渡辺慎太郎

自動車ジャーナリストをしています。さまざまな媒体に寄稿したこれまでの記事の一部をアーカ…

渡辺慎太郎

自動車ジャーナリストをしています。さまざまな媒体に寄稿したこれまでの記事の一部をアーカイブ的に公開していきますが、自動車には関係ないかもしれない書き下ろしのエッセイも足していこうと思っています。この度は目に留めてくださって、ありがとうございます。

最近の記事

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【アーカイブ】平面と立体

(『CG CLUB NEWSLETTER』2020年2/3月号より転載、加筆・修正あり)  年末年始にかけてニュースを賑わせていたのは、ご存じのように映画やドラマみたいな国外逃亡を図ったアノ方だったが、個人的に気になってネットでも詳細を調べたのは「PISA(国際学習到達度調査)」の調査結果だった。今回は79の国と地域が参加、日本は高校1年生ら6100人がテストを受け、「読解力」の低下が著しいと公表された。この結果を知って、「そうだろうな」という納得した反面、「でもそれは高校

    • 【アーカイブ】デジタル開発の意義

      (『GENROQ Web』2020年12月公開より転載、加筆・修正あり)  自動車メーカー各社が現在積極的に進めているのがデジタル開発である。これまでのデータや知見や経験をベースに、PCのモニターに映るデータやグラフィックを見ながらシミュレーションを重ねてクルマを作るというやり方である。こうすることで開発期間の短縮はもちろん試作車の削減が図られて、時間とコストの大幅な節約が見込まれる。特に試作車は多くの部品を一品モノとして制作するため、1台あたりの金額は数億円とも言われてい

      • 【アーカイブ】CGTVの裏側

        (『CG CLUB NEWSLETTER』 2021年10/11月号より転載、加筆・修正あり)  昔も今もそうなのだけれど、自分が出演している『CAR GRAPHIC TV』(CGTV)は絶対に見ない。後悔と恥ずかしさに押しつぶされて、穴があったら入ったままもう2度と出たくない心境になりそうだからである。「いつもクルマの原稿書いてるんだから、そのクルマについて知っていることを話せばいいだけじゃん」と思われるかもしれない。確かにその通りである。ただ自分は極めて不器用に生きてい

        • 母の日

           今夜は久しぶりに、ママと布団を並べて寝ようと思った。最後に隣で寝たのはいつのことだろう。 「どこでも好きなところに連れてくよ」と言ったら「じゃあニューヨーク」と、珍しくママが自分の意思を表明してくれたときがあった。それまでは、食べたい物や行きたい場所や欲しい物をたずねても、必ず「私はいいから」と息子や家族を優先するような母親だった。だからママの予想外の反応にはちょっと面食らったし、国内の箱根あたりの温泉とかではなく、海外のアメリカのそれも「ニューヨーク」という具体的な地名が

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        【アーカイブ】平面と立体

          「頑張る」はいらない

          #大切にしている教え  社会人になって間もない頃だったと思う。細かい内容はまったく覚えていないのだけれど、自宅(=実家)に上司から電話がかかってきて、仕事の件でこっぴどく叱られた。彼が怒るのも無理はないようなミスだったから、自分は「申し訳ありませんでした」とただただ謝ることしかできず、でもこんな電話からは一刻も早く解放されたいという気持ちもあって「次回から頑張ります!」と言って電話を切った。  やれやれ、と意気消沈していたら、大好きなTVドラマに集中していたと思っていた母が

          「頑張る」はいらない

          トヨタだってちゃんとやってるじゃん

           トヨタ自動車の社長が代わり、新体制による方針説明会が開催された。佐藤社長、中嶋副社長、宮崎副社長の3人が登壇され、約40分に渡ってこれまでの成果やこれからの取り組みに関するプレゼンがあったのだけれど、その最中、さまざまな写真や図版などが披露され、個人的にもっとも食い入るように見たのは「電動車累計販売台数」だった。  1997年から2022年まで、「右肩上がり」のお手本みたいなキレイな曲線を描いて2250万台の電動車を販売したそうだが、注目するべきはその右側に書き添えられた文

          トヨタだってちゃんとやってるじゃん

          そして僕は途方に暮れたくない

           まるで高橋幸宏さんの後を追うように、坂本龍一さんも向こうへ逝ってしまった。  自分より歳上なんだからそれが自然の摂理というものなのかもしれないけれど、親や恩師や先輩や上司とか、たくさんのことを学び育てていただいいたり、人生に多大な影響を与えてくださった方々はたいていみんな歳上だ。その誰もがかけがえのない人たちで、絶対に失いたくない人たちでもある。  自分は2002年に次々と母と父を亡くし途方に暮れた。もしあの人が居なくなってしまったら、必ずまた途方に暮れるに違いないと思

          そして僕は途方に暮れたくない

          【アーカイブ】もうひとりの加害者

          (『CG CLUB NEWSLETTER』2019年10/11月号より転載、加筆・修正あり)  いますぐベッドに入ってもすぐには眠れそうにないし、差し迫った原稿の〆切もないし、明日は事前準備が必要な重要案件もないという「さぼってもおとがめなしの日」が秋の夜長にたまにやってくる。こんなときに興じるTVのチャンネルサーフィンは至福のひとときである。  むかし観て、えらく感銘を受けた映画に偶然出逢えるのも楽しい。昨日久しぶりにまた、思わず見入ってしまったのは「激突!」である。原

          【アーカイブ】もうひとりの加害者

          【アーカイブ】MTの偶奇性

          (『CAR GRAPHIC』2017年9月号より転載、加筆・修正あり)  理系か文系かと問われたら「200%文系です」と即答できるほど、数字を読み解く世界にはめっぽう弱いけれど、先日「0(ゼロ)は偶数か奇数か」みたいな文献に目がとまった。「偶数は2の倍数である整数」など、偶数の性質にあてはまるほとんどすべてを備えているので、0は偶数だそうである。偶数か奇数か。このどちらか一方の属性に定めることを偶奇性と言うらしい。  そんなにわか知識を仕入れた後に、ルノーとマツダのMT車

          【アーカイブ】MTの偶奇性

          【アーカイブ】SEIKOとROLEX

          (『GENROQ Web』2019年1月公開より転載、加筆・修正あり)  昔、メルセデスのエンジニアとディナーの席で交わした会話がいまでも鮮明に頭の中へ刻まれている。何の話の流れからそういう会話になったのかはよく覚えていないのだけれど、彼がとある質問を投げかけてきた。 「どうして日本人はロレックスとかオメガとか、外国の時計が好きなのですか」  突然そんなことを言われても、自分としてはちょっと困ってしまい、返答に窮していると彼が続けた。 「日本にはセイコーやカシオとい

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          【アーカイブ】GT-Rマイスター、再降臨

          (『CAR GRAPHIC』2014年2月号より転載、加筆・修正あり)  日産自動車のテクニカルマイスターである加藤博義氏は、R32のGT-Rの開発過程においてニュルブルクリンクを中心に徹底的な走り込みを敢行、その乗り味に磨きをかけてきた中心人物である。その後もR33、R34と一貫してGT-Rの開発に携わり、彼にとってGT-Rというクルマはもはや愛娘のような存在となっていた。しかし現行のR35の開発がスタートした時、チームのリストに彼の名はなかった。 「会社の方針だから。

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          【アーカイブ】私的201&124論

          (『car MAGAZINE』2020年10月号より転載、加筆・修正あり)  かれこれ10年以上も前のことだけれど、1990年式の190E 2.6(W201)を3年ほど所有していた。いまは1992年式の300CE-24(C124)に乗っている。いずれも「どうしてもそれが欲しかった」わけではなく、その時の自分のライフスタイルに合ったクルマを探していたら、たまたまこの2台と巡り会ったというだけのことだった。個人的に3BOX(=セダンかクーペ)が好きで、都内在住なので全幅はなるべ

          【アーカイブ】私的201&124論

          【アーカイブ】病室の天井を眺めて

          (『CAR GRAPHIC』2014年7月号より転載、加筆・修正あり) 「え? もう一度お願いします」 「聞いただけじゃよく分からないですよね。じゃあ紙に書いて見せてあげましょう……はいどうぞ」 「第2頸椎骨折、第7頸椎破裂骨折、第3〜5腰椎横突起骨折、第3〜9右多発肋骨骨折、右肺挫傷、右血気胸……これつまり、いろんなところがたくさん折れていて、さらに肺も傷ついて、どちらかといえばかなり深刻な状態ってことですか」 「どちらかといえばそうなりますねえ」 「はあ」 「

          【アーカイブ】病室の天井を眺めて

          【アーカイブ】「よろしくお願いします」

          (『CAR GRAPHIC』2014年2月号より転載、加筆・修正あり)  日本語のなかには、そのニュアンスまで正確に英訳できない言葉やフレーズが いくつもあって、「よろしくお願いします」はその最たるもののひとつだと思う。  試しに翻訳サイトを使ってみたら、『Yahoo! 翻訳』では「Thank you very much for your help.」、『Google 翻訳」では「Thank you in advance.」と訳してくれた。「よろしくお願いします」は英語に

          【アーカイブ】「よろしくお願いします」

          【アーカイブ】日本車の作り方

          (「中等教育資料」2017年4月号より転載、加筆・修正あり) 渡辺慎太郎 月刊自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集長  自動車専門誌の制作を生業としていると、国内外のクルマを試乗する機会に数多く恵まれます。もうずいぶんと長きに渡ってたくさんのクルマを乗り比べ、印象を整理して原稿を書いていますが、最近になってあることをよく思うようになりました。それは日本の自動車メーカーが作る日本車と、外国の自動車メーカーが作る輸入車は、どうしてこんなにも違うのか、その理由についてです

          【アーカイブ】日本車の作り方

          大人と子供

          #探究学習がすき  ひょんなことから、とある学校の探求学習で講演をさせていただきました。男女約120名の高校一年生を前にして、いったい何を語ればよいのか。頂戴したテーマは「大人の話を聞こう-プロフェッショナルの仕事とは」だったのだけれど、そもそも自分は「大人」と「子供」という記号性がしっくりこないと感じる人間で、自身も(今年で57歳になりますが)大人なのか子供なのかよく分からないまま今日まで生きてきました。  日本の法律では18歳から「大人(=成人)」ということらしいけれ

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