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【おとなりさんちの話】本町食堂@鳥栖市

佐賀県鳥栖市の本町(ほんまち)という地域。こどもと高齢者の人数がほぼ同じ人数。その住民の層は多様で、核家族はもちろん、単身の高齢者なども少なくないという。近くに商業施設はあるものの、ひと息つけるような公園や、ゆっくり会話をしながら買い物ができるような個人のお店は少ない。「ちょっと、困った」という時に、どこに誰が住んでいるのか分からないことや「今日は誰とも話さなかった」という状況は、どこか不安に感じさせることがあります。

約8年前(2016年)は、まだ「こども食堂」という言葉が社会に出始めて間もない頃。自治会の中で、当時飲食店を営んでいたある人が「俺、こども食堂してみたい」と言った一声によって、地域には自治公民館があるし、資金も捻出できるから、やってみようとスタートした。何よりも、この地域には人と人が交わる場所や機会が少ないという感覚が皆さんの思いを後押ししたのだそう。

地域の回覧板で情報を周知しており、当日は公民館の前に大きな看板を立てる

当時、共同代表の久光(ひさみつ)さんはどうやって実施すれば良いのか分からず、迷いながら進めていたという。それでも、こどもも大人も一緒に安心して集まれる場があることの必要性を感じたそう。同時に、高齢の方でも来やすいよう、チラシには「こども」「おとな」の他「シルバー」として参加費を記載したり、入り口では自ら収穫した野菜を低額で販売する工夫もしてみた。コロナの感染拡大に伴い、途中は休止したり、お弁当にして配布をしたりと対応が変わったようだが、今では再開し、この場所を開き続けている。

高齢の方だけでなく、親子が「大きい野菜だね」「買っていこうか」と話をしあっている光景もあった。

この日も、入口では久光さんを中心に参加者を迎え入れていた。すぐ近くの台所スペースでは地域のボランティアの皆さんが料理の準備をしている。毎回、季節に合わせたメニューを考えてくれていて、この日は春だったことから、「ちらし寿司」を用意していた。

入口で参加者の皆さんを迎える代表の久光さんたち。
「たくさん食べていってね」と声をかけるボランティアの皆さん。

11時過ぎには、既に高齢の方が一人で来られていたり、部活帰りのこどもたちが集団で食べに来ていたりした。高齢の方は偶然その場で机を一緒にした方と話を楽しむ様子があったり、こどもたちは、こども同士でなにやら盛り上がっていたり。
ここでも「おとなりさんたち」はやはり、そんな皆さんを遠くからぼんやり眺めながら、微笑んでいた。地域の民生委員をしている濱野(はまの)さんもまた、中に入り込みすぎないことを意識していると言う。「この間はね、折り紙を置いておいたのよ。そしたら、こどもたちが積極的に折り始めて。その場に来ていたおばあさんにプレゼントしたみたいなの。帰りは折り紙を片手にルンルンでおばあさんが帰っていって。そういう光景が素敵だなって思って見ていたのよね。」一緒に喜んだり、感情を分かち合う仲間として、そこに「居る」存在なのだろう。

民生委員(主任児童委員)の濱野さん。入り口の近くで参加者に声をかける。

代表の久光さんもまた、口数こそは多くないがいつも「居る」存在として、そこに立ち続けている。この日はこどもたちが楽しめるようにと、お菓子のつかみ取りができるスペースを工夫して用意してみたという。「お菓子のつかみ取りするぞ〜」とこどもたちが食べ終えたタイミングで声をかける。すると、皆んなが集まってきて「僕はチョコボールを狙っているんだ!」とか「本気でつかもう!」と盛り上がる。

お菓子を嬉しそうな様子でもらうこどもたち。

そんなこどもたちは、どんな気持ちでここにやってきているんだろう。少し声を聞いてみたので、紹介をしてみよう。

自分たちだけで来ていた、2人のきょうだい。「自分たちで来たの?」と聞くと「うん、だって第3土曜日って分かっているからね。」と教えてくれる。友だちも何人か来ているようで、ご飯を食べた後は、流行りのゲームやキャラクターについて大盛り上がりで話をしていた。いつもの給食とは違う味に「わ〜これは苦いや!大人の味!」など感想を言い合いながら食べているのが印象的だ。

この日、積極的にお手伝いをしている若いスタッフがいた。「高校生?」と聞くと「おばあちゃんがボランティアをしていて。声を掛けてもらって、たまに手伝いに来るんです。」と話す。将来の役に立てば、という気持ちもあるようだが、自分なりに手伝ってみることによって「意外に人と話をすることが好きだな。」とか「うまくできるかな、と思うと緊張してしまうな。」と気づきも多いという。「一人だと、寂しいから友だちを今度連れてこようかな!学校が近いんです!」と笑顔で伝えてくれた。

小学校高学年の女子2人。同じ学校で、遊ぶついでに友だち同士で来たのだとか。「ここはタダで来られるからね。」とたわいも無い学校の話に花を咲かせて楽しんでいたようだ。まるで、大人がカフェに行くかのような感覚なのかもしれない。「誰かと来るとね、苦手なものを交換できるし。美味しいものを分け合うこともできるから、良いんだよ!」と教えてくれた。2人だけの空間がそれぞれの絆を強めているのかもしれない。

他にも話をしていると、学校生活で感じているモヤモヤした気持ちや、好きな勉強を教えてくれた。

代表の久光さんは自身が小さい頃、地域の行事に出ていくと、周りで大人が見守ってくれていたような感覚や、ぼんやりとした記憶が残っているそう。だから、そんな風にこの地域で育ったことを大人になってから思い出して「こんな景色があったな」と思い出してくれるように願っているという。

こどもたちを含む参加者の皆さんが帰った後、スタッフである地域の皆さんはご飯を食べながら「あの子はおばあちゃんに顔がよく似てるわよね。」「次はもう高校生かな。」など会話が紡ぎ出されていて、こどもたちのことを気にかけていることが伝わってくる。

地域の人たちの願いはきっと、楽しい記憶として、こどもたちの心に刻まれ続けていくのではないでしょうか。

本町食堂の皆さん、共同代表の久光さん(右上)

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本町食堂
おとなりさん:本町食堂の皆さん、共同代表の久光さん
おとなりさんち:鳥栖市本町2-74 本町会館
毎月1回(第3土曜日)11:00~14:00
こども無料、シニア200円、大人300円

Instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/

編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)


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