見出し画像

絵本探究ゼミ第3期 第2回講座振り返り

1.第2回講義について

 第2回ゼミは「コールデコット賞受賞作品を1冊持ち寄る」でした。チームでその絵本を紹介し、選書理由をそれぞれが言語化しました。その後、講義の中で、ミッキー先生がそれぞれの作品についての講評や時代背景を説明や、関連書籍についてのご紹介をしてくださいました。時代ごとにトレンドがあり、例えば1963年受賞した『ゆきのひ』(エズラ・ジャック・キーツ作 きじまはじめ訳 偕成社)は黒人の子が主人公で、ポリティカルコレクトネスを意識している作品です。雪の白、コートの赤、顔の黒、それぞれのコントラストが効果的に描かれています。作者から作品を見る(思想、信念など)というある意味直線的な視点は持ち合わせていたつもりでしたが、時代背景を元に時代ごとに作品を横断的に見るという考えがなかったため、目から鱗でした。とにかく情報量が多くて書き留めるのに必死でしたし、知らない作品が多くあったのが発見でした。

2.私が選んだコールデコット受賞作品

私が選んだのは次の作品です。

(1)本の紹介

『ロバのシルベスターとまほうの小石』
ウィリアム・スタイグ作 瀬田貞二訳
評論社 1975年
Sylvester and the Magic Pebble
William Steig
published by Windmill Books 1969年
コールデコット受賞 1970年

 ロバのシルベスターの楽しみは、変わった形や色の小石を集めること。ある日、シルベスターは望みが叶う魔法の小石を見つけます。ところが、帰宅途中に恐ろしいライオンに出会ってしまい、慌てふためいて「ぼくは岩になりたい」と言って、岩になってしまいました。元の姿に戻るためには、魔法の小石を触っていないといけないですが、岩ではそれができません。家に戻らないシルベスターを心配した両親は方々を探し回りますが見つかりません。そうして季節は巡り、シルベスターは眠って過ごすようになりました。ある日、お母さんを元気づけるため、お父さんはピクニックに誘います。ちょうどいい岩を見つけて腰をかけるのですが、ここで奇跡と愛の力でシルベスターは元の姿に戻ることができました。

(2)選んだ理由

 前回の講義後からコルデコット賞受賞作を借りて、毎晩の子どもへの読み聞かせの中で読んでいます。本作品の巻末に、コールデコット賞受賞スピーチが載っているのですが、「芸術を通して子どもに手渡すものに大きな意味がある・・・(中略)芸術はまた、冒険心や遊び心を刺激して、私たちが生き生きと人生を送るのを支え、有用な発見をもさせてくれるのです。」という言葉にとても感銘を受けました。私自身の、今の職である司書を選んだとき、これからの時間を子どもと本を繋ぐことに費やしたい、後世に残るものを手渡していきたい、という想いと通じていて、とても嬉しくなり、今回こちらの作品を選びました。また、シルベスターが変わった小石を集めているということ、子どもによくある収集欲、大人にとっては何ということのないものが宝物だったりすることに共感しました。腹を空かせたライオンに出会っとき、咄嗟に岩になりたいと願ってしまったこと、岩になったまま季節は巡るが、探し続ける両親の家族愛が奇跡をもたらし元に姿に戻れたことは、「ゆきて帰し」のファンタジーに通ずるお話だと思い、そこにもまた惹かれました。

(3)時代背景

 受賞理由や時代背景を知るために、国立国会図書館(NDL Search)で調べてみたところ、国際子ども図書館にこちらの書籍があることが分かりました。

A Caldecott celebration : six artists and their paths to the Caldecott medal / Leonard S. Marcus  / Walker & Co., c1998

Reading the art in Caldecott Award books : a guide to the illustrations / Heidi K. Hammond, Gail D. Nordstrom Rowman & Littlefield [2014]

遠隔複写サービスを依頼しました。しかしながら、著作権の関係で全てのページの複写はもらえないため、内容を全て読むことはできませんでした。とはいえ、一部でも読むことができましたし、しかもDeepLで瞬時に翻訳できたのがもう驚きと感動で手が震えました。

 そして、good Luckチームの、messengerのグループスレッドで、ぱたぽんさんがこちらの論文の情報くださったことにより、時代背景を知ることができました。
(ぱたぽんさん、ありがとうございました!!)

1960年代〜1970年代は、コルデコット賞創設後20年経過し、初期のアメリカ絵本の黄金期を経て、絵本が高い水準で安定する時代である。この背景には、第二次世界大戦中、および戦後にヨーロッパ出身の画家がアメリカに渡ってきたこと、彼らに刺激されたアメリカ従来の画家たちそれぞれが多くの優れた作品を世に送り出したからである。優れた多くの出版に支えられて支えられた反面、ある意味で保守化が問題点される動きが起こる。具体的には、定番な作家、一定のパターンの作品が受賞しやすい、という保守的な面が強くなってきた。本賞を受賞した後に、次点を続けて何度も受ける画家もいた。

Library and Information Science No.42 1999
『コルデコット賞の変遷とその背景: アメリカの児童図書館員による賞』
汐崎順子 
http://lis.mslis.jp/pdf/LIS042001.pdf

 次に、地元の公共図書館でレファレンスサービスをお願いしました。受賞理由が直接分かるような資料は見つからなかったのですが、子どもの本歴史や賞をとった本についての資料を紹介していただきました。直接の回答が叶わずとも代替案の提示が素晴らしく、きめ細かく幅広いサービスは同じ司書として頭が下がりました。(ただただ感謝!)

 公民権運動が盛んになり、図書館においても、アフリカ系アメリカ人の地位向上が進められた。1961年オーガスタ・ベイカーがアフリカ系アメリカ人として初めてニューヨーク市内の公共図書館で全児童書部門を統括することになった。前例として、シャールイメイ・ロリンズは1957年から1958年にかけてニューベリー・コールデコット委員会の委員長を勤めている。彼らのようにアメリカ社会での人権平等を目的とした本を擁護し続けた努力が実り、エズラ・ジャック・キーツ『ゆきのひ』が1963年のコルデコット賞を受賞する。この時代は、『アメリカ児童文学の歴史』の中で動揺と混乱の時代と語られている。人種差別、米ソ冷戦、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺、ベトナム戦争公民権運動だけでなく、女性解放運動、アメリカ先住民運動など、多方面に波及し、アメリカ全土で社会運動が活発化された。

ソ連の共産主義を恐れる中、ジョン・F・ケネディが大統領就任した。メディアをよく知るケネディ家は、本と文化を重んじる家庭を見せつけ、このことは児童書をあまり置かない書店や世代交代の出版業界に大きく影響を与えることになった。1960年代中ごろには、児童書業界全体が急成長し、ケネディ大統領暗殺後のジョンソン政権においては、国庫補助による特需として、学校図書館にこれまでにない規模での図書購入予算がついた。ほとんどの出版社が事業計画の拡大に乗り出した。

『アメリカ児童文学の歴史』
レナード・S・マーカス
前沢明枝 監訳
大塚典子・児玉敦子 訳
原書房 p343-393より一部抜粋

 この時代は、人種差別、米ソ冷戦、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺、ベトナム戦争など社会運動が活発であったこと、絵本の黄金期を経てハイレベルの絵本がこの世に送り出されるとともに出版業界全体が急成長したことから、『アメリカ児童文学の歴史』の中で動揺と混乱の時代だったことが分かりました。

(4)ウィリアム・スタイグについて

 次に、ウィリアム・スタイグがどんな人か、どのような人生を歩んできたのか興味が湧いたので調べてみました。

ウィリアム・スタイグは、1930年代から特に『ニューヨーカー』誌の漫画などで、ユーモラスな絵を描く画家として知られていた。彼の荒唐無稽な絵と心頭る文章は、補い合って一つの世界を作っている。

『子どもの本の歴史』
ピーター・ハント編
さくまゆみこ・福本友美子・こだまともこ訳
柏書房 p354より一部抜粋

彼が児童文学の分野の仕事を始めたのは六十歳を過ぎてからであった。(P177)

(世界大恐慌時)父親が破産し、(中略)二三歳の彼が家族を支えなければならなかったからである。まもなく彼は漫画家が掲載されることを願う『ニューヨーカー』に風刺漫画を描くようになった。(p179)

アメリカ絵本作家William Steig研究ー生涯とその描画法を探る
藤本朝巳
https://ferris.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_view_main_item_detail&item_id=2323&item_no=1&page_id=13&block_id=21

 経済的事情により風刺漫画家となったが、彼の中では芸術を目指したかった気持ちがあったことが分かりました。

彼の生涯と作品を知ることに重要なことは以下の二点であると思われる。一点は彼が生涯、ある病を抱えて、闘病していたこと。精神科医ヴィルヘルム・ライヒに出会い、(中略)創造芸術の道を歩んだことである。もう一点は、(中略)弟思いの兄から<笑顔>と<しかめ面>などの描き方を教わり、感情表現を巧みに描けるようになったことである。(p178)

漫画は表情を伝えるためにさまざまな手法を用いるが、中でも目が最も表情を伝える有効なコードといえよう。(p184)

アメリカ絵本作家William Steig研究ー生涯とその描画法を探る
藤本朝巳
https://ferris.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_view_main_item_detail&item_id=2323&item_no=1&page_id=13&block_id=21

論文に書かれていたそれぞれの場面<シルベスターが魔法の小石を見つける><ライオンに出会う><心配した両親が捜索する><父親が悲しみにくれる><魔法が解けて元の姿に戻る>を注視したところ、目の位置や描き方がそれぞれ異なっていて、それが喜怒哀楽の感情を見事に表していることがよく分かりました。

(5)考察

 シルベスターを長い時間かけて探していた両親、岩に腰かけた母さんのあたたかさは子への想いの象徴であり、それはシルベスターを長い眠りから覚まし、奇跡が怒って元の姿に戻る。ウィリアム・スタイグが送りたかったものなのかは定かではないですが、どんな逆境に陥っても必ず答えは見つかるというメッセージを感じました。そして、それは彼の生きてきた環境と、それによって習得したであろう描写法によって巧みに表現されています。出版された混沌とした時代だけでなく、その時々の社会状況や読者の心理状況や経験によって、さまざまな受け取り方ができる作品であると私は考えました。ミッキー先生は講義の中で、コルデコット賞の選考は「子どもの視点」と「チャレンジに対する評価」が基準としてあ離、特に、後者については、時代の流れに敏感に反応し、新たなチャレンジを試みる作家が絵本の可能性を広げていくのだ、とおっしゃいました。ウィリアム・スタイグは、混沌とした時代の中で、名を馳せた風刺漫画家を辞めて、子どもの本の作家に転身し、それまでの技法に磨きをかけていったことがコールデコット賞受賞に繋がったのではないかと推測します。

3.第2回講義を終えて

 興味関心が学ぶ原動力になることを実感した2週間でした。選んだ作品から作家への興味に繋がったこと、時代背景から子どもの本の歴史を(ほんの少しではありますが)学ぶ意欲が湧いたこと、比較するために他の時代・他の作家のコールデコット賞作品も読み比べてみたこと、等ひたすら本を読み耽る日々でした。一方で、リフレクションを纏める時間を確保することを忘れてしまい、第3回講義の直前での提出となったことは大いなるミスであったと反省しています。そのため、調べたことを貼り付けだけの部分が多く。考察が荒削りで無理矢理感が強いことは否めないです。次回以降の改善に繋げたいと思います。

 そして、「学ぶことが楽しい!!」という感覚を久しぶりに体感しています。それが日々のエネルギーとなっていて、司書として子ども達に学んだことをどう伝えていくか試行錯誤しています。とりあえず、書架で眠っているコールデコット作品、特に講義で新たに知った本を読み聞かせしたり、本の紹介を始めています。自分の引き出しを増やし、前回講義よりも1ミリでも成長することを目標に精進します。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?