見出し画像

汚れた空気、認知症。


空気の汚れは、認知症の原因の一つ

認知症のリスクが上がる原因の一つに、「大気汚染」があることをご存知でしょうか?
大気汚染が体に及ぼす悪影響というと、喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギーの病気のイメージが強いのではないでしょうか。
運動不足や孤独、アルコールの過剰摂取というのは、認知症の原因として知られていますが、大気汚染は一般的にはあまり知られていません。
しかし、WHOがたしかに認知症のリスクファクターの一つに大気汚染を挙げています。根拠となる研究を見ていきましょう。

排気ガスのリスクは?
大気汚染エリアに住んでいると?

「鉄道労働者や電気技師では、記憶障害が起こる」1)、
「住宅から主要道路までの距離が近いほどに、言語学習や記憶などの認知機能が悪くなったりする」2)
こんなことを報告している研究があります。こうした研究は、ディーゼル車の排気や自動車の排気ガスなどの大気汚染が、記憶や認知機能に悪影響を及ぼす可能性のあることを示す実例です。
また、深刻な大気汚染がある都市部に住む人の脳には、あまり大気汚染がない地域の人に比べて、認知症でたまる物質(アミロイドβ)が多かったことも確認されています3)。

「PM2.5」と認知症の関係

「PM2.5」という用語が一般的になって久しいですね。PM2.5は直径が2.5マイクロメートル以下の微粒子で、いまや大気汚染の代名詞かのごとく使われることもある用語です。
そんな「PM2.5」に曝露されると、言語学習が低下されたり、脳容積の減少したり、脳梗塞の確率が上昇したり、という可能性を指摘している研究があります4,5)。
また、PM2.5以外にも、「オゾン(O3)」が、認知機能の低下と関連しているという報告もあります6)。具体的に大気汚染物質が認知症のリスク増加に関連していることが複数の研究で明らかにされています。

大気汚染の物質が脳に届く仕組み

様々な研究から、大気汚染が認知症のリスクを高める可能性があると考えられています。しかし、いったいどういう仕組みなのでしょうか?

大気汚染の物質は主に「呼吸器系」から体内に入ります。
汚染物質は、空気中に微小粒子やガスとして存在しています。こうした汚染物質がある場所の空気を吸うことで鼻や口から汚染物質が体内に入り、気道や肺にある「肺胞」の壁を通過、そして血液中に吸収された後に、全身に運ばれていきます。
全身に運ばれた大気汚染物質は体の組織や全身の臓器に到達します。脳についても、「血液脳関門」と呼ばれる脳を守るバリアを難なく通過してしまい、大気汚染物質が脳に到達するといわれます。
なお、呼吸器→血液→全身というルートのほかに、鼻の中に存在する「嗅細胞」という細胞から、大気汚染物質が直接脳に到達する可能性があるという考え方もあります。


脳に届いた大気汚染物質が起こす悪影響

大気汚染物質が脳に到達すると、「ミクログリア」という免疫細胞や「アストロサイト」という細胞の動きが必要以上に活発になってしまいます。
こうした細胞の活性化により、脳神経の中で炎症が起こってしまい、神経の細胞が傷ついてしまうのです。そして、こうした結果として、認知機能が低下すると考えられています。

大気汚染による認知症をどのように考えるか

今回は、大気汚染と認知症の関係について解説しました。人間が引き起こした空気や地球の汚染、それにより人間の体調にも悪影響が出ています。これはなんというか、大きくいうと「ヒトという生物の自業自得」とか「発展し続ける現代社会の副産物」などともいえるのかもしれません。
しかし、個人のレベルで考えると、影響を受ける人にとってはたまったものではありません。本テーマの認知症とは別の話ですが、人間以外の生き物からしても大気汚染は大きな脅威です。「地球温暖化」や「SDGs」という世界的なキーワードとともに「大気汚染」についても考えていきたいですね。
 
1)K H Kilburn. Arch Environ Health. 2000 ;55(1):11-7.
2)GA Wellenius GA et al. J Am Geriatr Soc. 2012 Nov;60(11):2075-80
3)Calderón-Garcidueñas L et al. Toxicol Pathol. 2004 ;32(6):650-8.
4)Gatto NM et al. Neurotoxicology. 2014 :40:1-7.
5)Wilker EH et al. Stroke. 2015 ;46(5):1161-6.
6)Jung CR et al. J Alzheimers Dis. 2015;44(2):573-84.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?