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【おとなりさんちの話】灯すラボアフタースクール@有田町

佐賀県の有田町。伝統文化が継がれる焼き物の町であり、県の中でも濃い地域性があるエリアの1つと言えるだろう。街並みは陶器に関連する商いを営む店や工房が連なっており、趣のある空間に包まれている。一方で、こどもたちの暮らしをのぞいてみると、町内には4つの小学校があるものの、そのうち1つの小学校では、帰りに遊んだり寄り道したくなったりするような場所がほとんど無いということを耳にした。手軽にお菓子を買うことさえも、ハードルが高いようだ。

家と家の間には、細い路地が多くある。

そんな町で空き物件の利活用推進や移住・定住支援などの活動をしている、まちづくり団体(NPO法人灯す屋)が「放課後にこどもたちが過ごせる場所をつくりたい」と居場所づくりをスタートした。今回は、そこに集まるこどもたちや地域で見守る大人の眼差しをお届けしたいと思います。

夕方16時頃、放課後の時間になるとスタッフの1人が歩いて5分ほどにある小学校にこどもたちを迎えに行く。ランドセルを背負った元気なこどもたちが、しばらくすると10人ほど集まってきた。

この日は、焼き物のまちである有田ならではの企画。『絵付けをしてみよう』と楽しんで取り組める内容をこどもたちに用意していた。

「今日は絵付け体験をしたいと思います」
「楽しそうー!」「え〜早く宿題やりたい!」など色々な声が飛び交う。

目の前に用意された絵の具と器。こどもたちが描きやすいように「好きな食べ物をイメージしてみよう」とテーマを伝え、各々がそこから柄を着想していく。

早速、丁寧に鉛筆で下書きをしていく女の子。
「こういう感じにしようかなって思ってるの。」なんの食べ物から着想したのだろう。
早く宿題をやりたい男の子。
「すぐに書いちゃおう!」と筆を握り、自分の思いついた柄を描いていく。

うんと悩んで下書きに時間をかけていくこどももいれば、さっと筆を走らせるこどももいる。興味関心はそれぞれだから。「どうしたらいいですか?」「これどう思う?」そういうこどもたちの質問に答えていくけれど、本人のペースに合わせて見守っているのが大人の皆さん。

すぐご近所に住んでいる絵付け師の松尾さん。アフタースクールとして開放をされている時には、いつも顔を出してこどもたちの様子を見守っている。今回はご自身もさっそく絵付け。
「え〜松尾さん!うまっ!すごい!」とこどもたちも思わず声をあげる。

決して、こちらから教えることはしないで、ただ側にいて一緒に楽しんでいる。それでも、やっぱり自分だけの力ではどうしようもない時に、背中をそっと押す大人もいる。まるで、保健室の先生のように優しく声かけをしていくのが、スタッフのシンタさんだ。やりたいけれど、やれないかもしれない。そういう曖昧な気持ちの時に「どうしようかな」と言えて、「どうしようね」と一緒に考えてくれる存在は大きな味方だ。

「例えば、こういうのはどうかな?」と紙に描いてこどもたちの気持ちや言葉に寄り添っていく。

シンタさんは、こどもの頃に皆んなの輪の中に入れなかった経験があったそう。だから、こどもたちの声に気づけたり、本人たちにとって頼れる存在になりたい。こども達の気持ちが分かるからこそ、一緒に喜んだり悩んだりしたい。「一人ひとりの”面白い”は違うから。でも、人の目を気にして、ついつい誰かと同じようなものを”面白い”と言ってしまう時があるかもしれない。だから、まずはこどもたちの素直な思いを聞いてみたいと思ってます。」

彼が話すように、こどもたちは本当にそれぞれ違うのだ。
大人がいない場所でコソコソと隠れたり話をしたいこどももいる。

早く絵付けを終えて、宿題にかかるこどもたち。「宿題するの?」「だって、家でやるの面倒だもん。」気がつけば、学年を超えて定番のおふざけタイム。
「小学校の高学年になると、難しい漢字が多いね。」「そうでもないよ」と格好をつけてノートを見せてくれる。
プログラミングアプリで作った自分のゲームを1人で楽しんでいるこどもも。ボールを動かして点数の書かれたカゴに入れるらしい。
「すごいね」と話していると、次第に他のこどもたちも集まってきた。「見せて見せて!すごいね!」

あと30分くらいで帰る時間になるかな、という頃、小学校の校長先生がやってきた。ここに集まっているこども達の様子が見たくて、顔を出したという。「やっぱり、学校にいる時のこども達の表情と違うんですよ。伸び伸びしていて、本来の姿はこっちなのかもしれないな、と思うんです。」と話す。集団行動が求められる学校の中では、一人ひとりを見ることは難しい。

こども達と一緒に絵付けをする校長先生

ここで楽しめるように、いくら大人が用意しても、それをどう活用するのかはこども次第。やってもいいし、やらなくてもいいのかもしれない。「帰るころには、それぞれが本当に自分の自由なことをして過ごしていて。そのごちゃ混ぜした感じが正解なのかな。」と話すシンタさん。

佐賀大学に通いながら、地元の有田で何かしたいとこの場に集う京子さん。
最初はこどもへの苦手意識があったようだが、かかわるうちに、こどもを見守る時間が好きになっていったそう。

続けて、こどもたちに向けた思いをこのように伝える。「面白い、やってみたい、と思っても、できないと諦めてしまうこともある。でも、来ている友達と一緒ならできるかもしれない。時には衝突もあるけれど、一緒につくる楽しさを味わってもらいたいです。自分一人じゃないってことを感じてほしいですね。」

平日の夕暮れ、まるで年末年始のような雰囲気の中、地域の大人が安心して見守っている。「大人は何もしてないけれど、これがいいのかな」とワハハと笑う皆さんの様子が印象的だ。

”こども達”の居場所なのだから、それで良いのではないだろうか。日々のルールとルールの隙間に、ゆるっとできる瞬間こそが”自由”なのだろうし、そう感じられるのは、きっと、その子にとって安心できる誰かが側にいる証拠だ。

左から松尾さん、シンタさん、京子さん

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灯すラボアフタースクール
おとなりさん:松尾さん、シンタさん、京子さん
おとなりさんち:有田町白川1丁目3−16(灯すラボ)
毎週木曜日 放課後
▶︎灯すラボのアカウントはこちら
 https://www.instagram.com/tomosu_ya/

Instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/

こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。

編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)

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