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山口 貴由:『覚悟のススメ』

毎日、自分の歩みに合わせて動く地面を見ながら、駅から学校までの15分の道のりを歩いて学校まで向かっていた。

高校時代の俺の通学時の話だ。

今でも、その時の景色は良く覚えている。

ただひたすら、地面が動いていく絵面。

誰とも顔を合わせたくない、誰とも会わずに学校まで行きたい、そんな事を考えるともなしに考えながらただ15分間歩くという苦行を重ねてきた。

もちろん、この苦行を敢行した後に待っている事は、大嫌いな高校に登校するという更なる苦行である。

そんな、大嫌いな毎日を吹き飛ばしてくれる存在が、毎週木曜日の朝だ。

毎週木曜日、一体この日に何があるのか?

それは、『週刊少年チャンピオン』の発売日だ。

当時の『週刊少年チャンピオン』は、様々なマンガが連載されていた。

とは言え、この雑誌の存在自体は知っていたけれども、買って読んではいなかったのだ。

なぜなら、当時は『週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」「週刊少年マガジン」を買っていたからだ。

加えて、『週刊少年チャンピオン』を買っている人間が周りにおらず、すっかりその存在を見落としていたというのも一因だ。

だけど、

これは俺の大きなミステイクだった。

何故なら、当時の『週刊少年チャンピオン』には、今でこそマンガ読者のほぼ誰でもがその名を知っている『刃牙』シリーズの初代連載漫画『グラップラー刃牙』が連載されていたのだから。

俺が、高校の同級生に薦められて読み始めたのは忘れもしない、”鎬紅羽”の初登場時だ。

それから、高校卒業してしばらくはずっとチャンピオンの購読者だった。

何故なら、『刃牙』シリーズが死ぬほど好きだったからだ。

だけど、そのマンガに比肩するマンガの連載が始まったのだ。

それが『覚悟のススメ』だった。

このマンガ、題名もさることながら、第1話からとんでもない熱量だ。

何しろ、いきなり褌一丁の男が、日本刀を構えている絵でスタートするのだ。その背景には、こんな言葉が書いてある。

「負けることは恥ではない!戦わぬことが恥なのだ!真剣勝負を制するものは技術でも体格でもない」

そして、そのすぐ後のページには、退廃した世界が描かれている。

そこにたたずむカップル。

そして、現れる怪人。

破裂する女の子。

謎を秘めた退廃した世界の描写の後に、救世主のような存在の描写が。

登場する白い学ランのミステリアスな男子学生。

目立つので不良に絡まれるも闘わずして難なく脱出。

そして言い残すセリフ。

「暴力は極力避けるもの」「恋は極力秘めるもの」

ここまでの描写で、俺は既にこのマンガの虜になった。

退廃した世界、妖しい人外の者、闘うヒーローの存在。今読んでも、それだけでワクワク感があふれてくる。「一体、あのヒーローはどうやって闘うんだろう?」なんて妄想が止まらないのだ。

そして、ついに友達が、怪人に襲われてしまう。

どこからともなく現れるヒーロー。燃える展開だ。

そのヒーローは、『強化外骨格』というバトルスーツを身に纏った、あの白い学ランの転校生だ。

名前を、”葉隠 覚悟”と言う。

彼が、放った直突きが怪人の水月に突き刺さる。そして、吹き出す反吐。吐き出された反吐は、怪人が喰った人間の骨の山。その反吐の中から、丸のみにされた級友が半分溶けた状態で現れる。

怪人は宣言する。「究極の愛は、あなたがあたしのお肉になること」だと。

それを受けて、”覚悟”は宣言する。

「その言葉宣戦布告と判断する。当方に迎撃の用意あり」

「覚 悟 完 了」

突っ込んでくる怪人に、カウンターの蹴り技を決める。

零式因果直蹴撃

そして、闘い終わった彼の元に級友たちが集まった。強化外骨格を脱いだ彼の頭や顔には無数の傷が。

これが、『覚悟のススメ』第一話のクオリティだ。果たして、ここまで書いた文章での描写で、このマンガの熱さが伝わったのだろうか。

実際どうなのかは俺には分からない。だけど、俺にとっては、このマンガの熱さはピカイチだ。

なにしろ、”覚悟”が熱い。なにしろ、強化外骨格”零”が熱い。なにしろ、闘い方が熱い。なにしろ、生き様が熱い。死にゆく人達の”死に様”が凄い。なにしろ、”覚悟”の覚悟が熱い。

グロい、エロい、キモイ、賛否両論というか、否定的な意見がたくさんあるかもしれない。

だけど、その熱さ、その勢い、そのカッコよさ。

それらに乗って、あっというまに駆け抜けた全11巻。

このマンガ、まちがいなく俺の大好きなマンガのうちの1つだ。

願わくば、俺も”零式防衛術”を身に付けて、”強化外骨格”を身に着けて、世界中にいる何者かと”正義”の名を賭けて闘いたかった。

そんな事を考えながら、下を向いて通学していた高校時代を経て、幾年月。

結局、零式防衛術を身につける事は叶わなかったけど、それ以外の闘う術を身につけた。
強化外骨格を身に着ける事は叶わなかったけど、しょぼいなりに筋肉の鎧は身につけた。

そして、物の怪が蠢くこの世界と闘う日々に身をおいている。

これからもこの闘いは色んな形で続くだろう。
だから、この『覚悟のススメ』というマンガは、これから先も俺の道標として、大好きなマンガのまま俺と共にある。

いつだって、
俺がやらなければいけない、
「覚悟完了」の後押しをしてくれる。

下ばっかりじゃなく、
前を向いて歩いて行くために。

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