Paradisaea apoda《パラディセア・アポーダ》(3:1:1)



(目安:40分)

フューリー:少年。女性でも可

ユミル:姫(兼:暴徒3)

ドロンプト:フューリーの父(兼:少年2、暴徒1、見張り兵)

国王:ユミルの父(少年1、Na)

宰相:絶許(暴徒2)




0:森の奥、少女が走っている
 :
ユミル:はぁっ・・・はぁっ・・・。
0:木の根に躓き足をくじいてしまう
ユミル:きゃっ・・・っ痛。・・・どうしましょう、このままでは帰ることができないわ。
 :
0:途方に暮れていると目の前の茂みがガサガサと揺れる
 :
ユミル:ひっ、何か近づいてくる。・・・あ、あぁ、・・・いや・・・助けて・・・お父様・・・!
フューリー:女の子・・・?君どうしてこんなところにいるんだい?
ユミル:よかった、人・・・。
ユミル:すみません、
ユミル:そこの木の根で躓(つまづ)いて足をくじいてしまったようなんです。
フューリー:あぁ、それは大変だ。
フューリー:もし君が嫌でなければ背負って君の家まで送っていくよ。
フューリー:家はどこだい?
ユミル:・・・えっと、あの。
フューリー:あ、あぁ、ごめん。
フューリー:嫌だよね。僕、泥で汚れているしあの・・・その・・・。
ユミル:いえ、私のほうこそごめんなさい。
ユミル:私も泥だらけで・・・。
ユミル:あの、もしよろしければお名前をうかがってもいいかしら。
フューリー:僕はフューリーっていうんだ。君は?
ユミル:私の名前はユミル。よろしくね、フューリー!
ユミル:あの、もしよろしければ送っていただいてもいいかしら?
フューリー:もちろん!(ユミルを背負う)・・・あぁ、ところで家は・・・
ユミル:あの・・・、(小声で)トッペンスト城なの。
フューリー:え?今なんて?
ユミル:トッペンスト城・・・なの・・・。

0:城の中の庭にて
 :
ドロンプト:・・・食し終わりました。
国王:ご苦労。以上をもって政治犯マルセルの処刑は滞りなく進行した。
国王:首は広場にて一週間野晒しとする。
宰相:お疲れ様でございました。
国王:本当にこれでよかったのか?
国王:マルセルは先(さき)の王の時分よりとてもよく尽くしてくれた。
宰相:当然です、あの者がいては城内に新しい風が吹き込むことはありません。
宰相:国はいつだって革新していかねばならぬのです。
国王:そ、そういうものであろうか・・・。
宰相:そういうものです。王にはとても辛い決断を迫るような進言をいたしました。
宰相:私めの話に耳を傾けていただきありがとうございます。ご英断感謝いたします。
国王:儂はお前を信頼している。
国王:これからも儂を側で支えてくれ。
宰相:もちろんでございます。
宰相:これからも貴方様のそばでお仕えさせてください。
宰相:・・・それにしても、いつ見ても気持ちのいいものではありませんね。
国王:ドロンプトのことか。
宰相:処刑された者の肉を食べるなど人の所業ではないでしょう。
宰相:気味の悪い。
国王:そういうな、このような所業を我々はやつに背負わせてしまっているのだ。
国王:・・・そもそも誰が言い出したのだろうな。
宰相:あぁ、犯罪を犯し処刑された者の肉を穢れた血である処刑人が食べることで
宰相:さらに深く罰を与えるという話ですか。
国王:あぁ。そのような人ならずの罪をドロンプトの一族に押し付けてしまっている。
宰相:王は優しすぎるのです。あの一族の祖先は人食いだったと申します。
宰相:奴らの血は古くから穢れているのですよ。
国王:・・・あいつを城門まで送り届けてくる。
宰相:お待ちください!王よ!(ため息)
 :
0:城門前
 :
国王:ドロンプト!
ドロンプト:あぁ、王よ。あまり私に近づかないでください。
ドロンプト:あなたの気高きお体が穢れてしまいます。私に何か御用でしょうか。
ドロンプト:それとも何か不手際が?
国王:我が友よ、そのような悲しいことは言わないでくれ。
国王:確かに子どもの頃からそれぞれの事情や立場は変わった。
国王:だが僕はいつまでも君のことを友人だと思っている。
ドロンプト:ありがたいお言葉ではございますが
ドロンプト:あまり表でそのようなことはおっしゃらないでください。
ドロンプト:もうあの頃の無邪気に遊んでいたドロセルとドロンプトはいないのです。
ドロンプト:私のことを案じてくださるのは大変嬉しいのですが
ドロンプト:案じてくださるのであれば外では話しかけないでください。
国王:ドロンプト・・・。
ドロンプト:・・・ん?あれは?フューリー?あの背負っている少女は?
国王:ユミル・・・!
ドロンプト:は!?
 :
0:駆け寄る王とドロンプト
 :
ドロンプト:フューリー!!!!
フューリー:え、父さん?後ろの人は・・・
ユミル:お父様!!!
フューリー:え、お父様っていうことはもしかして王様・・・?
国王:あぁ、ユミル。こんなに泥だらけでどうしたんだい。
ドロンプト:王よ、大変申し訳ございません。
ドロンプト:なにがきっかけで出会ったのかはわかりませんが
ドロンプト:姫をこのように泥まみれにしてしまい、ましてや姫のお体に触れてしまったことどう謝罪すればよいのか・・・!!!
ユミル:あぁ、違うのです、面をあげてください。
ユミル:私が森で足をくじいて動けなくなっていたところをフューリーが助けてくださったのです。
国王:そうだったのか、フューリーくんありがとう。
フューリー:あ、あの、いえ・・・・。
国王:君の子どもの頃の顔にそっくりだな、ドロンプト。
ドロンプト:だからその話は!
国王:ははは、悪い悪い。
国王:さぁ、ユミル、城に戻り治療をせねばなるまいな。ほら、おいで。
ユミル:はい、お父様。
ユミル:・・・申し訳ございません、服を汚してしまいました。
国王:いや、いいんだよユミルが無事に帰ってこられてよかった。
国王:服なんぞ洗えばよいのだ。
ドロンプト:王よ、では私たちはこれで。
国王:うむ、フューリーくん今回のこと深く礼を言う。
国王:娘をここまで送ってくれて助けてくれて本当にありがとう。
 :
0:帰り道
 :
ドロンプト:フューリー、今回はたまたま王がおひとりでいらっしゃったからよかったものの、
ドロンプト:もしかしたらお前は投獄され帰ってこられなくなっていたかもしれないんだぞ。
フューリー:ごめんなさい。
ドロンプト:それと、もう姫には近づくな。
ドロンプト:我々とあの方たちとでは身分に雲泥の差があるんだ。
フューリー:はい・・・。
 :
0:スラム街
 :フューリー、スラム街の少年たちに殴られる
 :
フューリー:・・・くっ。なにするんだ。
少年1:昨日見ちまったんだよな。お前姫様背負って城に行ったろ。お前やお前の親父みたいなやつが王族と関係があるなんておかしいだろ。
フューリー:それは・・・
少年2:口答えしてんじゃねぇよ。穢れた血のくせに。
少年1:そもそもお前らみたいなスラムの中でも最底辺の人間が王族と関わりがあること自体おかしな話だろ。お前らやっちまえ。
フューリー:(殴られて苦しんでいる)

フューリーM:あれから十日経った。
フューリーM:本当はまだ森に行きたくないけれど薬草を取りにいかなきゃ。
フューリー:このあたりなら生えているはず・・・あぁ、あった。
フューリー:・・・ふぅ、これくらいでいいかな。
 :
0:ガサガサと茂みが揺れる
 :
フューリー:・・・っ!
ユミル:あっ、フューリー!
ユミル:よかった、ここに来ればきっと会えると思ったの。
フューリー:ユミル・・・様。お怪我もまだ治りきっていないでしょう。
フューリー:このような場所にいらっしゃっては危険です。早く城へお戻りください。
ユミル:私はあなたと仲良くなりたいの。
フューリー:いけません、僕はあなたと仲良くなれる身分ではないんです。
フューリー:そもそも本当はあなた様の目に映るはずのない言葉を交わすことも許されない身分なんです。
ユミル:身分なんて関係ないわ。私はあなたと仲良くなりたいの。
ユミル:(フューリーの怪我に気が付く)
ユミル:・・・、ねぇ、そのひどい怪我はどうしたの?
フューリー:いや、これは・・・転んで・・・
ユミル:フューリー、転んだだけでそんな怪我はしないはずよ。正直に言って。
フューリー:べつに大したことでは・・・。
ユミル:フューリー。
フューリー:・・・スラムの奴らにやられたんです。
フューリー:あいつらは僕たち穢れた血が王族と関わりがあることが許せないので。
フューリー:普段からあたりは強かったんですけど、
フューリー:たまたまあの日あなたを城へ送っていく様子を見られていたらしくて。
フューリー:いつもより酷く殴られたんです。
ユミル:穢れた血?
フューリー:僕の一族はそう呼ばれる身分なんです。
フューリー:代々処刑人として血をかぶってきた一族だからって。
フューリー:まぁ、今は僕と父しかいないのですが。
ユミル:そうなのね。あぁ、なんて酷いことを。
ユミル:そのようなことがスラム街では常日頃行われているなんて。
ユミル:お父様に頼んでそのような身分を廃止するよう頼んでみます。
ユミル:フューリーとあなたのお父様のような身分が無くなれば、
ユミル:きっと私たち身分も人の目も何も気にせず遊ぶことができるわ。
フューリー:あ、いや・・・
ユミル:そうと決まればすぐにお父様に掛け合ってみるわ!!
 :
0:玉座の間
 :
宰相:この山の鉱石を輸入して・・・
国王:いや、だがしかし・・・
ユミル:お父様!お父様!!
国王:おや、どうしたユミル。そのように息を切らせて。
宰相:ユミル様、私はただいま王と大事な話をしているのです。
ユミル:あら、私だってとても大事な話をしようとしているわ。
ユミル:邪魔をしないで頂戴。
宰相:ユミル様。
国王:よい、先程の話はあらかた済んだだろう。
国王:儂にも考える時間が欲しい。よいか?
宰相:・・・はい。
国王:して、どうしたユミル。大事な話とは一体何だい?
ユミル:あのね、フューリーたちのことなの。単刀直入に言うわ。
ユミル:あんな馬鹿馬鹿しい身分制度はもう廃止しましょう!!
ユミル:スラムに住んでいる人たちはフューリーたちが私たちに関わっているのが許せないんですって。
ユミル:だからとても酷い扱いをフューリーたちに強いているらしいの。
ユミル:彼らはこの国の為に今までとても頑張ってくれたわ。
ユミル:もう自由にさせてあげてもいいんじゃない?
宰相:それはなりません。これは我が国の伝統です。
宰相:そしてこのような非人道的なことでさえ意味があって行われているのです。
宰相:それを国王陛下の代で潰(つい)えさせることなど許されません。
ユミル:それが馬鹿げていると言っているの。誰が聞いてもおかしいことを続ける意味は何?
ユミル:どうせ民たちよりも下の立場を作ることで団結させるための身分なのでしょう。
ユミル:お父様、お願い。こんなこともうやめましょう。私たちがただ一言いえばいいだけよ。そうすれば
宰相:(食い気味に)政(まつりごと)に携わっていないからそのように簡単におっしゃることができるのです。
宰相:彼らは民にとって我々にとって必要な身分なのです。
宰相:お話は以上ですか?私はまだ王と大切なお話がありますので、そろそろお部屋へお戻りください。
宰相:さて王様、次の提案なのですが海を越えた先の国では金をあしらった服が流行っているようです。
宰相:これを我が国に取り入れませんか。
国王:ほう、そのようなものが・・・。
ユミル:お父様!
国王:ユミル、その話はまた後でしよう。
ユミル:最近のお父様は宰相の言いなりだわ。
ユミル:こんな時お母様が生きていてくだされば・・・。
ユミル:また先日も政治犯として大臣が処刑された。
ユミル:大臣もまた、宰相の提案を聞き入れすぎだと進言しただけだった。
ユミル:大臣もメイドも執事も庭師もみんな処刑された。
ユミル:あのお話の様子ではまた隣国から何か流行りのものをとりよせるのでしょうね。
 : 
 :(間)
 :
フューリーM:あれから十年がたった。
フューリーM:国は見る影もなくやせ細り民はどんどん飢えていった。
フューリM:王は未だに宰相のことを厚く信頼している。
フューリーM:反対する者は皆処刑された。
フューリーM:最近は処刑を恐れて王に進言をする者はいなくなった。
 :
ユミル:フューリー!
フューリー:ユミル!
ユミル:久しぶりね、少し痩せたんじゃない?
フューリー:スラムのほうにまで食べ物が行き渡らなくなったからね。
フューリー:あそこでは毎日のように老人や子どもたちが死んでる。
フューリー:昨日も裏の家の子どもが死んだ。
ユミル:そんな・・・。あぁ、なんてこと。
ユミル:それに怪我がまた増えたのではなくて?
フューリー:あぁ、人々の鬱憤がまた僕たちのほうに向いているからね。
フューリー:昨日は家の窓が割られたよ。
ユミル:ごめんなさい。
フューリー:ユミルが謝ることじゃないよ。
ユミル:でも・・・。
フューリー:きっと悪いのは宰相なんだ。
フューリー:だけど国民たちはそんなこと知らない。
フューリー:もし捕まったらいくらユミルとはいえどんな目に遭わされるかわからない。
フューリー:今の国民たちはそれくらい余裕が無くなっているんだ。
フューリー:しばらくここには来ないほうがいい。
フューリー:それに昨日の夜・・・
 :
0:深夜・フューリーの家
 :
フューリー:父さん大丈夫?
フューリー:最近あまり体調がよくなさそうだけど。
ドロンプト:正直あまりいいとは言えないな。
ドロンプト:最近はあきらかに処刑の数が増えている。
ドロンプト:罪人も最近では政治犯ばかりだ。
ドロンプト:しかしどの人も善良な者たちばかりだった。
ドロンプト:こんな私にさえ温かい言葉をかけてくれた者たちばかりだった。
ドロンプト:・・・こんなやつじゃなかったじゃないか。
ドロンプト:どうしてしまったんだ。
フューリー:父さん・・・。
ドロンプト:私は仕事だから公私を抜きにして処刑しなければならない、
ドロンプト:何もしていない正しいことを言っている人間を殺さなければならないのが辛い。
ドロンプト:だが私が引退すれば次にこの仕事を引き継がなければいけないのは
ドロンプト:フューリー、お前だ。ごめんな・・・ごめんな・・・。
 :
0:森の奥
 :
フューリー:・・・っていうことがあってね。
フューリー:父さんの心もそろそろ限界だし、近いうちに仕事を継ぐことになったんだ。
フューリー:最近は父さんについて行って勉強してるんだ。
フューリー:なんていうか、すごい職業なんだなぁって思った。
フューリー:父さんについてやっと穢れた血っていう言葉の意味が分かったよ。
フューリー:僕もいつか人を食べなきゃいけなくなるんだね。
ユミル:ごめんなさい・・・。
フューリー:どうしてユミルが謝るんだよ。
フューリー:君は何も悪くないんだよ。
ユミル:そのような業をあなたたちに背負わせてごめんなさい。(すすり泣く)
フューリー:だから・・・ユミルは悪くない!
フューリー:何も悪くないんだよ!お願いだから泣かないで。(泣く)
フューリーM:どうして僕らはこんなに無力なんだろう。
フューリーM:そんな折、ある話がスラム街を中心に出回っていた。
宰相:「王は各国から様々な贅沢品を取り寄せ、私腹を肥やしている。
宰相:だから我々はこのような貧しい思いをしなければならないのだ。
宰相:王を倒し我々の国を取り戻そう!!。」
フューリーM:このような話を撒いたのはほかならぬ宰相だった。
 : 
0:宰相の部屋
 :
宰相:(呟く)近頃の王は、私に疑念を抱いているようだ。
宰相:噂もおおむね平民どもに広まった頃だろう。
宰相:・・・そろそろ潮時か。
 :
フューリーM:ある凍てつくような冬の日の朝
フューリーM:城門で爆発が起こった
フューリーM:なにごとかと王が兵に尋ねると民による反乱が起こった、と。
フューリーM:そして彼らを率いているのは、
フューリーM:王が心の底から信用していた宰相であるとも。
フューリーM:宰相は彼らに
宰相:「私は何十年にもわたり王を止めようとした。
宰相:だが王は私の言うことに聞く耳を持ってはくれなかった。
宰相:長年世話になった王とこのような形で袂を別つのは本意ではなかったが
宰相:それよりも民のことを思うとあまりに苦しく胸が張り裂けそうだった。
宰相:さぁ、今こそ立ち上がりあの傲慢な王を打ち倒そう!!
宰相:我々の国を取り戻すのだ!!!」
フューリーM:と、声高々に演説をした。
フューリーM:善良なる国民たちは皆宰相の言うことを信じてしまったのである。
 :
0:フューリーの家
 :
フューリー:っ、父さん、大変だ!!!
ドロンプト:どうしたんだ、帰ってくるにはあまりにも早すぎるし手ぶらじゃないか。
ドロンプト:まだ昼過ぎだぞ?とうとう市場が私達には何も売ってくれなくなったか?
フューリー:違う、そうじゃなくて・・・!
ドロンプト:どうした。
フューリー:クーデターが起こった。
フューリー:みんな城へ行った!!
ドロンプト:なんだって!?
ドロンプト:フューリー、お前はここにいなさい!
フューリー:嫌だ!!ユミルが危ないんだ、助けに行かなきゃ!
ドロンプト:・・・そうか、行くぞ。
ドロンプト:裏の森を抜けると早く着く。
ドロンプト:何かあれば王や姫はお前に任せる。
フューリー:わかった。
 :
0:城門前・城門は既に破壊され中では怒号が飛び交っている
 :
ドロンプト:・・・っ、これは。
フューリー:ユミル・・・!ユミル!!!
ドロンプト:フューリー!
フューリー:ユミル!どこ?・・・ひっ、死体。
ドロンプト:あまり一人で突っ走らないでくれ。
ドロンプト:ここは危ないから裏から抜けよう、こっちだ。
フューリー:・・・父さんは城のこと詳しいの?
フューリー:やっぱり仕事でよく来るから?
ドロンプト:・・・まだ10歳くらいの時にな、父親の後をこっそりつけて城に出入りしていたんだ。
ドロンプト:その時本当に偶然、今の王に見つかってしまってな。
ドロンプト:衛兵には黙っておいてやる。だから城の外の話をしろ、と。
ドロンプト:それがきっかけで仲良くなり城の抜け道や近道などいろいろと教えてもらった。
フューリー:父さんは・・・
暴徒1:おい、王を捕まえたぞ!!!!
暴徒2:俺たちが苦しい思いをしている間、お前は俺たちの金で贅沢をしていたんだろ!!
暴徒3:あんたの無理な政治のせいで先週私の子どもは食べるものがなくて死んじまったよ!!!お前が死ねばいい!!!
ドロンプト:どけ!どけ!!・・・ドロセル!!!
ドロンプト:あぁ、こんなにボロボロになって・・・。
暴徒2:おい、処刑人が来たぞ!
暴徒3:処刑人、早くこの豚を殺しておくれよ!!
暴徒1:早くしろよ!!!!!お前らはそのために存在してるんだろうが!!!!
フューリー:父さん!!なんだよ、これ。
フューリー:なんなんだよ・・・。
フューリー:みんな正気を失ってる・・・。
フューリー:どうしてこんなことに・・・。
フューリー:ユミル・・・。そうだ、ユミルはここにいない。
フューリー:もしかしたらどこかに隠れているかもしれない。探さなきゃ・・・!
 :
0:あちこち走ってユミルを探すフューリー
 :
フューリー:普段ユミルはどこにいる・・・。
フューリー:考えろ・・・考えろ・・・!
フューリー:森・・・?
 :
0:森の奥 木のうろの中にじっと身を隠すユミル
 :
ユミル:どうしてこんなことに・・・。昨日までは皆笑って・・・。
ユミル:いや、そんな生活を送っていたのはきっと私たちだけだったのね。
ユミル:これからどうしたらいいの。お父様は私を逃がすための囮になってくださった。
ユミル:きっともう・・・。もういや、何も考えたくない。これが夢だったらいいのに。
 :
0:鳥が羽ばたく音
ユミル:ひっ・・・。
ユミル:もういや・・・、お父様、フューリー・・・。
 :
0:茂みがガサガサと揺れる
ユミル:(息を殺している)
フューリー:ユミル・・・どこにいるんだ。
フューリー:まさか捕まってしまった?くそっ、城に戻って
ユミル:フューリー・・・?
フューリー:ユミル!どこだい?ユミル!
ユミル:私はここよ!フューリー会いたかった・・・。
ユミル:お父様が・・・お父様が・・・
フューリー:知ってる、父さんともども皆に囲まれてしまった。
フューリー:助けられなくて・・・。せめてユミルだけでもって。
ユミル:あぁ、なんてこと。
ユミル:覚悟はしていたつもりだったけれど、やっぱり胸が張り裂けそうよ。
フューリー:助けに来たんだ、この国から逃げよう。
ユミル:どこにも逃げられる場所なんてないわ。
ユミル:それにお父様を放っていくなんて。
フューリー:今は君が最優先だ。
フューリー:お願い、僕と一緒に逃げて欲しい!
暴徒1:今このあたりから声がしなかったか?
フューリー・ユミル:・・・ッ!!
フューリー:(小声)急いでここから離れよう
ユミル:(小声)ええ。
 :
フューリーM:僕はユミルの手を引いて森を走った。
フューリーM:ただただ必死だったんだ。
フューリーM:この森を抜ければ隣の国の領土だ、
フューリーM:そこに入ってしまえばいくら宰相たちといえど容易に手を出すことはできない。
フューリーM:もう少し、もう少しだったんだ。
暴徒3:おい、いたぞ、こっちだ!!
フューリーM:脇目も振らずただまっすぐに走った。
フューリーM:暴徒が投げた石が僕の頭に当たる。
フューリーM:血が流れているのがわかる。目の前がくらくらする。
フューリーM:それでも、ユミルを逃がすためなら・・・。
フューリーM:けど、ユミルは急に立ち止った。
フューリーM:そして僕の手を振りほどき、こう言い放った。
ユミル:手を放しなさい無礼者!
フューリー:ユミル・・・?
ユミル:気軽に私の名前を呼ばないで頂戴、穢れた血のくせに。
ユミル:私をコルプス国の第一皇女と知ってのことですか!
フューリー:なにを言ってるんだ、そんなことより早く逃げないと
ユミル:(小声)もう無理よ、これ以上あなたを巻き込むわけにはいかない。
ユミル:ごめんね、ありがとう。
暴徒1:ユミル姫だな。一緒に来てもらおうか。
フューリー:嫌だ、嫌だ!ユミルから手を放せ!
フューリー:その汚い手でユミルに触るな!!!
暴徒1:ちっ、うるさい奴だな。
0:フューリーのみぞおちを一発殴る
ユミル:フューリー!!!
フューリー:ぐ・・・ぅ・・・ユミル・・・ユミル・・・
暴徒2:おい、早く来い。
 :
フューリーM:あれから三日が経った。
フューリーM:噂によるとユミルと王の処刑が三日後に決まったらしい。
フューリーM:執行は宰相の命令で父さんと、僕が行うことになった。
 :
0:三日後 城の地下牢にて
 :
フューリーM:先程、父は親友だった王を処刑しに行った。
フューリーM:今日までの三日間は本当に眠れなかったらしく
フューリーM:目の下のクマはひどくとてもやつれていた。
フューリーM:そして僕は今ユミルを処刑台へ連れていくべく地下牢に来ている。
フューリー:ユミル・・・、迎えに来たよ。
フューリーM:頑張って笑顔を作る。
フューリーM:仕事の最中父は言っていたのだ。
フューリーM:穏やかになるべく笑顔で罪人たちと向き合わねばならない、と。
フューリーM:せめて最期にみる人の顔くらいは笑顔の記憶を残してあげたいのだと。
ユミル:フューリー・・・?
フューリーM:・・・様子がおかしい。
フューリーM:なんだかひどく不安定で今にも壊れてしまいそうな・・・。
フューリーM:うっすらと灯る蝋燭の光に彼女を見た。
フューリーM:あまりにもボロボロだった。
フューリーM:ちらちらと青あざも見受けられる。
フューリー:ユミル、どうしたんだ、ボロボロじゃないか…。
フューリーM:ユミルの服は明らかにボロボロだった。
フューリーM:まるで誰かに無理やり破かれたかのように。
フューリー:おい、これはどういうことだ。なぜ姫がこんなボロ布なんだ。
見張り:ふんっ、もう姫という立場でもねぇだろ。
見張り:あんまりにも静かにだんまりだったもんでちょっとむかついちまってよ。
見張り:みんなで三日三晩元姫様を囲って仲良く遊んでもらってたのさ。
見張り:初めは嫌だ嫌だと泣き喚いてたんだが2日目の途中から随分と大人しくなってなぁ…。
見張り:あぁ、お前そういえばその女と仲が良かったよな?
見張り:悪かったな、呼んでやらなくてよ。
フューリー:お前…なんてことを…
 :
0:胸倉につかみかかるフューリー
 :
ユミル:フューリー、やめなさい。
ユミル:そんなものにかまけている時間などないでしょう?
ユミル:早く私を処刑台へ連れていきなさい。
フューリー:止めないでくれ!
フューリー:こいつは・・・こいつらはユミルを・・・!
ユミル:フューリー!
フューリー:くっ・・・。
見張り:ははっ、女に言われたからって止めるのかよ。
見張り:情けないな。
フューリー:・・・お前はいつか殺す。
見張り:おぉ、怖い怖い。
見張り:いつかは俺もお前に処刑されちまうのか。
ユミル:フューリー。
フューリー:みっともないところを見せちゃってごめん。
フューリー:・・・改めて本日刑を執行させていただくことになりました
フューリー:フューリー=セム=ドロンプトと申します。
フューリー:至らぬ点もあるかと思いますが迅速に執行させていただきます。
フューリー:よろしくお願いいたします。
ユミル:ご丁寧にありがとうございます。
ユミル:本日はよろしくお願いいたしますね。
フューリー:・・・はい。
 :
0:牢のカギを開ける
 :
フューリー:さぁ、こちらです。足元にお気を付けください。
フューリー:本日は地下ではなく城外の広間にて行われます。
フューリー:姫様におかれましては長い距離を裸足で歩いていただくことになり
フューリー:大変申し訳ございませんが・・・
ユミル:ねぇ、フューリー。私あなたと最期にそんな形式ばったお話をしたくはないわ。
ユミル:もっと楽しいお話をしましょう。
ユミル:そうね、そうだわ先日ね、森の奥でとてもきれいな小鳥をみつけたのよ!
ユミル:まるで薔薇のように赤くて尾が長くて素敵だったわ!鳴き声も
フューリー:ごめん。
ユミル:どうして謝るの?フューリーは何も悪いことをしていないのでしょう?
ユミル:あなたがそんなに悲しそうな顔をする必要はないのよ?
フューリー:ねぇ、ユミル僕らこのまま逃げよう。そうしたら
ユミル:無理よ、気づいてる?
ユミル:少し離れたところから私たち見張られているわ。
ユミル:きっとあなたがそういって私を逃がそうとするのも全てわかっていたのかもね。
ユミル:もし失敗して捕まれば私もあなたも殺されるわ。
ユミル:そんなの間違ってもごめんよ。
フューリー:僕は今から君をこの手で殺さなきゃいけない。
ユミル:・・・ねぇ、フューリー、覚えてる?
ユミル:初めて出会った時のこと。
フューリー:え?
ユミル:あの時ね、私家出しようとしていたの。
ユミル:なにもかも嫌になって。
ユミル:ほら、私姫という立場だったから
ユミル:どうしても姫としての立ち振る舞いは常に求められていたの。
ユミル:仕方ないといえば仕方ないんだけどね。
ユミル:それが息苦しくてたまに森によく出かけていたの。
ユミル:あの日は、教会でボランティアの日だった。
ユミル:なんなんだろうね、いつもだったら耐えられたことなんだけど
ユミル:どうしてもその時は我慢できなかった。
ユミル:そのままそこから逃げ出しちゃって。
ユミル:そのあとはまぁ、知っての通り木の根っこで躓いてうずくまってる所を
ユミル:フューリーに助けられたんだけど。
フューリー:・・・ねぇ、ユミル。ここから逃げよう。
ユミル:(食い気味)嫌よ。私はこの国の姫なの。
ユミル:死ぬのが嫌だからと逃げ出すわけにはいかないわ。
ユミル:そんな顔しないで頂戴。
ユミル:それに私あなたの手で処刑されることだけを心の支えに
ユミル:今日までの三日間生きてきたのよ。
ユミル:他の人の手で終えるのだけは絶対に嫌。
ユミル:フューリー、あなたの手で死にたいの。
ユミル:私の最期のお願い聞いてくれる?
フューリー:そんなお願いの仕方はずるいよ。
ユミル:フューリー。
フューリー:・・・わかった。
フューリー:なるべく苦しまないように逝かせてあげる。
フューリー:でも、僕初めてだからなぁ。
ユミル:ふふふ、私痛いのは嫌いよ、一瞬で楽にして頂戴。
ユミル:これは命令よ。
フューリー:はいはい、かしこまりました、お姫様。
フューリーM:僕達は広場までの道のりでいろんな思い出話をした。
フューリーM:この彼女との残り僅かな時間が
フューリーM:一秒でも長く続けばいいと、いつもよりもゆっくり歩いた。
フューリーM:彼女もそれを察してか普段よりもゆっくり歩いた。
 :
0:広場
 :
0:たくさんの国民が処刑台前に集まっている
0:ユミルたちの姿が見えると罵詈雑言が飛び交う
 :
フューリーM:彼女は処刑台に上がってからというものじっと目を閉じ、彼らの彼女を貶す声を聴いていた。
フューリーM:そのうち誰かが石を投げた。一人、また一人彼女に向って様々な物を投げつける。
フューリーM:彼女はそれをじっと耐えていた。ある程度その体で受け止めたあと彼女は
フューリーM:今まで聞いたことのない大きな声で凛と一声。
ユミル:静かになさい!
フューリーM:その一声だけで民たちを黙らせた。
フューリーM:そうだ、彼女はこのような立場になろうとも姫なのだ。
フューリーM:彼女は民たちに今までのこと真摯に詫びた。
フューリーM:そしてそのうえでなにがあったのかを語る。
フューリーM:納得のいかない民たちの声一つ一つをしっかり拾いみんなを納得させていく。
フューリーM:もしかしたら本当に悪いのは、王族ではなく・・・
フューリーM:そんな思いが民たちの心に芽吹き始めたその時
宰相:お待ちなさい。
宰相:あなたがたはまたそうやって王族の奴隷へとなれ果てるのですか。
宰相:彼らは口が達者だ。
宰相:ここで丸め込まれてはなにも変わらない!!
宰相:我らに自由はない!
宰相:おい、処刑人!何をしている!!
宰相:早く刑を執行しろ!!!
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0:民の視線がフューリーに集まる。しだいに大きくなっていく罵詈雑言。
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フューリー:・・・嫌だ、やりたくない。
ユミル:フューリー、お願い。
フューリー:嫌だ。
ユミル:約束したじゃない。
フューリー:僕は・・・。
ユミル:お願い、あなたでないと嫌よ。
ユミル:残酷なお願いだっていうのはわかってる。
ユミル:・・・フューリー。
フューリー:うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
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フューリー:はっ・・・ぁ・・・あ・・・。(呆然)
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フューリーM:その後のことは覚えていない。
フューリーM:彼女の遺体は誰かが取りに来た。
フューリーM:そして気が付くと僕は広場の前にいつの間にか設置された席に座らされている。
フューリーM:隣には憔悴した父さんが座っている。
フューリーM:そして机の上には彼女の生首とあの優しかった王の生首。
フューリーM:目の前に置かれた何かの肉。
フューリーM:彼女と、目が合った気がした。
フューリー:ぅ・・・おぇぇ・・・ぅあ・・はぁ・・・はぁ・・(嘔吐)。
フューリーM:周りからは侮蔑(ぶべつ)の目と蔑みの言葉。
フューリーM:早く食えと口にねじ込まれる。
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フューリーM:気づけば皿か空になっており
フューリーM:あんなにたくさんいたはずなのに広場に人はまばら程しかいない。
フューリーM:父さんは僕を抱きしめて泣いていた。
ドロンプト:ごめんな・・・。ごめんな・・・。
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0:その日の晩
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フューリー:・・・父さん?
フューリー:父さん!!父さん!!!
フューリーM:その日の晩、父さんは自分の部屋で自分の首を切って死んでいた。
フューリーM:部屋は血しぶきで真っ赤に染まっていた。
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 :
フューリー:は・・・ははは・・・はは・・
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0:ふらふらと街へ歩みを進める
0:手には仕事道具の大きな剣と松明
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0:深夜
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フューリーM:手近な家に火をつける。
フューリーM:あっちにも、こっちにも。
フューリーM:家の前に落ちて居たいろんなものを置いて外に出られないようにして火をつけた。
フューリーM:逃げ出してきた人はその場で殺した。
フューリーM:気がつけば国は真っ赤に燃えていた。
フューリーM:いろんなところから悲鳴が聞こえる。
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フューリー:あは・・・あはははははははは!!!
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NA:翌日の朝、隣国の兵が救助のためコルプス国に訪れた。
NA:彼らが見たものはあまりにも惨い光景であった。
NA:生きている国民に誰一人として出会わないのだ。
NA:・・・広場にいる笑いながら何かを食べている少年を除いては。
NA:兵たちは恐る恐る近づき声をかける。
NA:しかし、彼らは彼が何を食べているかを理解したとき
NA:思わず息をのんだ。
NA:彼は、人の腕を食べて笑っていたのだ。
NA:少年は兵士と目が合うと、ニタニタと笑いながらナイフを持って近づいてくる。
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フューリー:あはははははは・・・。
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NA:隣国の兵により少年は敢え無く射殺。
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NA:この小さな国の国民は皆息絶えた。
NA:こうしてコルプス国という小さな国は地図から姿を消したのだった。
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NA:歴史の渦に消えた或る小国の物語。
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0:了

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