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「ユースワークのもり」宣言に向けた動向

白川の近況について

昨年度まで8年間、名古屋市青少年交流プラザ(ユースクエア)で様々な年代の若者の育成・支援に取り組んできました。ここでの実践に一区切りを付け、今年度からはユースクエアの当時の指定管理者のひとつであったNPO法人子ども&まちネットの「研究員」として、引き続き子ども・若者に関する研究と実践に専念しています。

加えて、以前から会員として参加していた「ユースワーカー協議会」では、昨年7月の総会で私は幹事に任命され、それから国内における「ユースワーク」のコンセプトの普及と啓発、さらに「ユースワーカー」のための実践共同体の構築にも力を入れるようになっています。
現在の私の主たる仕事は大学職員ですが、若者と関わるスタンスとして、以前と変わらずユースワーカーとしてのマインドを重視するようにしています。

「ユースワーク」がバズワードになりつつある

近年、個人的に、若者に携わる様々な分野において、以前よりも「ユースワーク」という語をよく見かけるようになりました。
若者と社会を関連づけ、それに焦点化したトピックが多様化する中で、「ユースワーク」という考え方そのものの価値や意味に色々な人が気づき始めた、ということは業界的には大きな進展です。

ところでユースワークは、字義からいくと「若者(=ユース)」に関する「取り組み(=ワーク)」を指し、両方とも意味の範囲が広く、当然「ユースワーク」にも幅広い意味を想起できることから、それは若者に関する様々な実践が許容される語として使われる傾向があることも見逃せません。
近年「ユースワーク」が若者に関する実践を語る便利な言葉、バズワードになりつつある気がしています。

もともとユースワークは、近代社会の発達の中で変容する若者のニーズに応えようと生まれ、ヨーロッパ各地へ広がった諸活動をその母体とするものです。
世界大戦やEUの誕生、1980年代からの若者の失業率上昇など多くの変遷をたどる中で、若者政策の整備の必要性が説かれるようになり、次第に定義や理念などの基盤が整備され、課題解決のための積極的な議論に支えられる形で発展し続けてきました。

しかし近年の国内では、確かに欧州の流れを汲む(あるいは輸入される)形でユースワークが展開されている動きが一大潮流となってはいるものの、それとは別軸で、これまで勤労青少年施策、青少年教育・育成施策、若者支援施策など種々の施策・計画がバラバラに展開されていた流れを統合する概念として取り扱われているという、いわば「実用的な事情」で概念が利用される動きがみられます。

たとえば若者に関する教育分野と福祉分野のどちらにもまたがる領域を焦点化するためにユースワークを参照すると、それまで「教育でも福祉でもあったこと」は「ユースワークであること」として語りやすくなるようにみえる…、といったようにです。

こうして国内の実践者は、若者に関わる多種多様な分野間で重ね合っている領域に光を当てる方策のひとつとして「ユースワーク」に着目し始めました。
これは、ユースワークの業界的成長にもつながる事態ですが、予測不可能性をはらんでいます。

ユースワークは「もり」である

現代はVUCA時代といわれています。
VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、目まぐるしく変転する予測困難な状況を表しています。

これは、若者分野をめぐる業界全体にとっても同様であるといえます。
ユースワークというコンセプトが若者に携わる分野に光を当てれば当てるほど、業界全体が拡散的で非線形的な成長を遂げていくことになります。
※非線形的な成長:「こうすればこうなる」という予測可能な成長を辿らないといういこと

こうした社会状況を予見するに、ユースワークに携わろうとする身として何ができるか…。
これが私の最近の関心ごとなのですが、その答えが「ユースワークは『もり』である」という宣言を、周囲に発信していくということでした。

その1:森

ユースワークという業界は、まるで「森」のようです。
それは若者に関する色々な分野が複雑に絡み合いながら相互に連関する、多様性のある全体としてのメタファーです。
また森は「得体の知れない」「とらえどころのない」混沌とした集合体としてのイメージも持っています。
まさにユースワークは今、「森」となりつつあるのです。

その2:守

また、ユースワークには「守(もり)」という視点も重要です。
若者に関わる大人は、彼(女)らに対して「守人(もりびと)」になることが期待されます。
ここでいう守人とはすなわち「ユースワーカー」を指しています。
(守人たる資質については、またどこかで話しましょう)

その3:杜

また、守人たちが集う「コミュニティ(杜:もり)」の確保が、ユースワークの実践を力づけていくことになります。
これもとても豊かなイメージを喚起するメタファーです。
(たとえば、ここでいう神社とは何を指すのでしょうか?)

このように、ユースワークは「もり(森・守・杜)」である、というコンセプトを宣言・発信することで、若者に関わる実践者たちの全体地図を明らかにし、各々の現在地を把握したり、そこから始まる探索や発見を後押ししたいと思っています。

「ユースワークのもり」宣言に向けて

ユースワーカー協議会では、7月に開催予定の総会の一部をオープンイベントにすることで、そこで「ユースワークのもり」宣言を行いたいと考えています。
もちろん「森」は、時間の経過とともに常に変化し続けます。
その点で「森」を描くことに終わりはなく、全体イメージは常に更新し続けるでしょう。
宣言が、森づくりの始まりのコールとなるのです。

そして「森」は誰かの所有物ではなく、たくさんの人・もの・ことが関わり合って形成されるものです。
したがって「これが森だ」として、ユースワーカー協議会がこのコンセプトを業界に一方的に投げかけるのも、少し違うとも思います。

今行うべきは、「現在の(国内における)ユースワークでは、どんな風景が広がっているのか?」を描くことでしょう。
私たちがどんな森の入口に立っているのかを把握しようとする作業は、私たちが森の中に入って冒険することや、「森づくり」をしようとする際にも役立つと思います。

ユースワーカー協議会では、これから7月の総会に向けて、連続4回のオンラインセッションを実施し、そこで「ユースワークの森」に関する探求の場を開いていきます。

手始めは、3月17日(日)10:00〜12:30です。
ぜひご一緒しましょう。

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