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“キャズム”超えに向け取り組んだセールスマーケ施策 ~ファンマーケティングを据えた7STEP~

こんにちは!
「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに、医療プラットフォームを提供しているUbie株式会社Mossan(かわもと)です。
この記事は「#BtoB事業開発アドカレ」、BtoB事業開発アドベントカレンダー2の最終日の記事です。
僭越ながら、本日クリスマスを担当させてもらいます!

①自己紹介

まずは簡単に自己紹介。Ubieは “テクノロジーで人々を適切な医療に案内する”をミッションに、医師の阿部と元エンジニアの久保の2名によって創業された会社です。いくつか事業展開をしていますが、私は約3年半前に入社して以降、「ユビーメディカルナビ」というvertical Saasを医療機関(病院、クリニック)に提供してきています。入社後、立ち上げで取り組んだ内容は下記に記載しておりますので、ご興味ある方は参照頂けると幸いです!

②多くのサービスは"キャズム"という壁に当たる

さて、今回の #BtoB事業開発アドカレ では『“キャズム”超えに向け取り組んだセールスマーケ施策』をテーマにしています。
BtoBに限らないですがプロダクトをリリースして、イノベーター層を中心にマーケットの中で支持共感により拡大はしていくものの、初期層以降の顧客(アーリーマジョリティ以降)へはなかなか広げていくことができない、、いわゆるキャズム(深い溝)の壁はよく聞きます。
ご多分に漏れず、弊社も同様事象に陥っていたのですが、自身や組織がどのように検知して、いかに取り組んできたのかを振り返りながら記載していきたいと思います!

そもそもイノベーター理論とは?
イノベーター理論とは新たなサービスなどの市場における普及率を示すマーケティング理論です。1962年にスタンフォード大学の社会学者 エベレット・M・ロジャース教授によって提唱されました。
イノベーター理論では新たな製品の普及の過程を、これらを採用するタイミングが早い消費者から順番に以下5つのタイプに分類しており、これに基づきマーケティング戦略や市場のライフサイクルなどに関する検討を行うことが望ましいと考えられています。
・イノベーター(革新者)
・アーリーアダプター(初期採用者)
・アーリーマジョリティ(前期追随者)
・レイトマジョリティ(後期追随者)
・ラガード(遅滞者)

出典:よむ MPTV!

③なんとなく感じた違和感

2022年9月末、ふとした違和感を感じました。
週次でセールスが商談した案件のログを見ていたのですが、なんとなく進みが悪そうに見えるものが多い。商談直後に失注している訳ではなく、ただフェーズが変わらないまま滞留している。ネクストも比較的少し緩い。ただ設定はされているので、少し様子を見ようと判断しました。
そこから一定期間たっても商談の状況は変わってなく、ネクストの日付だけが後ろ倒しになっている。もちろん顧客状況や都合によるもので、それをいかに進めていくかが営業の醍醐味なのですが、上記のような商談の割合が過去比較で多く、違和感を感じました。メンバーに聞いてみると

・(顧客の組織慣習として)だいぶ慎重に進める必要がある
・顧客内部で検討する事を検討する会議体がある
・進めるかどうかは活用している顧客の意見を聞いて決める

顧客リアクションが変わってきたらステージが変化した、という事だ。その変化を軽視してはいけないよ」という一言をふいに思いだしました。

事実整理
上記事象を検知し、1ケ月たってからSFAのデータを整理する中で、下記のことが事実として浮かび上がってきました。

・決裁者商談の割合が30%以上低下している
・担当者→決裁者接続のCVRも低下している
・初回商談から次フェーズへのLTが長くなってきている
・各フェーズでのLTも長くなってきている
・ネクスト滞留が多くなっている、ただし失注はしていない

リードチャネルが大きく変化している訳ではなく、セールスも人員変動はなし。即座の失注にはなってないので失注理由に表出はされていないですが、お会いしている顧客特性が変わってきている可能性を強く感じました。

④キャズム超えに向け取り組んだセールスマーケ施策7STEP

ここからは具体的に取り組んできた事とその結果を記載します。大前提、イノベーター理論に基づいたキャズムの超え方という手法論に絶対解はなく、マーケットやサービス、競合状況や顧客特性など様々な変数によって変わる部分が大きい最適解だと考えています。またキャズムを超えていくにあたってはセールスマーケだけではなく、プロダクトの機能追加やプライシングなど他にもアプローチできる変数は多くありますが、今回のnoteでは基本セールスマーケに絞って記載していきます。

取り組んだ事①デプスインタビューの実施

顧客のことは顧客に確認するが一番確か、という事でまずは商談した直後や直近で発注頂いたアーリーマジョリティらしい複数顧客へデプスインタビューをさせて頂きました。1.5時間ほどミッチリとインタビューさせて頂き

・そもそも〇〇さんや部署の今期のミッションは何ですか?
・目標設定や効果測定、評価はどのように実施するのですか?
・サービス検討に向けた課題発生タイミングやきっかけ、経緯は?
・組織の中で上記課題の優先順位をどのように定めましたか?
・うちのサービスをどこでどのように把握してくれましたか?
・話を聞いてみようと思った理由はありますか?前向きでしたか?

といったいわゆる課題認識~認知~情報収集ファネルの話から

・検討しようとなってから組織内での動きを時系列で教えてください
・組織内で他に優先順位が大きかったアジェンダはありましたか?その後どうなりました?
・途中、競合サービスって比較検討しましたか?また他での解決策は考えましたか?
・最終的には何故、発注頂けたのか?
・最後、意思決定する際に承認者、もしくは会議体ではどんなコメントが出ましたか?

といった比較検討〜発注ファネルまでに顧客内部でどんな動きがどんな判断軸で行われていたかをつぶさに聞かせて頂きました。

この取組は初手、本当にやって良かったなと感じています。何故かというと営業が見聞きした事やSFAに残っているログは断片的でしかない事を痛感させられたからです。実際に顧客内外で発生していた事実をモレやズレなく理解することで「あの時、そんな事がどこどこで起きていたんですね!なるほど~!」と強く思わされることが多々ありました。
いくつかの顧客に聞く中で特徴的だったのは

・元々ユビーのサービスは聞いたことがあった
・(顧客によっては)どの病院が活用しているか、評判も聞いた事があった
・(顧客によっては)他病院の評価が気になり、問い合わせまでしていた
・そこで聞いたポジネガ情報は信頼性のある「事実」として捉えていた
・営業の話は信頼しつつも、全部を真に受け取ってはいなかった
・周囲の先行者のポジ評判を聞いてやっと検討を始めるきっかけになった

という話を聞いて、顧客がアーリーマジョリティに突入したかもしれないという仮説は確信に変わりました

取り組んだ事②カスタマージャーニーとペルソナの再整理

デプスインタビューで聞いた情報からカスタマージャーニーとペルソナを整理しました。過去にカスタマージャーニーやペルソナは整理していましたが、イノベーターやアーリーアダプターを対象にしていたので、新しいものが好きな方向けのタッチポイントやアプローチになっていた為です。

添付のような形で
横軸
課題認識前、課題認識~認知、情報収集、比較検討~発注までのファネル
●縦軸
顧客状況、担当者の気持ち、気になっているコンテンツ、顧客の行動、企業の目的、タッチポイント、コンテンツ例、アプローチ例

で整理しました。

この整理の中で、
・アーリーマジョリティ以降の担当者はどんな環境下に置かれているか?
・興味を持った場合、どんな事を考え、どんな行動をするか?
・組織にはどういう習性があり、何が効果的か?逆に嫌がる行為は?
・どのようなタッチポイントを活かしてアプローチすべきか?

といった事項がおぼろげながら、見えてきました。

またこれまでは決裁者を中心にした営業活動でしたが、担当者から上げていくプロセスが主流になると考え、担当者(職種含む)別でのペルソナも整理しました。担当者別での興味関心はもちろん、情報収集チャネルやタッチポイントを整理することで、どんなアプローチが有効そうかの整理に大いに役立ち、マーケチャネルやリードチャネルにとても活きました。

取り組んだ事③自社アセットの整理とファン顧客の定義

アーリーマジョリティ以降の顧客は基本的に慎重、ただし周囲の声には強い信頼性を寄せる点は一般的には有名ですが、こと医療機関には非常に強く当てはまることをカスタマージャーニーとペルソナの整理で感じていました。
実際に弊社サービスを周辺の病院が使っていて、「ユビー良いよ!」という評判から問い合わせがくる事はもちろん、最後の意思決定時にも「周辺の〇〇病院が活用して△△の効果が出ている。〇〇病院の話は信頼できる」といった形で弊社に意思決定してくれることも過去にチラホラ出ていました。
このあたりからキャズムを超えていくにあたって「ファンマーケティング」を中心に据えていくのが筋良い可能性を感じていました。

病院は様々な学会や職種別の勉強会といった場で取り組んだ内容を他の病院や他職種に共有する文化が業界として強くあります。これ以外にもいくつかの観点で顧客のプロモートが強い力になる点を感じ、顧客の声を波及効果として活かさない手はないと考えた点が強かった為です。
そこに向けて今一度、自社が持てているアセットとは何か?を整理する必要性を感じました。これはアセット価値があるのでは?というものを片っ端からピックして活かせそうな活用シーンの整理に向けていきました。
また社内では「ファン」という言葉は一般的な言葉としては普及していましたが、認識統一できておらず解釈が揺れていました。
・ファンとはどういう定義か?
・ファンを構成する要素は何か?
・ファンが起こす行動は何か?

といった点を整理する中で緩やかにファンの考え方と基準を明示していきました。

上記を基に(あくまで暫定ですが)顧客を分類していき可視化及び一覧化。
いくつかのセグメントで編集する中で、波及効果を出しやすい観点で注力すべきエリア、法人活用すべきアセットや顧客コミュニティを整理していきました。

取り組んだ事④SFAのフェーズ定義とTodo変更

誰に対して(ペルソナ)、何を(訴求内容)、どのように届けていくか(カスタマージャーニー及びアプローチ)と活用すべきアセットやその場が整理できつつあったので、次に商談管理の具体化に向けていきました。具体的には商談フェーズの定義や目的、todoにメスを入れようと考えました。

当時、決裁者を中心に狙っていたこともあり決裁者から同意を得られたかどうかを注力KPIに置いていました。しかしアーリーマジョリティ以降だと
・決裁者にあげる場合は稟議承認の最終フェーズになるケースが多そう
・担当者自身に意思はあっても組織内の優先順位は高くなくて滞留しそう

総じて、設定していた商談フェーズ管理が実態に合わなくなると考え結論、下記のような形へ変更しました。

SFAのデータ(定量)と顧客の声(訂正)を分析した結果、サマると

・前提として初期層の顧客は決裁者や推進者といった意思を持って変革に向ける人を押さえることが最重要だった
・推進する「ヒト」にフォーカスし、課題とサービスに合意頂いてから、稟議承認に向けて顧客内の購買ステップをその人と一緒に登っていくのが早かった為
・一方でアーリーマジョリティ以降は優先順位が非常に高い事項以外では組織として慎重に捉えて、慎重に進めていく
・また担当者のミッションや部署、進めていく時期や拠出予定の予算スコープ等によって登り方が様々発生する
・その為、「ヒト」にフォーカスした商談フェーズ管理は実態に合わない。担当者が変わることも多くあり、フェーズが後退する事も多い
・顧客内でその時に推進しやすいスコープを踏まえた「購買プロセス」でのフェーズ管理が実態に沿っており、メトリクスとして適切と判断した

影響力のある決裁者を味方につけて進めていく初期層の顧客と違って、慎重な担当者と協業していくスタイルへの変化が必要でした。詳細は割愛ですが商談フェーズが進んだかどうかのKPIは
・顧客内において、その時々での稟議情報が取得できているか?
・担当者が起案するタイミングやその理由を合意できているか?
・実際に起案がなされたかどうか?

に変動、案件レビューも顧客の稟議情報をメインで進める形にしました。

取り組んだ事⑤リードスコアリングの修正

商談管理の定義や内容変更に伴い、リード獲得もフォームチェンジに向けました。当時は先進的な取組を好む決裁者や推進者とのアポが多かったので最低限、価値提供し辛い顧客を除いては情報提供でも幅広くアポをとっていましたが、顧客にとって最適な形ではなくなっていました。

基本的にはBANT情報を踏まえた内容をスコアリング化し、設計しました。

・予算
予算拠出想定はどの予算スコープになりそうか?
・決裁権
決済権限はどなた、もしくはどんな会議体になりえそうか?
・ニーズ
顧客状況にチェックフラグを設けて、課題解消できる度合いを目測へ
・導入時期
課題の喫緊度や時期特性踏まえた場合の稼働希望時期はあるか?

最初、「商談前にこんな失礼なことばかり聞いたら怒られるんじゃないかな・・・」と思っていましたが、意外に多くの回答を頂ける事がわかりました。過去に商談したことがある顧客はもちろんですが、
・担当者自身もどう進めて良いか不確かだから、他病院での進め方などを是非教えてほしい
・検討している段階だけど、周辺のどの病院で活用しているかの情報はありがたい

といった声も少なくなくありませんでした。
リードスコアリングは基本的には自社視点での優先順位で活用するものだと思いますが、その内容が顧客に有難がられたり、参考情報として喜んで頂ける点は意外な発見でした。

取り組んだ事⑥UGCの収集/活用と見学顧客の一覧化

自社内のアセットを整理する中でUGC(User Generated Content=ユーザー生成コンテンツ)には強く注目していました
こちらもデプスインタビューで聞いていた通り、営業の話は話半分に聞いている、既に周辺で活用している顧客がいれば使用感や評価が気になるという話だったので、Ubieが手を加えたものではなく、顧客の生の声を検討顧客に届けていく仕組みが重要だと感じていた為です。
そこで顧客が実際にユビーメディカルナビを導入してどんな効果が出たか?を自分達で振り返っている資料を、(当たり前ですが)顧客に許諾を得た上で集積し、商談でお届けするようにしました。商談の中で、「実際に活用している〇〇病院さんがまとめた資料がこちらです」とお見せすると全員が食い入るように見ており、その点への質問が殺到しました。
実際のユースケースなどの話も多くなり、セールスが活用状況やユースケースに詳しくなる副次的効果も大きかったです。

上記資料は導入医療機関様に許諾をいただき掲載しています

また病院見学も大いに効果を出してくれました。
こちらも医療機関の特性なのですが、病院へ視察や見学に行くという慣習があります。見学を受ける病院は他病院とのリレーション向上に繋がる(プロモーション効果)、見学する病院は購買前に生の顧客の声はもちろん運用方法や使用感、エンドユーザーである患者の意見も見れる、というwinwinな関係が構築できる為、弊社側で見学受け入れしてくれる病院を募り、リスト化。Googleのマップ機能を用いて、周辺だとどの病院が見学相談ができるかを可視化する事で強いアセットにしていきました。
実際に見学に行って頂いた後、担当者から『見学した上長がとても良いサービスだと興奮していたよ。資料で見ていたよりも効果が高く見込めるし、現場からも喜ばれる印象が強かったから予定より早く進めよう、と言ってました』といった具合に前に進むケースが非常に多くなりました。
改めて顧客の生の声が非常に重要なことをとみに感じさせられました。

取り組んだ事⑦ユーザー会の企画催行

ファンマーケティングに取り組むにあたって、いくつかの編集軸で顧客分類をしていましたが、エリアでの区分は最重要視していました。

私の好きな言葉、元fondの福山太郎さんのセリフなのですが

戦略を練るフェーズにおいては、僕は市場はできるだけ小さく、
明確にすることをゴールに設定したほうがいいと思っています。
大切なのは、ゴールとなる市場で自社が圧倒的なリーダーである状況を、どれだけ作れるかです。

があります。市場をどう切り取るか?というのは本当に大事です。
日本全国のシェアでは仮に10位だったとしても、沖縄県ならシェア1位という場合、沖縄県という市場を圧巻できる可能性を見過ごしてはいけない。
また沖縄を圧巻した後に、今度は九州沖縄ブロックという単位で切りとると攻略がしやすくなる可能性もあるかもしれない。
都道府県別で見た場合の各種データを鑑みながら、エリアでのファン顧客を増やしていく取組みはもちろん、コミュニティという価値を提供していきたいと考え、オフラインのユーザー会に取組み始めました。

ユーザー会に関しては、本当に多くを語りたいのですが文字数制限の関係で難しいです(笑)メンバーのSeanが良いNoteを記載しているのでこちらを参照ください!

取り組んだ事によるアウトカム

以上がキャズムを超えるに向けて、ファンマーケティングを基軸に取り組んできた事です。まだキャズムを完全に超えた、とは言えない状況だと認識していますが、それでも手応えを感じています。詳細の記載が難しいのですが

  1. 周辺病院の評判を聞いたインバウンドリードの増加

  2. 商談全体のLT短縮(約15%の短縮)

  3. 稟議起案、及び稟議承認のCVR向上

  4. (新しいものに慎重な)公立や大規模病院の導入率増加

  5. 注力エリアや法人のシェア向上

といった成果が出てきています。また定量化は難しいのですが顧客の声を聞いたステークホルダー(自治体やメディア、アライアンス企業)からも多くお声を頂く形になってきています。

終わりに

長文かつ些末な内容になってしまいましたがお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました!

スタートアップに限らないですがサービスを拡大させていく際によく当たる壁、"キャズム"を取り上げ、弊社の場合はファンマーケティングを中心にした取組みを振り返って記載させて頂きました。
読んで頂いた方にとって、ほんの少しでも参考になる点があれば幸いです!

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