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しんすけの読書日記 『下町の恋人たち』

先日(2022年5月10日)、鬼門に入られた早乙女勝元の作品である。

東京大空襲の調査報告などで馴染んだ著者だった。児童文学を専業とする人だった。
だが創作は、本書しか読んだことがない。

本書を手にしたのは1968年。東大闘争の最中だった。
読者対象は学生でなく勤労青年を対象としていたが、学生のぼくにも新鮮に読むことができた。
本書に登場する女性たちに『キューポラのある町』の吉永小百合を重ねていたのかもしれない。

ぼくが本書を読んでいるとき横を通った過激学生が早乙女勝元の名を観て「ふん。代々木か」と呟いた。
腹立たしかった。「代々木」や「日共」というのは当時の侮蔑言葉だったのだ。
「代々木で悪いか!」って、怒鳴ってしまった。

その後は立ち廻りを演じる羽目になってしまった。体力もないのに気短かかったことを憶えている。今でも単純で気短いのは変わらないが。

当然にして袋叩きに合ってしまったが、何もしなかったならば未だに消えない後悔として残ったのではないだろうか。

この作品の登場人物たたも、どちらかと言えば短絡思考の、持ち主が多い。
だがそれが、青春を謳歌する証のようにさえ観えてくるのだ。

話のなかで、臨時工や下請け作業員の話が出てくる。あの頃は労働組合に入れず低賃金に文句も言えず働いていたものが多かった。
それから50年以上を経た今日だが、事情はまったく変わてない。
臨時工や下請け作業員はいなくなっても派遣業務の拡大によって、組織されない労働者が増えてしまった。
特殊な能力を持っていない限り、低賃金に耐えなければならない。
なにか時代が進むほど世の中が悪くなっていくような気さえする。

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