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暗黒日記Z #31 「タイムカプセルを捨てた日」

久しぶりの日記。月末に書くようにしようと決めて初の更新。もうどんな風に書いていたのかまったく思い出せない。しかしまあ、しばらく更新していなかったぶん書くことは色々あるような気もする。今月のことを振り返ってみよう。

ゲームをよくしていた月だったかもしれない。月初め辺りにFGOのストーリーを改めて読み始めたから。オルレアンで永遠に止まっていたのをようやく読み進めだしたのは確か今月だった。今はなんか海賊がアレしてる。

あ、そうだ、積ん読と化していた『空の境界』もガッツリ読み始めた。こちらも、浅上藤乃の件の序盤で放置してしまっていたが、現時点ではコルネリウス・アルバのあそこまで来ている。なので奈須きのこ漬けの一ヶ月だったとも言える。

他では、本当に何故という感じだけどPSPを買った。世間から十年遅れているのは承知の上である。もしかすると十五年かもしれない。私は割と寝付きが良いほうで、いつまで経っても寝られないようなことは月に一度あるか無いかなのだが、今月のとある夜、まったくもって眠りに就くことが出来なかった。それで、何を思ったか棚の奥からPSPを引っ張り出してきた。小学五年生くらいの頃に買ったものなので、それこそ十五年選手の代物である。

だがこのPSP、実は壊れている。UMDなるPSP専用のゲームソフトを入れる場所の蓋が歪んでいるのだ。そのため、一応はゲームを遊ぶことは出来るのだが、ちょっとプレイに熱が入って激しくボタン入力をしたりすると「ゲームを終了しますか?」というグレーの画面が表示されてしまう。コマンド式のRPGなどなら良いが、リアルタイムのキャラクター操作が求められるアクションゲームなどをしている時のそれは致命的だ。急いで×ボタンを押してゲーム画面に戻ると、見事に取り返しの付かないことになっているということはこれまでに数え切れないほどあった。

そもそもどうしてそうなったかというと、すべての原因は猫だ。そして鏡だ。猫と鏡。この二つが、私から快適なゲームプレイを長年に渡って奪い続けたのである。遥か昔、家が近い子のところに集まって私はよくゲームをしていて、その日もモンスターハンターポータブル2ndGでラオシャンロンを倒したり悪魔ネコと呼ばれる大きな声では言えない魔改造が施されたオトモアイルーをもらったりするために、私は近所の子の家へ遊びに行った。その家には猫がいた。生来動物に好かれずそれだけが理由ではないがそのことも大いにあって積極的に動物を好くことをしてこなかった私なので、猫がいたところでハンターとしての活動に大きな影響は出るまいと舐めてかかっていた。だがそれは大きな間違いだった。その家の猫は、妙に私のところにばかりやって来たのである。

その頃の私は、集団の中にいる時に道化を演じようとしてしまう癖があった。だから、猫に対して必要以上に怯えて見せた。猫が近づいて来る度、まるで獰猛な獣に襲われているかのように過剰に逃げまどった。その哀れな振る舞いがエスカレートしていった果てに、私は猫から逃げるために別の部屋まで走っていく、ということを思い付いた。たかが猫にそこまでしたらきっと笑ってもらえるだろうと浅はかにも思ったのである。意気揚々と、PSPを持ったまま私は走ったが、別の部屋へ行くことは叶わなかった。走り出した瞬間、激しい頭の痛みと衝撃で、地面へ仰向けに倒れた。

一瞬、何が起こったのか分からなかったが、顔を上げてみて、自分が別の部屋へ続く通路の入口だと思っていたものが壁に貼られた大きな姿見だったことにすぐ気が付いた。PSPは無惨に手から吹き飛んで床に転がり、狩友たちからは狙い通り笑いを獲得できたものの、望んでいたのとはまるで違った。楽しかった時間が一瞬にして惨めなものになったことが悲しかったのを強烈に覚えているが、私はそのあとのことをよく思い出せない。

そんな経緯で私の愛機は調子を崩し、つい最近に至るまでそのままだったのである。だが先日なかなかの額の通販用のクーポンが手に入ったので、特にこれといって欲しいものがなかったし、私はPSPを買い換えることにした。今までは黒だったが、気分を一新するためにも真っ赤なものを選んだ。あっという間に届いて、拍子抜けするほど簡単に私は過去の呪縛から解放されてしまった。ゲーム中に意に反して突然終了を提案される度毎に猫と鏡と愚かな自分がフラッシュバックしていたのが、とうとう自由に伸び伸びとプレイできるようになったのである。

嬉しさあまって、かつて欲しいと思いながら買えずに今日まで来てしまったソフトをいくつか買った。『ファイナルファンタジー 零式』『モンスターハンター ポータブル 3rd』『戦場のヴァルキュリア3』の三本である。店頭で買ったので、レジで「こちらすべてPSPのソフトですが、よろしいですか?」と確認された。十余年前であれば絶対にありえなかった質問だと思った。PSPのソフトなどもはやどれももれなくレトロゲーなのだということをひしひしと感じつつ遊ぶゲーム達は、少しばかりの復讐心の解消と、時代に取り残されているという孤独感をもたらしてくれる。我ら来たれり……ゲロほど遅れて……。

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