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【おとなりさん便り】こどもまんなか地域会議レポート

佐賀県職員が、事業や施設の垣根を超えてこどもの視点に立ちながら対話する『こどもまんなか地域会議』を実施しました。

前半は、地域でこどもたちのそばに居続けて活動をしている方をゲストに迎え話しを聞き、後半には居場所となりうる地域のフリースペースや児童館・公民館ほか、こどもたちを見守る民生委員など、実際にこどもの声を聴く現場の方と対話を行いました。

約30人程度の方に集まっていただき、会はスタートしました

初の試みとなった今回の取り組みについて、どういった趣旨のものか、どのような内容だったのかについてお伝えしたいと思います。

顕在化しているこどもたちの苦しさ

こども家庭庁が設置され「こどもまんなか」をスローガンに掲げ、こどもの声を聴くために社会全体で支える必要があるとして取り組みを進められています。改めて、「こども」の状況を振り返ってみると、先進国の中で日本のこどもたちの精神的幸福度は最下位に近く、他の視点においても順調に最多を更新し続けています。自殺、不登校、虐待、特別支援、外国籍のこどもの不就学、ヤングケアラーなどの言葉もメディアに多く取り上げられています。
こういった問題を対処することは必須ですが、なぜこういった状況が生まれているのか、もう一段階深掘りをして考えてみることが重要です。

核家族が増加し、地域での行動を制限されている現代のこどもたちにとって、家庭でも地域でも居る場所(物理的・精神的)が失われていってしまっていると言えます。家庭の力が相対的に小さくなっているからこそ、地域力を強固なものにしなければいけません。

だからこそ、まず地域でこどもたちが居場所と感じる場所や人が連携をする必要性があるのではないかと考えています。運営する大人の目線では、管轄が分かれているかもしれませんが、こどもたちにとっては自分がどこに分類をされるか定められている訳ではありません。

「こども家庭庁こども家庭審議会 こどもの居場所部会参考資料」引用
目指したい状態図解(Copy right@2023Saga Prefecture.All Right Reserved)

こどもの視点に立ち、声を聴きながら居場所づくりを進めることが必要

もう1つの目的としてこどもの視点に立つということがあります。居場所を感じられていないこどもがいるらしいから、解決策として居場所を作っていこうという考えは、実は大人の側の目線であり、本当にこどもたちにとっての居場所になるのだろうかということを確認しながら考えていく必要性があります。

『政策課題として行われる居場所づくりは、「当事者が、その場所を居場所として感じ、認識する」居場所を実現しようとするものではなく、「居場所がない人に対して、居場所という手段を提供することを通じて、様々な目標を達成させようとする」ことに繋がります。』

阿比留久美「孤独と居場所の社会学」2022

こういった目的や背景への目線を合わせ、政策を考える側(=県庁職員)が連携をしていくことが「こどもまんなか」に繋がっていくのではないか。そんな思いから始めた試みでした。

〇第1部 メインプレゼン 『“すべて”のこどものそばに居るということ』 よりみちステーション代表 小林由枝さん

10年以上地域でこどもの側に居続けている佐賀県武雄市のよりみちステーション代表小林さんに話をしていただきました。

現在のこどもたちにとって、時間・仲間・空間の3つの間がないことを危惧してスタートした居場所です。無料で、地域の誰もが来て良い場所。特にプログラムを用意している訳ではなくて、ただ側にいて、評価をせずに暇そうに漂うようにしています。こどもは大人をよく見ていて、忙しそうにしていると話してこないから。側にいて耳を傾けることが大事です。でも、大人の皆さんに伝えたいことは「大人がまず幸せであること」。神奈川県の川崎市でこどもの権利条例ができた際に、こどもたちが大人にこうメッセージ*を伝えたそうです。まずは大人が幸せでいましょう。

*https://www.city.kawasaki.jp/450/page/0000105564.html

〇クロストーク『こどもがこどもまんなかと思える地域のために』

続けて、日頃から「こどもまんなか」つまり、こどもの権利を守るために活動をされている、佐賀県スクールソーシャルワーカー/ 不登校対応コーディネーターの金子千春さん、本庄小学校地域教育コーディネーター/ 前西与賀公民館長の木原久美子さんに参加いただきクロストークを行いました。

クロストークの様子

問い① 3名に共通するキーワードが「こどもまんなか」つまり、こどもの権利を守っていることにあると思うのですが、どのように実践をされているのでしょうか?(以下、敬省略)

金子:普段はスクールソーシャルワーカーとして、問題が起こった時に対応する、こどもの苦しさを解決する役割にいます。ただ、こどもたちの立場に私はいる傾向が強くて、本人たちの気持ちを代弁しているような感じです。

木原:自分がまずはこどもの権利を理解したいと思っています。(こどもの権利カレンダーの紹介)実際には、本庄小学校と地域をつなぐコーディネーターの役割を担っており、自信を持って過ごすことができるようこどもの声を聞くことを心がけています。

小林:こどもの居場所の中で、遊ぶことや休むことは自分たちで決めていいし、それも権利。今日もハロウィンで仮装をしたいという意見があったので、やりたい人ができるように手伝おうかなと思っています。

問い② 皆さんと、打ち合わせさせていただいた時に「こどものために」「おとなができること」というキーワードを(企画側が)出していて、無意識におとなが主語になっていることがあると気づかされました。

金子:「こどもまんなかパートナー」という言葉が出てきました。こどももおとなも1人の人として双方で耳を傾け合う状態が大事かなと。肩を組んで一緒に解決するようなイメージです。私は先ほども言いましたが、気持ちがこどもになっているので、「こどものために」と言われたら少し窮屈かもしれないです。もちろん、発達過程の中でこどもだけでは判断できないことがあるので、そこは大人がどう希望や考えを持っているのかを捉えながらサポートをしなくてはいけないと思います。

木原:前職に公民館長をしていたのですが、こどもの声を聞きながら、どのような活動をしていけば良いのか考えていました。もちろん、その時にも最後のサポートは大人がしていましたが決めるのはこどもたちであることを大事にしていました。例えば、大学生にも入ってもらって、こどもたちが意見を言いやすいような環境をつくることを行っていました。

小林:大人がつい、良かれと思ってやっていることであったとしても、こどもが良いと思うかは分からないです。おやつをあげたとしても、欲しくないものを、「どうぞ」と言っている場合もある。常に、どう思っているのか、こどもたちの様子を観察しながら側にいるようにしています。

問い③ 今回のテーマは「”こどもが”こどもまんなかと思えるように」ということでした。最後に何を大事にしていったら良いのか一言教えてください。

金子:普段私がしていることは「支援」という言葉になりますが、やっぱり意識しているという訳ではなくて、私がやりたいことなんです。相手のため、が先行すると自己犠牲になるから。例えば赤ちゃんが泣いていたら、泣き止ませたいな、と最初に思います。そして、その子がどういう気持ちになっているのかを考えます。分かってくれる大人もいるということを、こどもに知ってもらうために、まずは「こんな大人になりたい」と思ってもらえるような大人になりたいです。

木原:今回、チラシにこどもが主語の話し合い、と書かれていて良いなと思いました。こどもが主役であり、大人が脇役として何ができるのかということかなと感じています。

小林:こどもたちが、自分たちの人生の主人公であると感じられると良いですよね。そのために情報を提供したり、ナビゲートをするのが大人にできることなのでしょうか。

内容は一部編集をしています
市民活動団体「佐賀ファシリテーション・カフェ」の皆さんに描いていただいた当日の記録

〇第2部  こどもまんなか地域会議(非公開)

会議自体は、具体的になにか結論を出すものではなく、参加者と一緒に「こどもまんなか」について対話をしながら考えるワークショップの形式で行いました。肩書きにとらわれることなく、「こどもたちは何を望んでいるのだろうか」「一人の大人としてなにができるのか」について、グループごとに意見やアイディアを出し合う時間となりました。

グループごとに話し合いをする様子。参加者の表情が明るく「通常の会議よりも自分の意見を言うことができました」とコメントする方も。
各々が「一人の大人として」できそうなアイディアを付箋に書き出し、全員で共有する時間に。
今日から明日からできる行動を宣言しました。

最後に

今回の会に参加していただいた方自身の考えたアイディアが、すぐに業務や政策に反映されて大きな何かが変わる訳ではない。目に見える効果の物差しで測れば、きっかけに過ぎないでしょう。しかし、それぞれの日常において、こどもと繋がる瞬間に浮かべる表情が、伝える言葉が、取る行動が一人の人として積み重なって初めてこどもたちや私たちにとって手触りのある「こどもまんなか」社会が実現されていくのかもしれない。

こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。

編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)

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