恋と嘘

「エンジニアでよかった」という言葉を見て、そういえばエンジニアになってよかったことって、なんかあったかな、と思ったので、自分の整理のために、書いてみます。

恋と嘘、というタイトルは、赤い公園という大好きなバンドの唄から、引用させていただきました。

学生時代は、特に夢もなく、なんとなく就職に有利そうということで、工業大学に進学し、そのままメーカーに就職しました。特に夢もなく、です。

新入社員の研修として、1ヶ月近くタイの工場に出張させてもらう機会がありました。当時、海外旅行もしたことがなかった自分には、1ヶ月の海外生活は、単純にキツイ・・・としか思えなかったのですが、そこで、24時間稼働し続ける大量生産ラインを見て、あっ、これカッコいいじゃん、こういうのに携わりたい、と初めて夢らしい夢を持ったのです。

帰国後、正式な配属先を決めるための面談で、そのことを話したところ、自社内の生産設備を開発する部門に配属が決定。

工業大学卒業だけど、機械工学の知識はまったくなく、0からのスタート。はじめは、生産設備のことなんて何もわからない状態で、言われるがまま、金属部品のバリを取ったり、錆びてる部品を磨いたり。

そのうち、先輩の見よう見まねで図面を見ながら部品を組み立てて、調整して、うまくいかずに部品をバラして、全部やり直して、、、そうして、携わった設備が海外に出荷されるうちに、いつの間にか夢中になっていました。

恋したんだと思います。設備開発という仕事に。

それから数年して、設備の設計チームに異動となりました。また0から、CADの操作や加工機の使い方、金属やら樹脂やら材料の加工方法について勉強して、いろいろ外部の会社の方々と打ち合わせをして・・・。

大変だけど、いいものができると楽しい。心からそう思いました。やっぱり恋していたのでしょう。

その後、ある海外工場の生産技術担当者の後任を探しているとのことで、迷わず手を上げました。海外駐在決定。恋が成就して、夢が叶った瞬間です。

憧れの海外工場。生産ラインに携われる。絶対楽しいじゃん。

しかし、そこで私は、新入社員の時に感じた、輝かしい世界ではなく、暗く厳しい世界を知ることになりました。

今まで、日本では、高価でも精度よく、長納期でも壊れにくい部品を選び、現地の人に喜んでもらえるような設備を考えて、努力してきたつもりだったのですが、実際に現地のメンバーが生産するときに必要なこと、求められる設備、コスト、完成までのスピード感。

何もかもが、学んできたことと全然違いました。甘くなかった。

あの時、夢中になって追いかけていた恋は、なんだったのだろう。と、、、ふと考えてしまう時があります。本当の恋とは違い、さすがに涙までは出ませんけど。。

夢見ていた理想の姿と、現実の姿。

今では生産技術とは名ばかりの、純粋なエンジニアでは無いかもしれない。技術を追い求めて、とにかく高精度で、エラーも出ない、完璧な設備を追い求める姿こそ真のエンジニアなんだと言われれば、私のエンジニア人生は、ずいぶん前に、終わってしまった気がします。急な型式変更、無理な増産、偉い人に報告するための生産性改善、最悪な労災対応。。。その日その日を凌ぐため、暫定の工事ばかり。本当に対応できているんですかと言われると、嘘ばかりついて、その場を切り抜ける。

恋と嘘。

それでも、そんな日々を駆け抜けると、いつの間にか、海外工場に駐在しているメンバーとは、同僚とは違う、戦友のような感じがするのです。どこかしら通じ合えるのは、やっている仕事は違えど、みんな、どこか同じような思いや経験を、持っているのかもしれません。

この経験は、いつか、どこかで笑い話になるのかもしれない。

この経験があったからこそ、これから先、特別なエンジニアになることができたら、最高だと思うし、若いころに恋を成就させるためにがんばった時間と汗は、無駄じゃない。間違ってない。と証明したい。

これから先、何があるかはわからないけど、ふと人生を振り返ったときに、心からエンジニアでよかったと、思えたらいいな。

赤い公園を聴いて、明日もがんばろう。

#エンジニアでよかった

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