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【短編】勇者

「…ゴフッ!仮初めの平和を味わうが良い」
魔王はそう言って死んだ。

最後に放った呪いはおそらく石化魔法、なに、最大の敵を葬る事に成功したのだ、構いはしない。
何しろ私の身体ももう限界を超えていた。

足先よりチリチリと石化が進む中、私は故郷の両親や勇者になってからの仲間たちの事を考えた。

そして再び魔王が復活した時には、勇気を持って総てを人々に捧げ、魔に打ち勝てる者が現れる事を強く願った。

平和な100年が続き勇者は伝説となった。

やがて魔族が辺境よりはびこり、人々を襲う様になった。

人々は勇者の再来を信じて祈った。


【新魔王城】
「新魔王さま!炭鉱を制圧成功しました!」
新魔王と呼ばれた魔族の男は振り返る事なく答えた。
「…魔王でよい。ところで勇者伝説は伝えているか?」威風堂々、強者の眼光が手下の魔族を照らす。

「…?どうして敵の情報を人間どもに?」その覇気におののきながらも手下は聞き返した。

「父の最期の石化魔法は只の石化では無い。勇者が忘れられた時のみ解除させるものだ。」

人間どもは勇者伝説に頼り自分が勇者になろうとはしない。他人為に自身の総てを捨て命をかける事が出来るなんてそうは居ない。
この方法は最悪の場合勇者が2人になる事だが、流石は我が父だ。人間の愚かさを見抜いたようだ。
「勇者伝説を更に広めろ!そうすれば我々魔族の栄光は約束されるのだ!」


小さな隠れ教会で少女が小さな手を合わせる。
「…勇者さま、私たちをお助け下さい」

勇者の像は血の涙を流す。
伝説は更に真実味をおびて伝わるだろう。




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