表参道のLUKE'S LOBSTERを発見しました。これまで食べたなかで最高のロブスターサンドウィッチでした! いろんなところに食べに行ってみるのが私たちは好きなんです。英語メニューがなくても構わない。こうやって日本のユニークなレストランをいくつも発見してきました。

シルヴィア・アッツォーニ
イタリア・トリノ出身。ハンブルク・バレエ学校で学び、1993年、ハンブルク・バレエに入団。2001年よりプリンシパル。ノイマイヤー振付『人魚姫』のタイトルロール、『クリスマス・オラトリオ』の天使などを初演したほか、『ロミオとジュリエット』『椿姫』『シルヴィア』『オネーギン』など主演多数。

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日本へのうれしい愛情を感じさせつつ、一貫して前向きなメッセージをくれたアッツォーニさん。近日公開予定の後編ではほかのバレリーナたちによるQ&Aもご紹介しますので、楽しみにお待ちくださいね。

★シルヴィア・アッツォーニ(ハンブルク・バレエ)
★アリーナ・コジョカル(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
★オーレリ・デュポン(パリ・オペラ座バレエ)
★ドロテ・ジルベール(パリ・オペラ座バレエ)
★永久メイ(マリインスキー・バレエ)
★中村祥子(K-BALLET COMPANY)
★小野絢子(新国立劇場バレエ団)
★上野水香(東京バレエ団)
★ディアナ・ヴィシニョーワ(マリインスキー・バレエ)
★矢内千夏(K-BALLET COMPANY)
★米沢唯(新国立劇場バレエ団)

ダンスマガジン2020年8月号「バレリーナに聞きました!」には、以上11名のバレリーナが登場! プリマとして、ひとりの人間として、舞台のことからパーソナルな内容まで、50ページにわたって語られているスペシャル企画です。noteと合わせてこちらもぜひお読みください!






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