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無名の私が、メイキング制作に抜擢されたワケ【熊本県立劇場40周年記念事業】

昨年夏から今年2月にかけて、撮影を敢行した熊本県立劇場40周年記念事業「動く劇場 ~5 stories~」のメイキング映像が15日、公開されました。

私は、メイキング映像制作担当として参画。
県内の自然・文化遺産を舞台に、熊本出身のクリエイターが作品を仕上げる
地域 × アーティスト × クリエイター で届ける5本の物語。

今思うと、県内でもなかなか大きなプロジェクトの中で仕事をさせてもらえたな、と実感します。この事業は私を大きく成長させ、ついには独立を考えるきっかけとなったわけですが、無名の動画クリエイターが参加するには、「いきなり規模がデカくないか…?」と疑わざるを得ません。

振り返ると、
たくさんの皆さんの応援があって、成し遂げることができたなと思います。
いつも本当に、ありがとうございます。

というわけで、今回の内容は、

  • メイキング映像を制作するきっかけ

  • 各映像とクリエイターの紹介(裏側)

  • 行動することの大切さ

などについて話していきます。
ご意見やご感想もお待ちしてます。


なぜ、メイキング映像制作になれた?


さっそく本題ですが、なぜメイキングを作れたのか。それは、後述する「阿蘇×弦楽四重奏」篇のクリエイターである、中島昌彦さん のお力添えがあり、実現できました。

昨夏、私は「映像の仕事で起業したい」と思うようになり、県内で活躍するクリエイターさんたちに片っ端から話を聞きに行っていました。

そんな中、阿蘇市内の中島さんの事務所にお邪魔した私は「仕事はどうやって受注しているのか?」「必要なスキルは?」「今後の課題や展望は?」などをガンガン質問。持ち前の記者魂を発揮して、もはや取材か?という勢いでした。

そこで、ふと中島さんから、こぼれた一言。「今度、県劇の案件で11月に撮影あるからよかったら見学してみませんか? 田中くん憧れのクリエイターの子も来ますよ〜」

・・・私は「はい!ぜひ、いきます!」と即答。

こうして、私はいち制作スタッフとして、初めてプロの撮影現場に潜入することになりました。

中島さんから「ご飯代、交通費などはこちらで持てるのですが、ちょっと予算が少なめでして、、バイト代がちょっと難しいです、、」と追記がありましたが、それはあまり関係ありません!

現場に参加させてもらえるだけで
私のチャンスは大きく広がるのですから!



▶︎ 荷物運びながら、すきま時間にカメラを回す

吸い込まれそうに真っ青な空。風がひんやりと少し冷たくて、なんとなく爽やかな気分になれる——いよいよ訪れた撮影日は、そんな印象でした。

そこに中島さんと共に現れたのは、沖縄の映像クリエイター トッティさんhttps:www.instagram.com/totty_vlogs/
国内でも数少ないFPVドローンパイロットでもあり、その卓越した技術はまさに”魔術師”と称したいほど。彼は私の憧れのクリエイターでした。

中島さんとトッティさんの撮影現場をこんなに間近で見られる機会もそうはありません。どうやって仕事を進めるのか、具体的な撮影手法は…?目の前の光景全てが貴重な学びの機会でした。制作スタッフとして、演者さんの楽器を運んだり、ドローン飛行中に障害物がないかを伝えたり。それも含めて、動画撮影はどんな1日の流れなのか、を体験できたのは、自分が今後、仕事をしていくイメージを具体的に持てるようになったのでよかったです。

その合間に、私はカメラを構えて、可能な限り記録を残していきました。

この時点では、まだメイキングを担当することは全く決まっていませんでした。しかし、私は1つ、心に決めていたことがあります。

勉強させていただく立場ではありますが・・・・・

「自分だからこそ与えられるものがあるはず。それを探し、残すべきだ」

ということです。

せっかく巡り合えた好機なのに、ただ学べてよかった〜と思うだけではあまりにもったいない。「もしかしたら、メイキングを制作したら喜んでもらえるんじゃないか?」と想像力を働かせ、行動する。それが結果に結びつくのかどうかは分かりませんが、行動しなければ、何も掴めない。

「目の前の光景全てを学び尽くす!」「でも自分も何かを生み出す!」

欲張りかもしれませんが、やってやる!
そんな気持ちで、臨んでいました。

草原で撮影に臨む中島昌彦さん(左)と演者さん。 奥に見えるのは阿蘇山火口 = 2022年11月9日

▶︎ まさかのオファー  驚きを隠せなかった。

撮影後、私は思い切って、中島さんに「撮影素材をください!メイキング作ります!」と、話を持ち掛けました。すると、快く受け入れてくださり、SSDでデータを郵送してくれました。これは、本当にありがたいことでした。

そして、完成したデータは、中島さんを介し、40周年事業のディレクション担当、原田雄太さん(株式会社アド・スーパー・ブレーン:熊本市)の元へ。すると約1ヶ月後。原田さんからDMをいただきました。

「今度は制作補助はなしで、残り3箇所(万田坑、八代・﨑津)のメイキング制作をご依頼することは可能でしょうか?」

これは飛び上がるほど、嬉しかったですね。
まだまだ微々たるものでしたが、自分の努力が報われた気がしましたし、本業以外では、初めて自分を評価してもらえたので。私は、すぐに原田さんに電話を掛けて「やります!」と返事しました。

ここから、熊本県立劇場 × 田中慎太朗の物語も始まったのです。

さて、それではせっかくなので、
各映像とクリエイターもご紹介いたしましょう!



Making of 「動く劇場 ~5stories~」

★「八代妙見祭  × 津軽三味線・和太鼓」 篇

撮影を執り行なったのは、2023年1月16日。
本編の途中に流れるお祭りの映像は、2022年秋に撮られたものです。

みなさん結構驚かれるのは、撮影場所。
「どこのスタジオ?」と聞かれたりしました。
実はこれ、1年前にオープンしたばかりの施設、
八代市の「お祭りでんでん館」の1階展示室(お祭り体感シアター)で撮影しました。妙見祭の行列模様を高さ約5m、幅約7mの巨大3面スクリーンで見ることができ、圧巻です。

撮影は、映像制作会社AREAさん(熊本市)がメインで担当。おそらく使用機材は最も豪華でした。レールなどを用いて、上下左右縦横斜め…。カメラマンの人数も4〜5人と安定の布陣。

演出は、立野正継さん(株式会社立野事務所)。途中からチームに加わったそうですが、直接お話を伺うと、並々ならぬ瞬発力とファイティングがあって最後まで走り切ることができたのだな、と学びになります。そんな立野さんのご提案もあり、本編最後には私が撮影したカットも入りました。※本編に私の素材が登場したのは唯一です。

その最後のカットですが、お散歩でたまたま通りすがった幼稚園児らを前に津軽三味線の本田浩平さん、和太鼓の高田大介さんが即興で、演奏を披露。

本編では、職人ならではの精巧な手さばき、技術力が印象深いですが、現場では、エンターテイナーとしての立ち振る舞いや、茶目っ気が見える——まさにそんな部分を、メイキングで表現したいと思いました。

和楽器を弾く男たち…!
心臓まで届く重厚な和太鼓の響き。
祭囃子を想起させる軽快な三味線の音色。
側で聴き入ることができ、ひたすら贅沢なひとときでした。


★「﨑津集落×コントラバス」 篇

こちらの撮影日は、2023年1月24日。
メイキングをご覧になられた方は、もうご存知でしょうが、ほんっっとに、寒い日でした!当時は雪が降り頻っていて、天草と熊本市までの1本しかない幹線道路が封鎖される可能性があった、というほど。

コントラバス奏者の亀子政孝さんも、凍える手を冷やさないようにカイロで温めながら、撮影に臨んでいました。きっと、こんな過酷な状況下で演奏する機会も、きっとそうはないはずです。

撮影陣も同じくでした。演出の佐藤かつあきさん、撮影の穴見春樹さんも、予想外の天候により、当初の予定を断念して、撮影スケジュールをその場で臨機応変に調整。あれだけ雪が視界に飛び込んでくるのにも関わらず、本編では一切、雪というイメージはありません。出来上がった映像を見て、心底驚きました。これがプロか、と。

そういう点でも、このメイキング映像が、本編と最もギャップがあったと言えるでしょう。

一方で、”過酷な状況だからこそ” 良かった点もあるかもしれません。この日のスケジュールの約8割は、上記の通り、雪、雪、雪…でしたが、
最後の最後。防波堤での撮影時に、見渡す限りを覆う雲の隙間から、一縷の光が差し込んできました。

「急げ!今のうちだ」「みんな、走れ!」

これまでの苦労がパアっと弾けるような、爽快感のもとで、チームが最もひとつにまとまった瞬間が訪れました。楽器が雪で濡れてしまう前に、
なんとしても決める!という使命が、渾身の映像表現を生み出しました。

本編では「神々しさとおどろおどろしさ」を。
メイキングでは「過酷さの中で生まれた一体感」を。見比べてもらえると、より作品を楽しむことができるかと思います。

また、メイキングでは、諸事情で本編に入れることができなかった﨑津教会での演奏シーンも見ることができます。特別な許可を得て撮影したため、希少価値が高いものです。ぜひ、亀子さんの音色とともに、天草の歴史を感じてみてください。


★「万田坑 × DANCE」 篇

撮影は、2023年1月29〜30日。
5本の中では、ラストを飾る作品でした。

プロダンサーの葉山悠介さんがダンスとして、作曲家の吉田敬さんが音楽として、万田坑の営み、歴史を表現しました。ドンドンと打ち鳴らすリズミカルな音楽の演出は、炭坑マンの採掘する様子を想起させます。

映像を担当したのは、OP Films by 鬼ヶ島プロダクションの宮川伸吾さんら。一般の来場者もいらっしゃる中で、可能な限り撮り続け、「ここ、面白い!」と思える場所があれば、すぐにカメラを回す。葉山さんのダンス構成も「インスピレーションで」といった側面もあり、最も自由な撮影現場だったと言えるかもしれません。

撮影中のアイデア、ちょっとした気づき、すぐさまトライ。そこには、型にハマるのではなく、時に外してみる面白さがありました。
万田坑というロケーションだからこそ、それぞれの才能が掛け合わさった瞬間がいくつもあり、側で見ると、とてもワクワクしました。

現場で感じたその「ときめき」をメイキングでは意識して表現しました。ちなみに、メイキングならではかもしれませんが、撮影日に女性ダンサーの鹿間れいあさんが誕生日を迎えたそうで、ほっこりしたシーンも偶然生まれました。これも結果として、”外してみる”演出としてメイキング映像に取り入れています。

表現には正解がないので、ときに伝え方を考えるのが苦しくなる瞬間は少なからずあります。そういったときこそ、万田坑での撮影を思い出していきたいですね。


★「三角西港 × マーチング」篇

残念ながらこの撮影だけ、私は現場に臨場することはできていません。

私は、昨年11月の撮影から現場臨場しているのですが、三角西港はそれ以前に撮り終えてしまいました。ですので、私は撮影素材のみ提供してもらい、このメイキング映像を制作しました。

ここでは、本編で視聴し、メイキング用素材から見えた第三者の感想を簡単に述べたいと思います。

率直に、専大熊本玉名高の生徒さんたちの笑顔が眩しい…!

チーム全員が元気良く、明るくパフォーマンスする姿は、私たちに力を与えてくれるものです。整列を乱さない息ぴったりのチームワークも、どれほど努力で手に入れることができるのか計り知れません。

すごくシンプルなことでしょうが、毎日一生懸命に取り組み、共創したものは人々に大きな感動をもたらします。これは、簡単なようで、難しい。
自分にも、こんな時代があったなあと思い出しましたし、まだまだやれる!と背中を押してくれたような気もします。原点を思い出したい、ときに真っ先に見返したい。私にとってお守りのような作品になりましたね。

メイキングでは、本編にはあまり登場していない劇場での収録の様子も描かれています。ぜひご覧ください。


★「阿蘇 × 弦楽四重奏」篇

撮影日は2022年11月8日〜9日。
楽器運び、椅子運び、ガンバリマシタ。笑

冒頭に申し上げました通り、この日の天候は、雲ひとつない青空。
夕日が差すと、ススキが金色に輝き、なんとも幻想的な風景でした。
そんな中、演奏したのは・・・
ヴァイオリン  緒方愛子さん、黒葛原康子さん
ヴィオラ 早田類さん
チェロ 渡邉弾楽さん

正直、これまでの現場で最もノリノリで演奏していたのはこの4名でした。田んぼ、草原、森の中… 大自然に囲まれて演奏する機会は「初めて」だったそうで、時折カメラのモニターやPCで映像を確認すると、おおおお〜と湧いていました。現場の雰囲気は、終始和やかなムードで、この空間を共にできたことが、何よりも私は嬉しく思えました。

映像の美しさはもちろんなのですが、この撮影の中で、私にとっての一番の学びだったのは、まさしくこの「現場づくり」でした。

中島さんとPMの吉永透さんが、ロケ地の許可申請やタイムスケジュールを入念に練り上げ、太陽の位置まで正確に計算。撮影当日の移動方法や準備物までディレクションは隙がなく、完璧でした。トッティさんも、映像技術に加え、どのクリエイターよりも現場を明るく盛り上げてくれる姿が印象的で、これらの要素がうまく調和したことで、演者さんたちが気持ちよく撮影に臨むことができたのではないかと思います。

「ゆる〜く、楽しくやるのが、いいですよ」とトッティさんが話されていた言葉は今でも心に残っています。メイキングでは、その現場の雰囲気が伝わりやすいような表現ができたらと思い、制作しました。


行動することの大切さ

「自分へのお膳立ては自分でする」

これはディスカバリーチャンネルの「覆面ビリオネア」という、ドキュメンタリー番組の主人公、グレン・スターンズが残した言葉です。

(この番組は、起業家であり億万長者であるグレンが、素性を隠し、縁もゆかりもない土地で、わずか100ドルの資金を元手に、たった90日間で、100万ドル【約1億4000万円】の価値がある会社を作る話)

興味ある方は→(https://www.youtube.com/watchv=GPFCqo9oZfM&list=PLgMKK0HeoFAWiK7354ESh6XaE3KGgdC2G

この言葉通り、自分で何かを成し遂げたいと決意したはいいものの、待ってるだけでチャンスが来る、なんて都合のいい話は絶対にありませんし、
自分が人に与えられる、誰にも負けないと思える強みがなければ、この弱肉強食の世界で勝ち抜くことができません。熊本を代表するクリエイターの仕事ぶりを間近で見たからこそ、

もっと学び続け、経験し、誰よりも行動をしないと埋もれてしまう

という危機感が学びの充実感とともに芽生えました。

その一方で「これを磨けばもっと戦えるはずだ」と自分を信じることができる点も見つかりました。


プロダクトは表と裏で、さらに美味しい


私のビデオグラファーとしての理念なのですが、
「人間くさいを描く」 ことをいつも大切にしています。

映像作品だけでなく、企業や事業、サービスなど全般に言えることかと思いますが、出来上がるものと同等かそれ以上に

「なぜそれをやろうと思ったのか」
「作ったもので、どんな世の中になってほしいのか」

という意義が重要です。
私にとって、人間くさい=人柄や個人の”らしさ” を描くことは、それらの意義を伝える手段です。

今回の「動く劇場」についても、
本編が完成するまでの歩みを届けることで、
少しでも共感の輪を広げることができたと自負しています。

表も裏も、コンテンツにしたら、めっちゃ美味しい!これは、前職の新聞記者時代から経験を重ねてきた私だからこそ、たどり着けた哲学かも。

今回の案件を通じて
商品、サービス、事業の表を彩るお手伝いも、
その裏側をまるっとコンテンツにすることも、
同じくらい楽しいんだな、ということに気づけました。
それこそが、最も大きな収穫だったのかもしれません。


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