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nizimaのAI認定における問題考察と自分がトラブルに合ってしまったときに相談できる公的機関や、非営利組織のまとめ

先日、旧Twitter(現X)上にてイラスト+Live2Dモデル販売及び、依頼ができるプラットフォーム、nizimaで作品をAIと誤認され、作品が販売できなくなったという告発が行われました。
これに対してnizima運営会社であるLive2D社 CEO中城氏が同じくX上でAI審査に関する声明、ポリシーなどを発表しています。
ただ、このAI審査に対する声明やポリシーに対し、納得がいかない、不安という人が散見され、実際にどのような状況かまとめてほしいという依頼があったため、記事の作成を行うことにいたしました。

大前提となりますが、この記事はnizimaおよび、運営会社Live2D社を批判・誹謗中傷することを目的として書かれていません。
批判は他者の感情に波風を立てやすく、中立的な視点で物事を見る際の妨げになる可能性があります。
また、日本は法治国家であり、いかなる理由であれ、誹謗中傷を行うことは許されません。
今回、告発者の名前や、告発者の詳細な内容を記載することもありません。
これは個人の社会的な義務、責任と、サービスを提供する法人、代表者の義務・責任が大きく異なるためです。
公的な立場に立つ政治家などもそうですが、立場・役職によって法的に求められる責任は異なってきます。
こういった区切りを混同される方もいらっしゃいますが、それぞれの権利・守るべき法が別であることに注意してください。
また、サービス提供者にはサービス提供者の都合・理想・言い分があり、クリエイターや消費者にはそれぞれの言い分があります。
今回はクリエイターの権利保護、不安の払拭のために情報の整理が必要であり、いざという時の相談窓口の情報もあった方が良いと判断しています。
私は法律の専門家ではなく、一消費者・ライターにしか過ぎませんので、その点も留意の上、読んでいただければ幸いです。

Live2D社CEO中条氏の発言で問題になると思われる点について

まず、Live2D社 CEO中城氏のポストを引用させていただきます。
X上でnizimaのAI審査のポリシーなどを公式な見解として発表されていますので、まだ読まれていな方はご確認をお願いいたします。
その上で、「実際に告発された方の情報とは別な話」として、問題と思われる点を記載していきます。
すでに中条氏はX上で、寄せられた意見に対して社内で検討、対応を行っていく上発言されていますので、これから挙げていく問題についても解決される可能性があります。

注意点ですが、これから解決されるかもしれない問題と、現状の問題、起こってしまった問題は別のものとして切り分ける必要があります。
これは、訴訟などの法的な問題に発展した際に、どの時点で問題があったかが重要になってくるからです。
その点もご理解いただければと思います。

AI審査に必要なデータの問題

中条氏の発言の中で問題となる思われる内容の一つ目が、AIかどうか審査するための基準と、必要なデータです。
以下、中条氏の発言から引用いたします。

現状では、何らかの経緯でAI審査協力をお願いした作品に対しては、近年の作画過程で必ず用いるクリッピングマスクやブレンドモードなどを統合する前の PSD データを提出いただき、AIに頼らずに描いたことの判断材料とさせていただいております。
(次善の材料としてタイムラプスもあります)
PSDデータにはノウハウが詰まっているから出したくないという話を聞いたこともありますし、提出を求められれば不快に感じられることも覚悟の上で、他に良い方法が無く、このような流れとなっております。
ある作品に対して、協力をお願いして、提出いただけない場合は、当該作品がAI不使用であることの判断が困難となり、審査上投稿不可とさせていただいております。
そのことは、AI不使用が判断出来ないためnizimaへの投稿が許可できないだけであり、決して当該作品のAI使用を断定するものでは有りません。
もし、審査対応時の文面がそのような誤解を与えるようになっておりましたら、誠に申し訳ありません。今後改善に努めたいと思います。
・・・
品質の高い作品を作成されるクリエイターが、統合前のバックアップを取らずに統合することはないという仮定で、判断要素としておりますが、何らかの事情でバックアップが紛失するなどのケースもあるかもしれません。
その場合にも、誠に申し訳ありませんが、別の作品でのPSD提出をもって、当該作品をOKとすることは現状ではNGとさせていただいております。
あくまで当該作品のAI不使用を判断して投稿可否を判断する審査であり、すでに他のクリエイターの皆様にもそのようなルールで対応しているため、杓子定規な対応にならざるを得ないことを、何卒ご理解頂きたいと思います。

引用元:https://x.com/nakajoo/status/1715309292281352562

おそらく、Live2Dの仕組みや、必要な作業が分からない方には、何が問題か分からないと思います。
専門的な説明をなるべく省けば、PSDはLive2Dを作るために必要になる画像データです。
Live2Dとして画像を動かすには、様々なパーツを分けて作る必要があります。
さらに、パーツを動作させるための加工を行う必要があり、作業の前(統合前)のPSDと、(作業中・作業後)のPSDが存在することになるのです。

その上で、【品質の高い作品を作成されるクリエイターが、統合前のバックアップを取らずに統合することはないという仮定で、判断要素としております】という言葉が出てきますが、これはアニメーションを作るなど、プロの世界が基準になっています。
問題は、nizimaは素人であろうと誰でも自由に参加が可能なサービスであり、独学でLive2Dを覚えたため統合前のPSDを保存する習慣のない人、独自の技法を利用しているためそもそも統合後PSDファイルしか残らない人、そもそも統合前のPSDを残す必要性を感じていない人などもいる点です。
Live2D市場は広く開かれていて、独自の技術や、技法・表現を生み出せる自由度の高さも魅力です。
そのため、クリエイターがPSD統合前のバックをアップを取らずに統合することはないという前提自体が崩れます
また、次善の作としてタイムラプス(作業を録画し、高速で再生できるようにしたもの)が候補に入っていますが、実際に作業を行っているクリエイター側としては『動作が重くなるからタイムラプスは簡単に撮れない』といった声が多くなっています。
日常的に仕事をしているモデラーだけでなく、兼業など忙しい合間を縫ってLive2Dを作成している人からすれば、作業効率を落としてタイムラプスを取るのは非常に難しく、あまり現実的ではない話です。
YouTubeなどで作業配信をする人もいますが、公開でモデリングをするためには権利者の確認が必要であるなど、現実に即した内容ではないと考えてしまいます。
双方の認識のズレが問題を大きくしているため、別の基準で審査をするか、投稿ガイドライン自体に明記するなど対策を行わなければ問題が再発する可能性があるだけでなく、不当な審査で出品自体が出来なかった、取引が出来なくなったなど、本来認められるべき投稿者の権利を侵害している可能性もあります。

Live2D社都合による合理性のない一方的な措置で、実際に収入を得ていた人の収入源を断ってしまった場合、独占禁止法第19条における不公正な取引方法(優越的な地位の濫用等)が成立する可能性も出てきます。
実際に成立するかは公正取引委員会への通報、弁護士などを通した法的な解決を図らなければわからない問題となるため詳しくは触れません。
一方で、公正取引委員会の公式サイトにはこのような文言があります。

申告とは
独占禁止法に違反する事実があると思うときは、だれでも、公正取引委員会にその事実を報告し、適当な措置を採るよう求めることができます。これは、違反行為の被害者でも一般消費者でも、違反行為を発見した人であればだれでもよいのです。

公正取引委員会 独占禁止法違反被疑事実等についての申告について

フリーランス・クリエイターで、不合理な目に合っていると思われる場合は、こういった問い合わせ窓口があることを覚えていただければと思います。
なお、公正取引委員会には下請法など、下請け業者・個人を保護するための法律・相談窓口も存在します。

2023/10/31追記

PSDの統合の話ですが、「高稼働にしようとしたり、クオリティを追求しようとするととそもそものパーツ数が多すぎて、PSD統合しないと動作チェックなども難しく、作業前のデータを残すこと自体が手間」というお話をいただきました。
現場のお話として意見があったということで、追記させていただきます。


AIの審査基準がnizimaサイトに記載されていないという問題

AIでない作品がAI作品と疑われ、出品が出来なくなったという告発ですが、AIの審査基準はnizimaサイト上に記載がなく、どのような根拠で作品をAIと認定し審査しているかの記載も書かれていなかったことも問題となります。

審査基準を明かすこと、どのような理由で作品にAIを使っているかという判断を行っているか公表することは、防犯上の問題(AI作品を売りたい側からすれば偽装の参考になる)から、表記しないということにはある程度理解が出来ます。
一方で、AI審査を行う際に、資料の提出などを求められることが規約に記載がないのは大きな問題となります。
事前に資料の準備を行っていなければ、AI疑惑を晴らすことができない可能性があり、サービス利用者に著しく不利益をもたらす可能性があるためです。
実際、今回AI疑惑でモデルの販売が出来なくなったことを告発した方は、資料の提出が出来なかったことを理由に審査を通らなかったことになります。
このことについては中条氏は不備を認めており、ポスト上で以下のように発言されています。

審査においては、前述のポリシーのもと、PSD提出をお願いし、協力いただけない場合、投稿不可とする場合があることなどを事前にアナウンスするなど、今後改善できる点はしていきたいと思います。

引用:https://x.com/nakajoo/status/1715309292281352562

事前にアナウンスをしていなかったというのは大きな問題で、利用規約などに記載がなかった以上、景品表示法に違反する恐れがあります
景品表示法は消費者・サービス利用者を保護するための法律です。
記載がない重要事項などが存在した場合は、法令に違反する可能性もあるということです。
問題がある場合は消費者庁、あるいは弁護士を通して法的な解決が必要になる場合があります。
景品表示法は過去に公正取引委員会で扱っていた関係上、公正取引委委員会にも相談窓口があります。

消費者庁には被害にあったと思った人のためのホットラインがあり、電話相談が可能な他、様々な分野ごとに相談窓口が作られています。
今回のようなケースは消費者庁の取引デジタルプラットフォームを利用する消費者向けの窓口があるため、そちらに問い合わせを行うのも方法でしょう。

ただ、この窓口はあくまで消費者の利益が害されるおそれがあると認める場合に、適当な措置をとるべきことを求めるためのもので、申出人の抱える個別のトラブルを解決することを目的としたものではありません。
個別のトラブルの仲介・斡旋等については、消費生活センターに相談することになります。
消費生活センターの連絡先も上記の消費者庁のページに記載がありますので、参考にして下さい(イタズラ電話などを避けるため、記事内の記載は避けます)

その他の問題

中条氏の発言(声明)とnizimaサイト上の表記で主に問題となるのは、上記の二つと思われます。
他にも問題があるのではと思われる点(明確な基準がなく、AI審査のポリシーだけが先行し、ヒューマンエラーの原因になっていないか? 仮に問題が起こった場合に客観的な対応をできるだけの余裕や、外部監査などを入れるといった体制は存在するか? 法令を順守し、企業倫理を守るための教育や、マニュアルの作成が追いついているか? 赤字であってもAIからクリエイターを守りたいという理想が、現場にプレッシャーを与え、本末転倒な結果を招いていないか? など)はありますが、X上で寄せられた意見を参考に、社内で改善を図っていくという発言も出ていますので脇に置きます。

AIの権利侵害からクリエイターを守りたいという中条氏の声明には共感できるものがある一方、そのために利用した論法・手段に疑義が生じている状態というのが、正直な感想です。
健全な市場を育てるという意味でも、本来守るべきクリエイターの権利から
見直しを行い、一律の対応が本当に正しいのかを検討していただきたいと思います。

公式サイトでの声明は対応待ち

nizimaで問題があると思われる点を挙げてきましたが、ほとんどの情報はX上で流れている状態で、記事執筆時点(2023/10/24)でnizima公式サイトでの声明・公式発表・規約の改定などは確認できません。
現状AIを利用した作品だと疑われた場合は、統合前のPSDが求められる可能性があります。
中条氏は「改善を行う」という声明をX上で行っているため、すでに対応を変えているかもしれませんが……
今後どうなるかはわからない状況ですので、実際にnizimaを利用される場合は公式の発表を待つか、十分な注意をお願いいたします。

なお、私個人としてはすでに公正取引委員会に独占禁止法違反・あるいは景表法違反の疑いがないか、調査を依頼しています。
実際に問題があるか判断するのは公的機関となるため、私見は差し控えます。
問題がなければ何もないという結果が出て、問題があれば注意や勧告などが行われるはずです。
それよりも先に、nizima側が対応の見直し、状況の改善、救済措置などを行う可能性もありますので、この記事をもとに安易な批判や誹謗中傷、個人・企業を問わずに名誉を棄損するような発言・情報発信は控えていただくよう、お願いいたします。

困ったときの相談窓口

情報の整理及び、問題点の指摘を行ってきましたが、各所で記載をしてきたように、自分がトラブルにあったときに相談できる窓口・公的機関があるということを知っておくのは重要です。
万が一のための実用情報として各種窓口の情報・リンクの記載をしていきます。

公正取引委員会

企業と企業、企業と雇用者など、公正な取引を行えるよう、様々な取り組みを行っています。
直近の出来事であれば、インボイスを導入を機に消費税分の負担を免税事業者に要求し、独占禁止法違反につながる恐れがあるとして、注意を行った事例などもあります。

下請け業者やフリーランスが不当な扱いを受けないための下請け法などの通報も可能ですので、自分が不当な扱いを受けていると思った場合の相談窓口の一つとなります。

消費者庁

サイト上の記載がない契約や、誤認を促すような内容であった場合に相談できるのが消費者庁です。
デジタルプラットフォームに関連する相談なども受け付けているので、おかしいと思う案件があったら消費者庁も問い合わせ先に入ってきます。

消費者ホットライン

消費者庁が企業の規約の問題や、過大な広告・誤解を招く表現の問題などを取り扱うのに対し、個人での被害などを報告する窓口は消費者ホットラインになります。
全国に拠点がありますが、ホットラインとしてつながる電話番号は共通です。
運営は独立行政法人国民生活センターで、公式サイトから実際に起きているトラブルや、過去の事例なども知ることができます。

各種労働組合

フリーランス、クリエイターが参加できる労働組合も存在します。

代表的な存在として出版ネッツを紹介しますが、出版ネッツはフリーランスとして働く編集者、ライター、校正者、デザイナー、イラストレーターなど、出版関係者で構成される労働組合です。

不当な差別や、労働基準法、下請法違反が疑われる問題に対し、個人ではなく団体として向き合ってくれます。

労働組合から出された団体交渉に対し、企業は法律上応じる義務が生じるのが特徴です。
団体交渉を正当な理由なく拒否した場合は『不当労働行為』とされ、民法上の損害賠償責任を負う可能性を負うほか、救済措置も行わなかった場合は過料(いわゆる罰金)の支払いや、内容によっては禁固刑を受ける可能性があります。
他にも都道府県や業種単位で労働組合(ユニオン)が存在する場合があるので、一人で解決できない問題で悩んでいる場合は自分が所属できる労働組合がないか確認し、問い合わせてみるのもおすすめです。
一例として、東京ユニオンも紹介しておきます。

法テラス

法律相談や弁護士紹介を行ってくれるのが法テラスです。
公正取引委員会や消費者庁に問題を報告しても、企業側の制度の改善指示などが行われるだけで、個人の被害が救済されるとは限らないことに注意が必要です。
経済的な損失などを受けた場合は労働組合経由で団体交渉をしたり、弁護士経由で損害賠償請求を行うなど、企業側の責任を追及する方法もあります。
法テラスには『弁護士費用を立て替えて貰える制度』などもあるので、手持ちのお金はないけど弁護士を雇いたい! といった問題にも対応できる場合があります。

あくまで費用の立替で、条件付き、返済が必要な点には注意が必要です。

最後に

状況、状態は常に変化していくものであり、この記事も公開してすぐに古い情報になる可能性があります。
自分で調べ、現状を確認することは、変化が早い現代社会では当たり前のように求められることになります。
トラブルはいつ、だれに、どのように降りかかるかわかりませんので、ある程度は自衛する意識をもって動いていただくようにお願いいたします。
特に、クリエイター、フリーランスは身を守る知識が重要になりますので、ご安全に。

2023/10/25 14:28追記

依頼を受けてと記載がありますが、金銭の授受は行っておらず、あくまで非営利、個別のお願いとして記事の作成を行っています。

サムネイル画像:写真AC


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