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【おとなりさんちの話】おてら食堂@神埼市

普段、街の中で「お寺」は当たり前のように、どの地域にも存在しているのではないか。見たことない、という人は、恐らくほとんどいないだろう。それはそのはずで、日本全国のお寺の数は、なんとコンビニの数よりも多いそうだ。しかし、年始の初詣や、葬儀のタイミング等だけで、日常生活において、行く機会が少なくなっているそうだ。

時代を遡ると、江戸時代なんかには、" 寺子屋" という名で、地域のこどもたちが、いわゆる、「読み書きそろばん」を学んでいた場所だった。そんな寺子屋で勉強を教えるのもまた、地域の人だったとか。折角、場所があるのだから。ここを地域の人たちに、もっと開いていきたい。このような願いで実施しているのが" おてら食堂 "だ。今回は、お寺を開いて「こどもたちのおとなりさん」になっている皆さんを紹介します。

朝の9時頃、ボランティアとして参加する地域の皆さんが、毎月の「おてら食堂」の準備のために台所に立つ。それぞれ、決してお互いの家同士が近いわけではなくて、この日をきっかけに集まっているらしい。「私はね、ひとり暮らしをしているから、普段は家で会話をする人がいなくて。この日が私も楽しみなのよ。」同世代で、たわいも無い話ができることが、集まる人たちの居場所になっているという。誰かと話をしたり、自分で育てた野菜や果物を持ってきて、調理して、誰かに食べてもらう。そのプロセスが、皆さんの癒しになっているようにも感じる。

地域の皆さんのにぎやかな笑いが絶えない

数年前、近くにある工場で出稼ぎのためで働きに来ていた外国籍の方が、どこからか話を聞いて「お手伝いしたい」とやってきたことがあったそう。快く受けて、一緒に会話を楽しんで過ごしていたのだとか。こうして月に1回集まり、話をする場があることで、その人の居場所にもなったのだろう。数ヶ月後、自国に帰ることになったようなのだが、最後の日には故郷の料理を振る舞ってくれたほど、出逢いを喜び、別れを惜しんでいたのだとか。そんな話を聞くと、なおさら、ここが心地よい場所だったのかが伝わってくる。

地域の人が気軽に来られるきっかけを作るために始めたおてら食堂は、今年で9年目。
「〇〇のために」というよりも「どうぞ」という感覚だったと代表の後藤契子さん(以下、けいこさん)は思い出しながら話す。元は、小学校でこどもたちに向けた虐待予防の研修などに関わっており、こどもの悩みやしんどい気持ちを伝えることには、すごく勇気がいることを実感していたという。「だからね、敢えて困っている誰かを探すようなことはしないし、詮索するようなことはしたくないなと思っているの。」ただ、見守るということをずっと大切にし続けているのだ。

誰がいつ来ても良いから。予約をする必要はないし、どんな方が来ても「どうぞ」と迎え入れるのが、おてら食堂。その方が誰で、どんな家族構成なのかを深く聞くことは敢えてしていないという。

この日も、地域の皆さんがたくさん集まってきた。家族ごとに座るテーブルを回って「今日もありがとうございます」と笑顔で挨拶をして回るのは、後藤曜子さん(以下、ようこさん)さん。この場に来て、少しでも一息つくことができるよう、積極的に場づくりを考えている。

赤いエプロンをつけて、皆さんに挨拶をする、ようこさん

ようこさんは、ここに来た人が居心地良いと感じられるよう、空間づくりにも工夫している。

例えば、昔は喫茶室だったところを図書室「おもやい文庫」にして開放している。食べ終わった親子が、座って一緒に本を読んでくつろいでいた。こども用の本から大人でも手に取りたくなる新書まで揃えられていて、思わずゆっくりしてしまうのだろう。「私が大の本好きで。自分が読みたい本を揃えているんですけれどね」と微笑みながらようこさんは話す。

みんなで、ここにある本を自由に読めるスペース「おもやい文庫」

他にも、地域の人たちが、読まなくなった家に眠っている本を寄付して、読みたい人が持って帰れる本棚スペース「くるくる文庫」も作っている。

読まなくなった本を持ってきて、読みたい本を持って帰る「くるくる文庫」

また、お寺にある広いお堂のスペースをこどもたちに開放している。こどもたちは、広い畳の上を「鬼ごっこしよう」と走り回ったり、置いてあるパズルなどで遊んだりして過ごしていた。

どんなに走っても、大きな声を出しても、誰にも何も言われない自由な場所だ

こどもだけでなく、大人の皆さんもここに集まり、賑やかな声を聞きながら話をしていたり、一人で読書をしていたりと、ゆっくり気持ちを休めることができる場所になっているようだ。自由気ままに過ごすこどもたちを遠くから見守るだけ。そんな大人の皆さんもまた、きっといつも以上に「こどもたちのおとなりさん」になれる場所なのかなと感じる。

こどもたちが自由に遊び回る側で、大人同士も話に盛り上がる

大人の中にはこんな方も。こどもと来ていた、おじいさん。よく話しを聞けば、親戚ではないけれど、暇だから、と地域で顔馴染みのこどもを連れてきているのだという。「僕は時間がたっぷりあるからね。こうやって一緒に来ているんですよ。」と豪快に笑いながら教えてくれた。自分の暇な時間を使って、近所のこどもを見守ろうとする、おじいさんの在り方もまた、まさに「こどもたちのおとなりさん」の一人といえる。

こうやって、地域の居場所を中心に、一人ひとりができる形でこどもたちの側に”そっと”居ることが、自然とその人がありのままで居られる状態につながっているように思えてくる。

この、”そっと”は、おてら食堂の皆さんも同じだ。
話をしたり楽しんだり、どこか来た時よりもスッキリした様子で帰っていくこどもたち。その後ろ姿を見て、「今日もたくさん遊んでたね〜」「おっ!前は靴を履けなかったのに、今は自分でできるんだね。大きくなったね。」「また今度待っているね。」と口々に声をかけながら送り出していく。

お堂から真っ直ぐに続く玄関を走るこどもたちを見守る、けいこさん、ようこさん
またきてね、と声を掛け合う皆さん

仏教では「諸行無常」という言葉がある。この世のものは絶えず変化し続けている。それは、人の成長だったり、落ち込む出来事だったり。私たちは、しばしば、その変化によって感情を揺さぶられて不安定になることがある。しかし、どんな時でも変わらずに側で見てくれている存在があると、安心する気がする。地域のお寺として、おてら食堂の時に広がっている ”そっと”なかかわりは、きっと、こどもたちを含む来ている皆さんの”ほっと"になっていることでしょう。

おてら食堂で地域を見守り続けている皆さん

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おてら食堂
おとなりさん:後藤契子(けいこ)さん、曜子(ようこ)さん、地域のボランティアの皆さん
おとなりさんち:神埼市神埼町神埼529(浄光寺)
毎月1回(第3土曜日) 12:00~14:00
無料
▶︎おてら食堂のFacebook / instagramアカウントはこちら
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https://www.facebook.com/dropmix624
・instagram
https://www.instagram.com/jyo_ko_ji/  

Instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/
こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。
編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)

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