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書くことと、忘れること

僕たちは日常的にSNSやメール、勤め先や役所の書類、日記や手帳などいろいろなものを「書く」ことで毎日を過ごしています。ではなぜ、僕らは物を書くのか。一介の物書きとして、僕はずっとそのことが気になっていました。

岸田奈美さんの「忘れるという才能」というエッセイに、次のような一節があります。

愛しいなあ、と思った。そして気がついた。私は忘れるから、書こうとするのだ。
後から、情景も、感動も、においすらも、思い出せるように。つらいことがあったら、心置きなく、忘れてもいいように。父のときみたいに、もう忘れたりしないように。どうせ後から読み直すなら、苦しくないよう、少しばかりおもしろい文章で書こうかと。
無意識にわたしは、選択していたのだと思う。

岸田奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった+かきたし』(小学館文庫)p.120-121

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